アルストリア(5)
万物は(火、水、風、土)の四大属性から構成されている。
四大属性を掛け合わせると(木、金)などの物質が作られる。
「錬金術は四大属性を使って、物質を作り出す技なの」
「洞窟で私が矢を作ったろ、簡単な構造なら、その場で形にできる」
「錬金術は、金属を作る研究者が多いけど、生物を作る事もできるわ」
生物などの複雑な構造を作るには、高度な技術が必要だが、数百年前に小さな人型の生物を作る事に成功している。
「ホムンクルスは小人という意味なの、人間の大きさを作るためには、それに合わせた大きな装置が必要よ」
「ショウ!落ち着け!どんなことがあっても、ショウはショウだ!」
僕は話しを理解していた。
幾何学模様が書かれた床、丸坊主の頭、若返った体、ヒゲやスネ毛の無い綺麗な肌、セシリアさんの説明は、すべて合点がいく。人造人間・・・・・
「ショウちゃん、ごめんなさい、もっと、やわらかく伝えるべきだったわ」
「悪くないぞショウ、顔だって、体だって、私は、好きだぞ」
「・・・・・人造人間は、何年、生きられるんですか?」
「記録が少ないわ、でもね」
セシリアさんは、別の本を取り出した。これは読める。
『魔王ベルセデムと5人の小人』 著H・Aフリング
「この本は、300年前の魔族軍との戦争を、題材にした小説よ」
「歴史小説ですか?」
「そうよ、小人達の活躍が脚色されてるけど、概ね歴史どおりよ」
王国軍と魔族軍との戦争は、魔族軍が圧倒的に有利だった。
起死回生を狙い、魔王を倒すため、数多くの勇者が挑戦した。
しかし、誰も帰って来なかった。
そこで、国王は5人の小人に依頼をする。
小人達は体の特徴を生かして、魔王城にしのび込む。
そして、火山の火口に魔王をおびき寄せ、突き落とし、
めでたしめでたし
「魔王の倒し方、荒っぽいですね」
「子供の頃は、興奮して読んでいた、名作だ」
「すみません、この名作に人造人間が?」
「ホムンクルスは小人、という意味よ」
「なるほど、国王の命令で5人の小人を作り、火山に魔王を突き落とた」
「いい勘してるわね、正確には火山に落としたのは、魔導具よ」
王国軍と魔族軍との戦争は、魔族軍が圧倒的に有利だった。
エルフやドワーフの軍隊も共闘したが、かなわなかった。
起死回生を狙い、魔族の領土にある、死の山を噴火させる作戦が提案された。
敵の懐に入る危険な任務を志願する者はいなかった。
そこで、王国軍は5人のホムンクルスを作り、任務を決行する記憶を移した。
小人達は体の特徴を生かして、死の山の火口に魔導具を落とし噴火させた。
火山の噴火で魔族は戦争どころではなくなり、停戦。
「火山の噴火に巻き込まれて、死を待つ5人を哀れに思ったドラゴンが、空から彼らを救ったの。その後、5人は勇者と称えられ、幸せに暮らしました。
これが正しい歴史よ」
「普通の人間は、小人族が火山に魔王を突き落とた、と信じている。物語としては面白いが、国家によって歴史の一部が変えられているんだ」
「この話は人にしてはだめよ」
なんだか、人間の代わりに危険な仕事をする、ロボットのイメージがわいて来た。ロボットに心があれば、考えると切なくなる。
「小人達のその後は、その本のあとがきに詳しく書いてあるわ」
「そうですか、後で読みます。それと、僕が魔王を倒すために、召喚されたなら、記憶を移す必要がないと思います」
「そこなんだが、今は停戦中だし、魔王ベルセデムは失脚して、権力争いの最中、つまり、魔王がいないんだ」
「・・・へ?」
この世界に召喚された時から、救世主、英雄、使命、様々な表現で、勇者と持ち上げられ、その気になっていた。
すべては国家の陰謀、だとしたら、なぜ記憶を移したのか。
「ここからは、考察するしかないけど、私は実証実験だと思うの」
「実証?」
「ホムンクルスに記憶を移す技術は、誰に必要とされていると思う?」
「・・・・・わかりません」
「ママ、それって、まさか」
「新しい体に、記憶を移せたら、いつまでも若い体でいられるわ」
「老人」
「そうよ、特に長年研究をしている学者にとっては、重要な技術だわ」
「エルフには理解できない話しだな」
「それだと、なぜ魔王を倒せなんて言ったんでしょう」
「冒険者ギルドの管理は王国軍がしているの、有事の時、冒険者ギルドから傭兵を集めるためよ」
「そうか、冒険者ギルドからショウの、レベルやスキルの報告が入る、総合能力値の証明書の有効期限は6ヶ月だから、放置してても情報は入る」
急に仲間の事が気になった。
王都の学者達や軍隊に、利用されているとしたら、なんのために苦労しているのか分らない。
「アルスウエストにいる、仲間にも伝えた方がいいですか」
「やめた方がいいわ、1人なら軍も動かないけど」
「・・・・・」
「この国では、国家反逆罪は絞首刑だ」
「・・・・・手紙を、書きました」
「出したのか?」
「まだです、今日は雨だったので、馬車のおじさんが、やめとけって」
「ここの場所を書いても、問題ないわ、でも、今日の話しは書いてはだめよ」
「異世界の文字なので、読めないと思います」
「やめなさい、暗号で伝えたと判断されたら厄介だわ」
手紙については明日、問題のない文章をセシリアさんが書く事になった。
僕は部屋に戻り、ベッドに仰向けに寝た。
自分の置かれている状況が、大きな組織の力によって、管理されているとしたら、考えても結論が出ないまま、夜が明け始めていた。




