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3-4

 そのやぐらは、ちょうど三人入れるスペースがあった。

 マーティンは、部下二人に外界を調査するふりをさせて、自分はモラードの別宅に双眼鏡を向けた。

「う~ん、クイはいないな~。」

 モラードの別宅は、思ったより近かった。

 十分、肉眼でも、人の区別が出来る。

「建物の中かな?」

 あちこち見まわして、マーティンは、

「あ!」

と声を上げた。

「隊長? どうしました?」

「うん、目が合った。」

「? クイ姫と、ですか?」

「いや、デノビア軍将とだ。」

 双眼鏡を下げてみると、見張り台のレオが、こちらを指差している。

 昨日は、見張り台なんてなかったのに。

「貴様~! 何をしている!?」

 まさか、こんなに早く見つかってしまうとは。

 マーティンは仕方なく、大声でレオに応えた。

「覗きだ! 何か文句あるか~?!」

「何だと!!」

 クイに騒ぎを起こさせる予定が、いつの間にマーティンが騒ぎを起こしている。

「貴様~! そこで待っていろよ~! 引きずり降ろしてやる!」

 レオが見張り台から降りようとしたそのとき、

「隊長。」

と、服を引っ張られた。

「ん? どうした?」

 振り返ると、部下の一人が外界を指差している。

「あれを……。」

「?」

 双眼鏡をのぞいてみると、荒野の向こうに何かが見える。

 少しずつ大きくなる砂塵。

「ん? 魔獣の群れの襲来か?!」

 確認できるだけでも、五、六頭。

「おい、ジルベニア軍将に報告だ。」

「いえ、待ってください! 何か乗ってます!」

 よく目を凝らすと、先頭の魔獣の上に黒い点が見える。

「魔獣?」

「いや、人です。手を振ってます!」

 じんわりと状況が染み込んでくる。

 そういえば、クイには、「魔獣乗りのクイ」とかいう異名があったような。

「……あ、あいつか? あいつなのか?」

 信じられないが、徐々にクイらしさが見えてくる。

「……こ、こんなこともできるのか。……あいつ、ちょっとした兵器だな。」

 ちらりとレオを見ると、レオも双眼鏡を外界に向けたまま、あまりに出来事に固まっている。

 まあ、これはこれで、形勢逆転。

 マーティンは、大きく息を吸い込んだ。

「お~い、あれを止めたかったら、クイを返せ!」

 すると、レオは、双眼鏡を振り上げて怒った。

「貴様~! 国王軍のくせに、我々を脅すつもりか?!」

「バカを言うな! 俺は、親切心で、あいつを引き取ってやろうと言っているんだ! 放っておいたら、何度でもこんなことがあるぞ!!」

「うぅ。」

 するとまた、

「隊長。」

と、服を引っ張られた。

「? 何だ、今、交渉中だ。」

 振り返ると、また部下の一人が外界を指差している。

「もう乗っていません。」

「は?!」

 慌てて双眼鏡を覗き込むと、魔獣の上にクイがいない。

 周辺を捜すと、「やり切った」感たっぷりのガッツポーズが、砂塵の中に見えた。

「あのバカ~。本当に突っ込ませてどうする気だ?!」

 マーティンの考えていたのは、クイに騒ぎを起こさせて、それを有事として国王軍が介入するシナリオだった。

(これじゃ、本物の有事じゃないか……。)

 すると、さっきから、コンパスと地図を片手に、ひたすら計算式を解いていた部下が、何かのかいて顔を上げた。

「隊長! このまま窒息死するまで走ると、市街地に到達する可能性があります。」

「!?」

 普通、魔獣は、窒息死する前に外界に帰っていく。

 だが、あの群れのボスは、正気を失っていた。まっすぐジルべニア領へ走っていくボスに、他の魔獣たちは従うしかない。

「うう。」

 次第に近づいてくる魔獣の群れを見て、マーティンは唸った。

 十頭……、いや、二十頭近くいる。

「おい、デノビア軍将! 俺に手を貸せ!!」

「え?!」

「俺の隊だけでは、仕留めきれない! 戦える者は全員、俺に協力しろ!」

「し、しかし、こっちは、大型の魔獣と戦った経験がない!」

「なら、覚悟を決めろ!! ここを突破されると、市街地にまで、魔獣が侵入するぞ!!」


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