トシノハジメ(1)
冬は嫌いだ、特に朝。
顔を洗う直前に一日分の勇気を消費してしまう。
いつでも蛇口からお湯が出る生活をしていた、あの頃が懐かしい。
「ショウちゃんの国では、どんな新年のお祝いをするのかしら」
「お雑煮やおせち料理とか、正月料理を家族で食べます」
「正月ってなんだ」
「新年の事です。暦が最初に戻る意味、かな」
この国では、大晦日の夜に新年祭が開かれ、元日の朝日が昇るまで飲めや踊れの宴が行なわれる。
夫婦や恋人と参加するのが一般的で、相方がいないとクリボッチ状態になる。
「ショウちゃんは、リコちゃんと行くの?」
「いえ、僕は行かないです」
「あら、家族公認なんだから、誘っておやりなさい」
「私達は行かないぞ、エルフはエルフの新年の祝い方がある」
「出来れば、そちらに参加したいです」
「ごめんなさい、そこは駄目なのよ」
「人間は人間、エルフはエルフ、悪く思わないでくれ」
困った事になった。
リコちゃんはポルトトの事件以来、僕に好意を持っている。両親の好感も高いので、誘えば来てくれると思う。
しかし、相手は13歳の少女、ポルトトでも話しが続かなかった。
体は15歳でも心は32歳のままだ、冷静に考えたら娘でもおかしくない。最近、精神的につらい事が多い。
大晦日の夜は部屋で本を読んで過ごそう。
「こんばんは、お迎えに来ました」
「ショウさん!誘ってくれて、ありがとう」
「ショウ君、あまり遅くならないように、頼むよ」
「はい、ご心配なく」
周りの人達から尻を叩かれ、リコちゃんと新年祭に行くことになった。
化粧をしているのか、普段より大人びた雰囲気だ。
会場は船着場、普段は人や交易品、荷車などで混み合う場所だが、今日はダンス会場に変わっていた。
隣接する市場は料理や酒を販売している。
「まずは、何を食べようか」
「冬は干し肉か塩漬けの魚しかないですよ」
「料理しだいで、美味しくなるかなって」
「毎年、同じですよ」
早くもボロが出る予感。
市場は人も多く、かがり火が焚かれているので、あまり寒くない。恋人同士が多いため、気温が高くなっているかもしれない。
「リコ!」
「あ!ナタリー!」
リコちゃんの友達があらわれた。
「彼氏、出来たんだ」
「お隣の薬局で働いてるの」
「すごい!頭いいんだ」
リコちゃんは彼氏を否定しない。
「いいな、私はお兄ちゃんとだよ」
「ナタリーも彼氏、見付けなよ」
「私ね、結婚相手が決まったの、来年、成人したら・・・」
「そうなんだ」
この国では、親同士が結婚相手を決めるのが一般的らしい。
「最後の新年祭だから、ディックに誘って欲しかったけど」
「最後って、よその町に行くの?」
「スメロミアって町、知ってる?」
「知らない、ショウさん知ってる?」
「知らないな」
会った事も無い相手と結婚するなんて、しかも知らない町へと嫁ぐなんて、不安や心配などでは語れない。
その後、お兄さんが迎えに来てわかれた。リコちゃんは少し落ち込んだ様子だ。
「星が綺麗ですね」
「綺麗だけど、風が出てきたよ」
祭り会場から少し離れた桟橋の上、一定の間隔を置きながら恋人達が語り合っている。リコちゃんは寒いねと言って、僕の膝の上に座っている。
寒さは2人の距離を縮める、僕は彼女を後から抱きしめている。
「私も成人までに、結婚相手を決められるのかな」
「・・・・・」
「ショウさんは薬剤師だよね」
「うーん、他にもやりたい事があるんだ」
「なに?」
「秘密」
「ずるーい」
この世界に来た時に、与えられた目標が大きく変わり、仲間との合流よりも先に、王都で僕達を製造した錬金術師に会ってみたいと思うようになってきた。
この秘密をリコちゃんに話すわけにはいかない。
「ショウさんが羨ましい」
「どうして?」
「将来を自分で決められるもん」
「それは、それで、大変だよ」
やりたい事が上手く行くとは限らないけど、やらずに後悔したくない。
僕ってこんなに行動的な人間だったかな。そもそも今の状況が、がらじゃない。この世界に来て自分に大きな変化が起こっているのかもしれない。
「そろそろ、帰ろうか」
「もう少し、このままでいたい」
僕は彼女を強く抱きしめた。
新年はどこの店も休みだ。しかし、『魔女の薬』は営業している。
新年祭で無理をした人達が、薬を買いに来る。真冬に長時間外にいれば、体調を崩して当然だ。
「ショウちゃんは、見た目より丈夫な子ね」
「風邪をひくと、思ってたんですか」
「新年祭の日は毎年、冷え込むのよ」
「丈夫な体に作ってくれた、製作者に感謝です」
「それ、笑っていいのか?」
「色々と受け入れる覚悟が決まったかな、なんとなくですけど」
「そう、素敵ね」
その日の夜、セシリアさんが僕とエミリさんに手紙を見せた。
『学術研究会 新年総会案内状』『王国軍 任務依頼書 冒険者ショウ殿』
「学術研究会はエミリに私の代理で行ってもらうわ」
「ママ、私は」
「次に、ショウちゃんの依頼は、王国軍の訓練場にあるダンジョンの調査依頼よ」
「ダンジョンの調査ですか」
「怪しいな」
「そう、だから放置の予定だったの」
王都にある軍の訓練場の中にダンジョンがある。
主に兵士の実戦訓練に使用されている。調査をするなら兵士を使えばいい、冒険者に依頼する必要は皆無だ。
『僕の精神状態を考えて、対処してくれている、セシリアさんに感謝です』
「明らかに、ショウちゃんの性能調査が目的だわ」
「他の仲間も呼ばれてますか?」
「依頼書の内容だと、複数の冒険者に依頼しているわ」
「内容を読んでから、返事をしてもいいですか?」
「もちろんよ、日程は学術研究会と同じだから、そのつもりで」
依頼書を読まなくても、答えが出てしまった。
性能調査と研究発表、新商品の紹介をまとめて行な予定だろう。
まるで新型ロボット扱いだな。




