第4話 保健室の指導と、翌朝のチョロイン
放課後の保健室は、夕暮れの密室だった。
私が指先一つで作り出した【閉鎖空間】の中、外界の音は一切遮断され、ただ二人の吐息だけが白いカーテンの奥に響いている。
パイプベッドの上に、本校の至宝たる生徒会長、天ヶ瀬清子様を横たわらせる。
彼女の品行方正なブレザーの襟元に触れながら、私はバタフライマスクの奥の瞳を妖しく細めた。サキュバスの完全体となった私の身体からは、彼女の理性を甘く溶かす魔力が絶え間なく溢れ出ている。
「あ、う……嘘、身体が……動かない、です……」
清子様は顔を真っ赤に染め、トロンと潤んだ目で私を見上げていた。
私の指先から流し込んだ暗示の魔力が、彼女の自由を完全に奪っている。
お堅い生徒会長が、私のなすがままになっているこのシチュエーション。ゾクゾクするような支配感が、私の背筋を駆け抜けた。
「ふふ、大人しくて良い子です。ですが天ヶ瀬先輩、学校にそんな破廉恥な黒レースの下着を穿いてくるなんて、校則違反だとは思いませんか?」
「それは……っ、ち、違う、これは……っ」
「言い訳は聞きたくありませんね。これから、風紀を乱す不良生徒への『身体検査』を行います。……さあ、自分で服を脱いで、潔白を証明してください」
私の命令(暗示)は絶対だった。
清子様の華奢な指先が、震えながら自らのブレザーのボタンへと向かう。
一枚、また一枚と、完璧に着こなされていた制服が剥ぎ取られていく。
夕日に照らされた白い肌が露わになり、ついにあの極薄の黒レースが、その豊満な果実を包んでいる姿が完全に白日の下に晒された。
「素晴らしい眺めです。……さあ、これでもっと素直になりなさい」
私は彼女の熱い額にそっと指先を当て、サキュバスの秘奥の力を流し込んだ。
——【感度3000倍】。
「ひゃああんっっ!? ぁ、熱い……なに、これ、身体が、おかしく……っ!」
ほんの少し、私が彼女の白い太ももの肌に指先を滑らせただけで、清子様は弓のように背中を反らせて甲高い悲鳴を上げた。
3000倍に跳ね上がった神経は、私の指先から伝わる微量な魔力を、極上の快楽へと変換して彼女の脳に叩き込んでいる。
「いけない子ですね、こんなに感じてしまうなんて。これからじっくり、その不純な身体を指導してあげます」
それからの時間は、まさに蜜にドブ漬けされたような快楽の狂宴だった。
触れるだけで狂おしく身悶えし、涙を流して許しを請う生徒会長。
その気高きプライドが、私の愛のテクニックによって木っ端微塵に溶かされていく。
彼女の口からは、普段の凛とした声からは想像もつかないような、甘く淫らな鳴き声が何度も何度も保健室の天井に消えていった。
憧れの生徒会長との最高のひと時。
しかし、私は能力を使い過ぎてしまっていた。
【現在の蓄積リビドー:70%……40%……10%……】
私のリビドーゲージは急速に減少していく。
そして、完全なる満足(指導)の終わりとともに、ゲージはついに底を突いた。
【現在の蓄積リビドー:0%】
【警告:エネルギー消費完了。完全体モードを終了します】
「あ……」
身体を包んでいた紫の魔力が霧散し、バタフライマスクがパリンと割れて消える。
Eカップあった胸は見る影もなく縮み、元の貧相なAカップへと戻っていく。
引きちぎれたはずの私の制服も、幻だったかのように普段のダボダボの姿へと修復されていた。
閉鎖空間が解け、普通の夕暮れの保健室に戻る。
ベッドの上には、すべての快楽を搾り取られてぐったりと眠る、乱れた姿の清子様。
「な、なな、なんてことを、してしまったのですか私はーーーーっっ!!!???」
我に返った私は、自分のしでかした国家反逆レベルのセクハラ行為に、声にならない悲鳴を上げて頭を抱えた。
サキュバスモードの時の記憶はハッキリある。
あんなドSなセリフを、あの憧れの清子様に連発して、あんなことやこんなことまで開発してしまったなんて。
「ひぃぃっ! 逃げます! 私は何も見ていませんし、何もしていません!」
私は大慌てで清子様の衣服を(できるだけ綺麗に)整えると、夜逃げする泥棒のような猛スピードで保健室を飛び出し、そのまま自宅へと逃げ帰ったのだった。
その夜、自室のベッドで「明日、警察に捕まったらどうしよう」と一晩中枕を涙で濡らし、一睡もできなかったのは言うまでもない。
* * *
翌朝。
私は地獄の沙汰を待つ罪人のような気持ちで、トボトボと登校していた。
前髪をもぞもぞと弄りながら、不健康なクマをさらに悪化させた目で、ビクビクと周囲を警戒する。
【現在の蓄積リビドー:5%】
昨夜の猛省のおかげでゲージはほぼゼロだが、精神的なライフはとっくにマイナスだった。
校門をくぐり、昇降口へと向かう。
その時、前方から溢れるような歓声と、華やかな花の香りが漂ってきた。
「天ヶ瀬先輩、おはようございます!」
「ええ、おはよう。今日も遅刻しないようにね」
そこにいたのは、いつもと全く変わらない、品行方正で完璧な生徒会長・天ヶ瀬清子様の姿だった。
髪一本の乱れもなく、制服を凛々しく着こなし、在校生たちに眩しい笑顔を振りまいている。昨日の夕方、保健室で涙目になりながら私に縋り付いていた面影など、微塵も感じられない。
(よ、よかった……! いつもの清子様です! どうやら、夢か幻だと思ってくれたみたいですね……!)
私は心の底から安堵の胸をなでおろした。
やはり、私の隠ぺい能力は完璧だった。
顔を隠し、声や体型まで変えるあの変身のおかげで、目の前を歩く地味子のジメ子が、あの夜の支配者『レディ・ドロップ』だとは、清子様は夢にも思っていないに違いない。
ホッとして、清子様の後ろをすれ違いざまに通り過ぎようとした、その時だった。
「あ——」
清子様のあいさつの声が、ピタリと止まった。
彼女は何かを感じ取ったように、勢いよく振り返り、私の姿をその美しい瞳で捉えた。
「ひゃいっ!?」
変な悲鳴を上げて硬直する私。
まさか、一瞬で正体がバレたのだろうか。
清子様の様子がおかしい。
私の姿を見た瞬間、彼女の白い頬が、みるみるうちに夕日のように真っ赤に染まっていく。
彼女は自分の胸元をぎゅっと掴み、呼吸を少し荒くしながら、ドギマギとした様子で私を見つめていた。
(え……ええ!? な、なんですかその反応は!? バレているのですか!?)
心臓が破裂しそうになるのを抑え、私は精一杯のジメ子モードで声をかけた。
「あ、あの……生徒会長、様? 大丈夫、ですか……? お顔が真っ赤ですが……」
私の声を聞いた清子様は、ハッと我に返ったように激しく首を振った。
頬の赤みは引かないまま、どこか焦ったように視線を泳がせる。
「え……? あ、ええ! 大丈夫よ! なんでもないの! ただ……その、探している人がいたような気がして。でも、勘違いだったわ」
清子様はそう言うと、ふう、と熱いため息を漏らし、私のダボダボの制服と、跳ねた紺藍色の髪をじっと見つめた。
「あなたとは……見た目も、雰囲気も、全然違いますものね。変な風に見つめてしまってごめんなさい。心配してくれてありがとう、潮見さん」
「は、はい! 失礼します!」
清子様はペコリと頭を下げると、どこか心ここにあらずといった様子で、そのまま校舎の中へと歩いていってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、私は自分の胸に手を当てた。
【現在の蓄積リビドー:15%】
(あ、危なかったです……。緊張で少しゲージが上がってしまいました。ですが、完全に勘違いだと思い込んでくれていますね。よかった、本当にバレていません!)
私は勝利を確信し、意気揚々と教室へと向かう。
正体はバレていない。
私の平穏な日常は守られたのだ。
しかし、私はまだ知らなかった。
天ヶ瀬清子様の頭の中が、今や私の変身した姿——『レディ・ドロップ』の妖艶な微笑みと、あの指先から与えられた脳を溶かすような快楽の記憶で、四六時中いっぱいにされてしまっているという事実を。
「あの人は、一体誰だったのかしら……。私の、この身体を、あんな風に……っ」
廊下の角を曲がった清子様が、誰も見ていないところで、太ももをすり合わせながら熱いため息を漏らしていることなど、ジメ子の私は知る由もなかった。
かくして、表向きは何も変わらない、けれど内面は完全に狂わされていく学園百合ラブコメの幕が、静かに上がるのだった。




