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その櫓は、ちょうど三人入れるスペースがあった。
マーティンは、部下二人に外界を調査するふりをさせて、自分はモラードの別宅に双眼鏡を向けた。
「う~ん、クイはいないな~。」
モラードの別宅は、思ったより近かった。
十分、肉眼でも、人の区別が出来る。
「建物の中かな?」
あちこち見まわして、マーティンは、
「あ!」
と声を上げた。
「隊長? どうしました?」
「うん、目が合った。」
「? クイ姫と、ですか?」
「いや、デノビア軍将とだ。」
双眼鏡を下げてみると、見張り台のレオが、こちらを指差している。
昨日は、見張り台なんてなかったのに。
「貴様~! 何をしている!?」
まさか、こんなに早く見つかってしまうとは。
マーティンは仕方なく、大声でレオに応えた。
「覗きだ! 何か文句あるか~?!」
「何だと!!」
クイに騒ぎを起こさせる予定が、いつの間にマーティンが騒ぎを起こしている。
「貴様~! そこで待っていろよ~! 引きずり降ろしてやる!」
レオが見張り台から降りようとしたそのとき、
「隊長。」
と、服を引っ張られた。
「ん? どうした?」
振り返ると、部下の一人が外界を指差している。
「あれを……。」
「?」
双眼鏡をのぞいてみると、荒野の向こうに何かが見える。
少しずつ大きくなる砂塵。
「ん? 魔獣の群れの襲来か?!」
確認できるだけでも、五、六頭。
「おい、ジルベニア軍将に報告だ。」
「いえ、待ってください! 何か乗ってます!」
よく目を凝らすと、先頭の魔獣の上に黒い点が見える。
「魔獣?」
「いや、人です。手を振ってます!」
じんわりと状況が染み込んでくる。
そういえば、クイには、「魔獣乗りのクイ」とかいう異名があったような。
「……あ、あいつか? あいつなのか?」
信じられないが、徐々にクイらしさが見えてくる。
「……こ、こんなこともできるのか。……あいつ、ちょっとした兵器だな。」
ちらりとレオを見ると、レオも双眼鏡を外界に向けたまま、あまりに出来事に固まっている。
まあ、これはこれで、形勢逆転。
マーティンは、大きく息を吸い込んだ。
「お~い、あれを止めたかったら、クイを返せ!」
すると、レオは、双眼鏡を振り上げて怒った。
「貴様~! 国王軍のくせに、我々を脅すつもりか?!」
「バカを言うな! 俺は、親切心で、あいつを引き取ってやろうと言っているんだ! 放っておいたら、何度でもこんなことがあるぞ!!」
「うぅ。」
するとまた、
「隊長。」
と、服を引っ張られた。
「? 何だ、今、交渉中だ。」
振り返ると、また部下の一人が外界を指差している。
「もう乗っていません。」
「は?!」
慌てて双眼鏡を覗き込むと、魔獣の上にクイがいない。
周辺を捜すと、「やり切った」感たっぷりのガッツポーズが、砂塵の中に見えた。
「あのバカ~。本当に突っ込ませてどうする気だ?!」
マーティンの考えていたのは、クイに騒ぎを起こさせて、それを有事として国王軍が介入するシナリオだった。
(これじゃ、本物の有事じゃないか……。)
すると、さっきから、コンパスと地図を片手に、ひたすら計算式を解いていた部下が、何かの解を得て顔を上げた。
「隊長! このまま窒息死するまで走ると、市街地に到達する可能性があります。」
「!?」
普通、魔獣は、窒息死する前に外界に帰っていく。
だが、あの群れのボスは、正気を失っていた。まっすぐジルべニア領へ走っていくボスに、他の魔獣たちは従うしかない。
「うう。」
次第に近づいてくる魔獣の群れを見て、マーティンは唸った。
十頭……、いや、二十頭近くいる。
「おい、デノビア軍将! 俺に手を貸せ!!」
「え?!」
「俺の隊だけでは、仕留めきれない! 戦える者は全員、俺に協力しろ!」
「し、しかし、こっちは、大型の魔獣と戦った経験がない!」
「なら、覚悟を決めろ!! ここを突破されると、市街地にまで、魔獣が侵入するぞ!!」




