宝石泥棒は恋敵(6)
ノックの音も無く兵士達がなだれ込んできた。
「やれやれ、お仕置きは軍隊に任せますか」
そう言うとアレクの姿が消えた、今度は目で追うことが出来た、魔族が開けた窓へ一瞬で移動し脱出した。
「待ってください!」
サンドラが後を追った。
僕達は残された魔族ブロッケンを囲む、トロアさんが手錠を取り出し腕にかけた。
「鎖を固定したいのだが、どこか良い場所はあるかな」
良い場所と言われても、柱は太く届きそうに無い。
「おじいちゃん、逃げて!魔法が切れるよ」
トロアさんを突き飛ばし、ブロッケンは窓へ走り出す。1本の矢が太股に刺さったが構わず外へと飛び出した。
「流石パパ、血を目印に後を追うよ」
「ショウ君達は警備を続けて、私とエミリで追う」
「弓を返すよ、こっちはパパがいれば十分だ」
アグレイさんとエミリさんが魔族を追い外へ出た。
「イテテテ、アレクも魔族も逃がしたか」
「すみません、僕の考えがあまっかったです」
「まさか魔族がアレクの名を語っていたとは、最近アレクの事件が多い訳じゃな」
トロアさんは倒れただけで、怪我は無かった。
僕はリコの様子を確認した、掴まれた腕がアザになっている以外、大きな怪我は無さそうだった。
「リコ、大丈夫?他に痛い所は無い?」
「うん、恐かったよ」
「ごめんね、回復薬あるから、傷は直ぐに治るよ」
リコに回復薬を渡し、駆けつけた兵士達に事情を説明した。
割れた窓から流れて来る夜風の心地良さが、僕の両手を震えさせた。
東の空が明るくなる頃、職人達が窓の修理を急いでいた。
今日の戴冠式で、窓が壊れててすみませんは国家の恥。トロアさんも手伝いながら作業が進んで行く。魔技師は器用なのかトロアさんの手際は職人以上だ。
「明るくなっって来たし、サンドラを探そうよ」
「ああ、そうだな。手分けして探そうぜ」
「必ず、3人で行動しなさい、アグレイ殿が追っているが、奴1人とは限らんから」
「はい、わかりました」
「じゃ、私も行く」
僕とヴァン、ルキアで行く事にした。
「ルキア、風の守りを掛けてよ」
「もしかして、根に持ってる?」
「違うよ、正式な名前を知らないから」
「行動強化魔法だよ、反対の効果が行動拘束魔法、私はまだ出来ないけど」
「じゃあ、アレクの方がスゲェって事?」
「そうだね。行動強化も目に見えない速さになってたし」
修理中の窓の間を通らせてもらい、魔族の血痕を探す。
隣の屋根に血痕がある、屋根を飛び移って城壁を越えたようだ。血痕を追って屋根から城壁に飛び移る、ルキアの魔法も十分な効果があり、普通でない跳躍力だ。
「ブロッケンって魔族はここから城壁を越えたのかな」
「多分そうだね、アレクはどこから・・・あれ?」
「戻って来ちゃったね、なんでジャンプ力凄いの魔法かかってる?」
「足が速くなる魔導具おかげだよ」
「あの変なブーツが・・・」
サンドラは自分で帰ってきた。
暗い間は無駄に動かず、明るくなったので帰って来たのだろう。
「おーい!サンドラ」
ヴァンの声を無視して、サンドラは玉座の間へ入って行った。しかし、直ぐに外に出てきて、城壁を跳び越えて走り去った。
僕達は『?』って感じのまま、サンドラの行動を見ていた。
「おーい!サンドラを追うのだ。奴は裏切って、ティアラを持って逃げた!」
慌ててサンドラを追いかけた。
魔法の効果で僕達の走りは速くなっているが、サンドラも魔道具の効果で走りが速く差が縮まらない。
「ルキア、行動強化魔法の効果時間は?」
「追加詠唱してるから、私が近くにいれば切れないよ、離れると直ぐに切れちゃうけど」
「・・・・・直ぐってどれくらい?」
「えーと、10分かな」
「僕は下から行くから、2人はこのまま追って」
「了解」
屋根を飛び移るより、地上を走った方が速い。
この先の2重目の城壁は高く、飛び越える為には高い建物に登らなくてはならない。サンドラが向かう建物は限定される。
『10分か、10分って、1分が60秒、あれ?』
この世界に来てから1年以上、時計のない生活をして『分』とか気にしてないので、細かい時間の感覚がない。
『なんだかんだで、こっちの生活に馴染んでるんだな』
2重目の城壁の近くで高い屋根の建物、僕は弓を構え飛び移る瞬間を待つ。
『ごめんよサンドラ、回復薬はあるからね』
僕はサンドラの足を狙い、矢を放った。
空中で体勢を崩したサンドラは城壁にぶつかり落下した。僕は風魔法で上昇気流を起こし、落下の衝撃を弱くした。
『前にやった時より上手く出来たな』
ヴァンとルキアも合流して、倒れているサンドラに駆け寄る。
「サンドラ、どうしてティアラを盗んだ、ショウが作ってるとこ、見ただろう」
「!ヴァン気を付けろ、サンドラじゃない」
「!?」
サンドラ?は短剣でヴァンを攻撃した。
ヴァンは剣の鞘で攻撃を防ぎ、素早く剣を抜き相手の短剣を叩き落とした。あまりの速さに驚きながら、僕は剣を抜きヴァンと相手を挟む位置に立った。
「無駄な抵抗はやめろ、サン・・、いや、誰だ、お前」
「見た目はサンドラちゃんだよ」
「変身魔法だろ、ドラゴンが使ってたヤツ」
サンドラ?は城壁を背にして、矢が刺さった足を気にしながら、ゆっくりと立ち上がった。
「ごめんね、ヴァン、私・・・」
「騙されるか!正体を現せ!」
「変身魔法って、声もそっくりになるの?」
「知らねーけど、サンドラが俺を攻撃する訳ねーよ」
「それにティアラを盗む必要もないよ」
「ちょっと2人とも、落ち着いてよ」
辺りが徐々に明るくなる、日の出の時間だ。
風が強くなり、ヒューヒューっと音が鳴る。
「やれやれ、女性には優しく丁寧に」
「!誰だ」
ルキアの後にアレクが立っていた。




