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3-3

 そのころ。

 マーティンは、ジルべニア軍将とともに、障壁の内側を歩いていた。

 二人の後ろには、それぞれの部下がついていて、それが十人ほどの一つの集団になっている。

「突然お邪魔して、どうもすみません。」

 完全によそゆきの顔でマーティンが謝ると、ジルベニア軍将は、

「いえいえ。こんな遠方まで、よくおいでくださいました。大したもてなしも出来ませんが、必要なものがあれば、何でもおっしゃってください。」

と、礼儀正しく答えた。

 たぶん、ジルベニア軍将は、王都から来た査察か何かだと思っている。

 それをあえて否定しないで、マーティンは、にこやかに微笑んだ。

「ご親切に、ありがとうございます。」

「それで、何のご用件で?」

「ええ、実は、この地方の結界を調べている者がおりまして……。」

「けっ、結界?!」

 ジルベニア軍将は、驚いて足を止めた。

「ま、まさか、何か問題でも?」

 たぶん、十余年前のウテリア領の暴魔風を連想したのだろう。

 マーティンは、それを笑顔のまま否定した。

「いいえ、何の問題もありませんよ。実は、わが隊に同行している研究者が、デノビア領の結界を調べておりまして、ついでに、近隣の領地への影響も調べたいと、こちらにお邪魔した次第なのです。」

「そ、そうですか。確かにデノビア領の結界は特殊ですからね。」

 すると、マーティンは、少し考えた素振そぶりをしてから、正面にあるやぐらを指さした。

「すみませんが、あの場所をお借りできませんか?」

「ん? 櫓ですか?」

「ええ、外界の様子も見ておきたくて……」

 すると、ジルべニア軍将は、快く頷いた。

「もちろん、いいですよ。少しお待ちください。」

 ジルべニア軍将は、櫓の下まで来ると、見張りの兵らに降りてくるように指示をした。そして、誰もいなくなった櫓を、マーティンらに勧める。

「どうぞ、お使いください。」

 実は、この櫓は、最もモラードの別宅に近く、中を覗くのにちょうどよかった。

「ご協力、感謝します。」

「おやすい御用ですよ。」


 すると、最後尾にいたヨシュアが、

「ジルベニア軍将、実は、折り入って、お話ししたいことが……。」

と、言い出した。

「!? な、何でしょう。」

 突然の申し出に、ジルべニア軍将がうろたえる。

「外に漏らしたくない話なので……。」

「……わ、分かりました。館の方でお聞きしましょう。」

「できれば、ジルベニア領主にも同席していただけると助かるのですが。」

「りょ、領主にも?!」 

 それで、ジルベニア軍将は、ただ事ではないと思ったようだ。

 ジルベニア軍将の表情に、不安と焦りが入り混じる。

「わ、わわわ、分かりました。す、すぐに呼んでまいります。」

 部下を一人走らせ、ジルべニア軍将とヨシュアが道を外れていく。

(たのむぞ、ヨシュア。)

 マーティンがその後姿を見送っていると、ふいにヨシュアが振り返った。

「……。」

 何も言わないが、顔には「そんなに長く、時間稼ぎはできませんよ!」と書いてある。

(ふふふ、分かっているって。)

 マーティンは、ヨシュアに手を振ると、櫓のはしごに手をかけた。

 これで、しばらく邪魔する者はいない。

 マーティンは、軽快にはしごをのぼると、ひょいと櫓の真ん中を陣取った。

(さあ、クイ。派手にかましてくれよ。)


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