ドラゴン襲来(5)
「なるほど、人間が魔物を飼育する。馬とは違い、食料専用」
「食べられる為に産まれる。哀れだな」
「狩りで食料になる、結果はさほど変わらない」
リゲル、ドグス、ワールン、エルフの姿をした3体のドラゴンは、人間の事情を理解してくれた。
食事をしながら話しをしていると、酒場の周りに人が集まりザワザワしている。
「なんか、騒がしいな」
「エルフが珍しいのと、ドラゴンの群から生きて戻ったからだろ」
テルの予想に僕は後者だと思う。
エルフ語が話せるのは僕だけなので、他の4人はする事がない。食事も朝食を食べたので進でいない。
「我々は人間に危害は加えていない。家畜の件は、いま知った」
「戦いを挑んだ人間が、黒こげにされたと聞きました」
「いや、我々に近づいた人間は君達が始めてだ」
デマだったようだ。
リゲルさんが代表して話しをしている。
実際、話しをしていると、知的で紳士的だと分かる。人間の料理は口に合ったようで、かなりの量を食べている。
「人間達の意見には配慮しよう。後から来る仲間にも伝える」
「え、あと何体ですか?」
「その都度、数は違うが30~40だな」
「あと何日、滞在されますか?」
「決まっていないが、1シーズンだ」
「夏ごろ帰られるんですね」
「おっと、人間の感覚だと、寒くなるまでだ」
よかった、それでも長くはない。
仲間達に通訳すると、みんな滞在が長いと言っていた。
「人間達に配慮はする。そちらも配慮して欲しい」
「なんでしょう」
「食料だ」
「?」
「この地に元々いた『ラインパ』がいなくなっている。我々の食料だった」
ラインパは鹿の魔物で多くの群がこの土地にいたらしい。
竜族は100年に1度この土地に集まる為、長い歳月の間に住んでいる魔物が変わる事はよくある。家畜を野生の魔物と思ったのもその為で、代替の食料を用意すれば問題は解決する。
「フォルラビットはどうでしょう。もう少し南に行けば、たくさんいますよ」
「あの素早く穴に逃げるウサギか、我らが狩るには難しい」
「変身して人間と同じ食事をするのはどうでしょう」
「変身能力は誰でも使える能力ではない、特に若い竜族は体得していない者が多い」
ここに来ている竜族は若者が多い。
竜族は単独で生活する為、定期的に集まる場所を決めている。しかし、歳を取るとナワバリから離れなくなり、いつしか集合場所を忘れてしまう。
「100年に1度を忘れない方がすごいですよ」
「まぁ、若者にとっては大切な集まりだ」
「そうですか・・・」
人間がフォルラビットを捕まえて・・・うーん。
50体ものドラゴンの胃袋を満たすとなると、相当の人手が必要だ。
「すみません、町の人と相談して、後日報告します」
「構わない、この地は元々、我々が使っている土地だ。それを忘れないでくれ」
「はい、おっしゃる通りです」
リゲルさん達は牧草地へ帰って行った。
野生の魔物で竜族に狩りやすい、サイズが小さいと・・・何にせよ町の代表者と相談しなければならない。
「君達、さっきのエルフはドラゴンの仲間かい?」
中年の男性が話しかけてきた。
背が低く小太りで、まだ涼しい季節なのに汗をかいている。
「ドラゴンと家畜の件で交渉してまして、その仲介役、みたいな感じです」
「で、ドラゴンは出て行ってくれるのか?」
中年の男性の名前はマルクさん、牧場経営者の代表をしている人だった。
僕は交渉の内容を話した。特に、この土地は元々ドラゴンの土地だと、強調して話しをした。
「それは無理だよ、なんとか出て行く方向にしてくれ」
「それは無理です。元々ドラゴンの土地ですから」
「君は交渉の意味が分ってないのか、私達が苦労して開拓した土地だぞ」
「竜族は既に人間に配慮しています。町が襲われてないでしょ、食料の問題だけ解決できれば、冬になったら出て行きますよ」
「君はドラゴンの味方なのか?こうなったら討伐隊!君達がドラゴンを追い払ってくれ」
4人共、無理無理のジェスチャーをしている。
「今までタダ飯、タダ酒を飲んで、仕事をしない気か!」
マルクさんの顔が赤くなっていく。
酒場の店主が煙たい顔をした理由は『また討伐隊が来た』だった。
「『ラインパ』と言う魔物はご存知ですか?」
「あぁ、ラインパか、以前はよく狩りに行った、今は数が減っている」
ラインパは牧草を食べる為、害獣として、また初期の牧場経営者の食料として、乱獲されて数が減ったらしい。
今、数が増えているフォルラビットを害獣として・・・素早い穴掘りウサギ・・・ワナをしかけたら・・・。
《グオオオォォォー!》
遠くで雄叫びが聞こえた。
《グオオオォォォー!》
「おい!ドラゴンが暴れてるぞ!」
町の人の声に全員、慌てて外に出る。
人だかりを掻き分け牧草地を見ると、竜族の群の中に赤いドラゴンが見えた。
赤いドラゴンは竜族の倍以上の大きさで、地上の竜族を腕で弾き飛ばし、空中の竜族に炎を吐いて攻撃している。
「どうなってんだ」
「赤い奴、圧倒的に強いぞ」
「・・・・・行こう!」
「え?!」
「竜族を援護しないと!」
僕は酒場に置いた弓を取り、竜族の元に向かおうとした。
「ショウちゃん、待って」
むぎゅ!
ルキアが僕の顔面をつかんだ。
「ショウちゃん、『水の守り』をかけたから、火に強くなるよ」
「ありがとう、ルキア!」
「過信しちゃ、ダメだよ」
僕は竜族の元に走る。
赤いドラゴンは竜族をなぎ払うように、腕や尾を振り回している。竜族も敵を囲み攻撃を仕掛けているが、攻撃が効いていないのか赤いドラゴンが圧倒的な強さを見せている。
「ショウ君、待っ・・・足速い・・・」
「私の魔法だよ」
「『水の守り』の効果なの?」
「そんな魔法、知らない」
「え?!」
「私がかけた魔法は、足が速くなる魔法」
「なんで?・・・そんな」
「いかに強力な攻撃も当たらなければ意味が無いのだよ。それに早く行かないと竜ちゃん全滅しちゃうよ」
「そうだ、私達も行かないと」
「私は後で行く、戦いが終わったら、回復魔法がいるでしょ」
「・・・・・、男子達!行くよ!」
「あ・・・あぁ」




