アルストリア(6)
「ひどい顔だな」
「すみません、眠れなくて」
「昨日の話しの後だ、仕方がない」
早朝からハーブ畑で作業をする。
作業を終えて、薬局に戻ると手紙が出来ていた。
「はい、これで良いです」
「あとは、冒険者ギルドに出すだけね」
「でも、この店の事、書いても良いんですか」
「大丈夫よ」
「国から目を付けられるとか」
「大丈夫よ」
「ショウ、ママは昔から目を付けられている」
「秘密よ」
エルフの昔は、どのくらい昔なんだろう。
セシリアさんは薬剤師で錬金術師、どちらも大きな問題を起こしそうな職業だ。
「冒険者ギルドに案内するよ、近くに人気の店があるんだ」
「総合能力値の証明書も持って行きなさい、登録が速くできるわ」
「ありがとうございます」
「エミリ、久しぶりのスカートだから転んじゃだめよ」
「いってきます」
冒険者ギルドは船着場の近く、商工ギルドの端にある。
この町は商業と工業が盛んなため、冒険者は少ない。しかし、輸送の時の用心棒などの仕事がある為、小さくても冒険者ギルドは必要だ。
「ギルド登録にきました、これが証明書です」
「あ、はいはい、アルスウエストの証明書ですね」
「あと、手紙を出します」
「あ、はいはい、手紙ですね、えっと、10Sかな」
頼りない感じの受付の男性に不安が強くなる。
冒険者ギルドに登録すると、僕の情報が王国軍に伝わる。
セシリアさんは下手に隠すと余計な疑いが出るから、登録するようすすめた。
「では、本人確認をします。この円の中に手を置いてください」
「はい」
「あれ?君って、薬局で働いてる?」
「そうです、見習いとして」
「やっぱり、見たことあると思ったよ」
「どうも」
ただの世間話のはずなのに、不安が強くなる。
「では、登録が完了しました。証明書お返しします」
「手紙はいつ頃、届きますか?」
「たぶん、10日前後かな」
「そうですか、よろしくお願いします」
「頑張って、良い薬剤師になってください」
「いえ、僕は錬金術師見習いです」
結局、郵便代金は12Sだった、単純な間違いだが、損をした気分になる。
エミリさんおすすめの店は、商工ギルドの裏通りにある、若者に人気のお店だ。
内臓を取っただけの川魚を素揚げにして、それを皿に敷いたハーブの上に豪快に盛り付けた料理で、胃もたれを知らない若者が、行列を作っている。
「ショウ!こっちだ」
「昼を過ぎても、すごい行列ですね」
「並ばないと、食材が無くなったら、閉店だ」
「あの、薬局は大丈夫ですか?」
「どうせ、暇だから、ママがいれば大丈夫」
「やっぱり、お客さん、少ないですよね」
「経営の心配は要らない・・・耳かせ」
「え?」
『スケベなおじさんの、あっちが元気になる薬が売れている』
「!なるほど!」
「そういう薬は配達する、だから早く町を覚えてくれ」
『この店のオーナーも常連さんだ』
「わかりました」
食事は思っていたとおり、寝不足の体には重く、食べている間にも胃もたれを起こしそうだった。
「昨日の本は、読んだか?」
「はい、眠れなくて、全部読みました」
「あとがきの、小人の話しは、どう思う?」
「そうですね・・・」
魔王を倒した小人は、王様から報酬をもらった後、それぞれの人生に旅立った。
冒険の旅に出かけた者
旅の途中で知り合った女性と結婚した者
王様に仕えた者
商人になり金持ちになった者
「エルフと共に不死の国に旅立った者・・・王様以外はどれも、素敵かな」
「旅に出たいと、思っているのか?」
「不死の国?死なないって、理解できないですよ」
「時々、すごく退屈になる、死にたいほど」
「・・・・・」
「すまん、変な話しになった、将来、どんな生き方をしたいかだ」
「そうですね・・・まずは錬金術を学んでから決めます」
「だったら、化学と数学スキルが50以上じゃないと、お話しにならない」
「化学と数学スキルは80ありますよ」
「なんだと!」
総合能力値の証明書を見て不機嫌になったエミリさんと店を出た。
町を案内してもらいながら、お得意様の家を教えてもらう。
「どの家も立派ですね」
「ここは仕事場だ、家は郊外に豪邸を建てている」
「家に届けないんですか」
「家に届けたら、嫁にばれる」
「!なるほど!」
薬局に戻り、僕は店番をする。来店客はまばらなので、掃除が仕事だ。
薬の配達は夜に行うが、1ヶ月分をまとめて配達するため、月に数回だ。薬屋の出入りが多いと、怪しまれるらしい。
「あら、初めてにしてはとても上手よ、器用ね」
「力の加減が難しいですね」
「結晶はもろいから、そっとよ」
今夜から、調剤を教わる。エミリさんはまだ不機嫌なまま。
錬金術には、薬品の知識が必要なので、まずは化学反応させた物質を水に溶かし、結晶化させ取り出し純度を上げる。
理科の実験みたいで楽しい。
「結晶の形と色で、化合物の種類を判断するの」
「たくさん、ありますね」
「すべて覚えないと、お話しにならないわ」
寝不足で集中できない、覚えも悪く、初日の作業は悪戦苦闘だった。
初心者にしては上出来と、セシリアさんは褒めて伸ばす教え方で、苦戦する僕を励ましてくれた。
日々の仕事と勉強、本格的に修行が始まった。




