第6話 写真部(パンチラ研究会)の甘い罠
嵐のようなギャルの猛威が空き教室から過ぎ去り、静寂が戻った空間。
安堵して胸をなでおろす私を、暦さんはじっと見つめていた。アッシュグレーの短い髪が揺れ、気持ちの悪い笑い声が静かな教室に響く。
「それよりも、潮見さん。あなた、私たちの写真部に入りませんか? 部室には、あなたのように美少女を愛し、美少女に飢えた仲間が揃っていますよ……くひっ、くひひっ」
「美少女好きの、仲間……ですか?」
その言葉は、サキュバスの血を引く私にとって、あまりにも甘美で魅力的な響きを持っていた。
【現在の蓄積リビドー:25%】
(写真部……。表向きは真面目な部活動のフリをして、実は美少女のセクシーショットを狙う同好の士の集まり。……悪くない、いえ、むしろ私にとっては最高の環境かもしれません!)
こうして私は、暦さんの怪しい誘いに乗る形で、放課後に旧校舎の奥にあるという写真部の部室を訪ねることにしたのだった。
* * *
放課後。
夕日に染まる旧校舎の最果て、ひっそりと佇む『写真部』のプレートが掲げられた扉を叩いた。
現れた部室の中は、古い薬品の匂いと、壁一面にピン留めされた無数の写真で埋め尽くされていた。
「おっ、暦が言ってた新しい子じゃん! いらっしゃい、待ってたよー!」
出迎えてくれたのは、眩いばかりのプラチナブロンズのロングヘアを揺らす、超絶美人の先輩だった。
3年生の蓮見アリス(はすみ ありす)部長。
イギリス人ハーフだという彼女は、制服の第一ボタンを大胆に開け放ち、私の貧相な胸元とは次元の違う、豊満なFカップの谷間を惜しげもなく露出させている。
【現在の蓄積リビドー:35%】
(お、おっきいです……っ! なんという破壊力抜群のプロポーションですか……! これもまた、清子様とは違う極上のリビドーの源泉です……!)
「あの、こんにちは……1年の小鳥遊紡ですぅ。よろしくお願いします……っ」
アリス先輩の背後からモジモジと顔を出したのは、黒髪を綺麗なおさげ髪に結った1年生の小鳥遊紡ちゃんだった。
目をパチパチさせながら、大きめのレフ板を健気に抱えている。いかにも素朴で、気弱そうな常識人の佇まいだ。
「あ、2年の潮見雫です。よろしくお願いします」
私が挨拶を済ませると、アリス先輩はフランクに私の肩を抱き寄せ、耳元で妖艶に囁いた。
「うんうん、潮見ちゃんね。よろしく! ウチらの部活へようこそ。……ま、表向きは高尚な芸術写真を撮る真面目な部活のポーズを取ってるけどさ。ウチらの真の狙いはただ一つ。この学園の美少女たちをカメラに収めること。出来れば、最高にセクシーなショットをね?」
「あの、先輩方……それはさすがに軽犯罪法に触れるんじゃ……ぅぅ、でも、潮見先輩とアリス先輩が並んだ時の体格差のシルエット、最高にエモいですぅ……っ」
紡ちゃんが小刻みにカメラのシャッターを切りながら、早口でオタク特有の妄想を呟いている。彼女は彼女で、美少女同士の尊い距離感に命をかける隠れ百合マニアのようだった。
アリス先輩は笑いながら、部室の中央にある大きなテーブルを指差した。
「ウチらはさ、みんなで連携して行動するみたいなことはしないわけ。普段は各自、普通の風景とか日常の写真を撮るフリをして個別に活動してるんだよね。まあ、全員がライバルってとこね。虎視眈々と、美少女たちの決定的な隙を個別に狙い合ってるってわけじゃん?」
「個別に、ですか……」
「そう。だからこそ、この部活は『等価交換』が絶対の基本ルール。自分が苦労して個別に仕留めたお宝写真を見せ合うには、それと同等の価値がある写真や情報を提供しなきゃいけないんだよ?」
暦さんが暗闇から滑り込むようにして、テーブルの上に一枚の裏返された写真を置いた。
「デュフフ……そういうことです。今回は潮見さんの入部記念として、等価交換なしで特別に一枚だけ、私が誇る最高級のコレクションを見せてあげますよ……むふふふっ」
「コレクション……ですか?」
私は生唾を飲み込み、テーブルの上の写真へと手を伸ばした。
ゆっくりと、その写真をひっくり返す。
「こ、これは……ッ!!!???」
私の目は、完全に釘付けになった。
そこに写っていたのは、校庭の片隅、突風によって激しくスカートをめくり上げられた——軽井沢莉愛さんの姿だった。
本人は突然の風に慌ててスカートを押さえようとしているが、カメラは見事にその一瞬の隙を完璧なピントで捉えていた。
太ももの奥、露出したその場所に穿かれていたのは、彼女の派手なギャルとしての外見をこれでもかと体現したような、ピンクと黒の強烈なゼブラ柄の、あまりにもハレンチでド派手な下着だった。
【現在の蓄積リビドー:55%】
【現在の蓄積リビドー:70%……っ!】
(なんという……なんという破廉恥で暴力的な下着ですか……っ! 清子様の気高き黒レースとは真逆の、本能を直接刺激してくるような、ギャル特有の極上の不純がここにあります……!)
「デュフフ……素晴らしいでしょう? 普段から付け狙っていた軽井沢さんが、珍しく一人で中庭にいたところ偶然突風が吹いてくれたんです。その瞬間に、私が遠方から仕留めたワンショットです。これぞ私の奇跡の一枚……むふふっ」
暦さんの気持ち悪い笑い声すら、今の私の耳には届かなかった。
私の脳裏には、莉愛さんのあのド派手な下着の残像が、鮮烈な色彩とともに、消えない刺青のように深く、深く焼き付いてしまっていた。
* * *
その日の夜、自宅に帰ってからも、私はベッドの中であの写真の光景を何度も何度も反芻していた。
サキュバスとしての本能的な渇きが、身体の奥底からジリジリと音を立てて湧き上がってくる。普通の女子高生としての日常を維持しなければならないという理性が、その圧倒的なスケベ心の前に、少しずつ削り取られていくのを感じていた。
そして、その衝撃の余韻を引きずったまま、翌朝の登校時間を迎えることになる。
寝不足の目を擦りながら、私は学校の昇降口へと足を進めた。
自分の下駄箱を開けようとした、その時。
「あー、マジ眠いんだけど……。一限目から現国とか死ねるわー」
すぐ隣の下駄箱に、気だるげに髪をかき上げながらやってきたのは、他ならぬ軽井沢莉愛さん本人だった。
彼女は私に気づくと、「あ、ジメ子。おはよ」と、昨日あれだけ引いていたにもかかわらず、いつも通りの軽い調子で声をかけてきた。
だが、問題はそこではなかった。
莉愛さんはローファーを脱ぎ、上履きに履き替えようと、私の目の前で不意に深く腰を屈めたのだ。
短いスカートの裾が、重力に逆らってふわりと持ち上がる。
その瞬間、私の脳内で、昨日写真部で見せられた『あのド派手なゼブラ柄の下着』の残像が、目の前の莉愛さんの身体と完全にオーバーラップしてしまった。
ドクン!!!
と、心臓が跳ね上がる。
【現在の蓄積リビドー:90%……95%……っ!】
(だ、ダメです……! 目の前に本物がいます……! あの派手な下着に包まれた果実が、すぐそこに……ッ!!!)
身体の奥底で、悪魔の血が限界を超えて沸騰した。
視界が急速に紫色の魔力に染まっていく。私はもう、自分の暴走する衝動を止めることができなかった。
【現在の蓄積リビドー:100%突破!!!】
【警告:完全体への強制覚醒を開始します】
「えっ? なっ! 誰だ。お前はっ!?」
下駄箱の影、紫の霧の中から現れたバタフライマスクの美女を見上げて、莉愛さんが驚愕の声を上げる。
私は妖艶に微笑み、その豊かな胸を揺らしながら告げた。
「私の名は『レディ・ドロップ』。……さあ、いけないコギャルちゃん。これからじっくり、可愛がってあげます。――お仕置きの時間ですよ」
周囲の空間が完全に現実から切り離され、私たちは二人きりの、淫らな保健室の密室へと誘われていくのだった。




