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そのころ。
マーティンは、ジルべニア軍将とともに、障壁の内側を歩いていた。
二人の後ろには、それぞれの部下がついていて、それが十人ほどの一つの集団になっている。
「突然お邪魔して、どうもすみません。」
完全によそゆきの顔でマーティンが謝ると、ジルベニア軍将は、
「いえいえ。こんな遠方まで、よくおいでくださいました。大したもてなしも出来ませんが、必要なものがあれば、何でもおっしゃってください。」
と、礼儀正しく答えた。
たぶん、ジルベニア軍将は、王都から来た査察か何かだと思っている。
それをあえて否定しないで、マーティンは、にこやかに微笑んだ。
「ご親切に、ありがとうございます。」
「それで、何のご用件で?」
「ええ、実は、この地方の結界を調べている者がおりまして……。」
「けっ、結界?!」
ジルベニア軍将は、驚いて足を止めた。
「ま、まさか、何か問題でも?」
たぶん、十余年前のウテリア領の暴魔風を連想したのだろう。
マーティンは、それを笑顔のまま否定した。
「いいえ、何の問題もありませんよ。実は、わが隊に同行している研究者が、デノビア領の結界を調べておりまして、ついでに、近隣の領地への影響も調べたいと、こちらにお邪魔した次第なのです。」
「そ、そうですか。確かにデノビア領の結界は特殊ですからね。」
すると、マーティンは、少し考えた素振りをしてから、正面にある櫓を指さした。
「すみませんが、あの場所をお借りできませんか?」
「ん? 櫓ですか?」
「ええ、外界の様子も見ておきたくて……」
すると、ジルべニア軍将は、快く頷いた。
「もちろん、いいですよ。少しお待ちください。」
ジルべニア軍将は、櫓の下まで来ると、見張りの兵らに降りてくるように指示をした。そして、誰もいなくなった櫓を、マーティンらに勧める。
「どうぞ、お使いください。」
実は、この櫓は、最もモラードの別宅に近く、中を覗くのにちょうどよかった。
「ご協力、感謝します。」
「おやすい御用ですよ。」
すると、最後尾にいたヨシュアが、
「ジルベニア軍将、実は、折り入って、お話ししたいことが……。」
と、言い出した。
「!? な、何でしょう。」
突然の申し出に、ジルべニア軍将がうろたえる。
「外に漏らしたくない話なので……。」
「……わ、分かりました。館の方でお聞きしましょう。」
「できれば、ジルベニア領主にも同席していただけると助かるのですが。」
「りょ、領主にも?!」
それで、ジルベニア軍将は、ただ事ではないと思ったようだ。
ジルベニア軍将の表情に、不安と焦りが入り混じる。
「わ、わわわ、分かりました。す、すぐに呼んでまいります。」
部下を一人走らせ、ジルべニア軍将とヨシュアが道を外れていく。
(たのむぞ、ヨシュア。)
マーティンがその後姿を見送っていると、ふいにヨシュアが振り返った。
「……。」
何も言わないが、顔には「そんなに長く、時間稼ぎはできませんよ!」と書いてある。
(ふふふ、分かっているって。)
マーティンは、ヨシュアに手を振ると、櫓のはしごに手をかけた。
これで、しばらく邪魔する者はいない。
マーティンは、軽快にはしごをのぼると、ひょいと櫓の真ん中を陣取った。
(さあ、クイ。派手にかましてくれよ。)




