第25話 限界スレスレの密着取材と、文学少女の暴走
【現在の蓄積リビドー:30%】
(妄想による自己発火)
「さあ、詳細なディテールを! 嘘偽りのない、生々しい一次資料を私に提供してください!!」
旧校舎の片隅、密室と化した文芸部の部室。
完全に百合の業火に焼かれた千代田野乃さんは、長机に身を乗り出し、私に向かって猛烈な勢いで詰め寄っていた。
普段のパステルグリーンのふんわりとした髪は乱れ、瞳孔は限界まで開き、その両手は私の肩をガシッと掴んで離さない。
「ひぃっ……あ、あの、千代田さん? 近い、お顔が近いです……っ」
「清子先輩の甘やかしとは!? 絵里香先輩の情欲交じりのお仕置きとは!? 誤魔化さないでください潮見さん、これは偉大なる文学への奉仕なのです!」
私は完全に後戻りできない領域まで踏み込んでしまったことを悟った。
ここで「実は全部嘘でしたテヘペロ」などと言えば、この狂気に満ちた文学少女に八つ裂きにされるかもしれない。
私は覚悟を決め、額に冷や汗を浮かべながら、即興の妄想エピソード(特濃)をさらに紡ぎ出した。
「そ、そうですね……っ。私を可愛がる清子さまは、最初は手をつなぐ程度だったのですが、徐々にスキンシップが過激になっていきまして……」
「なって、いきまして……ッ!?」
千代田さんが、ゴクリと生唾を飲み込む。
「背後から優しく抱きしめられ、肩や腰に手を回されるのは日常茶飯事。最近では、私のうなじに熱い吐息を吹きかけたり、制服のブラウス越しに、もっと……その、デリケートな場所にまで接触してくることもあります」
「デ、デリケートな場所……ッ! バンザイッ!」
「そして、私たちのそんな甘い時間を邪魔する絵里香さまも、嫉妬に狂って『お仕置きよ』と称し……私の太ももの内側を執拗に撫で上げたり、身体の密やかな部位を、その冷たくて細い指先で懲らしめることもしばしばでして……っ」
身振り手振りを交えて生々しく語るうち、私自身もなんだか本当にそんな体験をしたような気分になってきて、顔がカッと熱くなった。
すると、私の嘘の体験談をノートに書き殴っていた千代田さんが、突然ピタッとペンの動きを止めた。
* * *
「……なるほど。言葉での描写は、完璧に理解しました」
「あ、よ、よかったです。これで取材は——」
「しかし、百聞は一見に如かず」
千代田さんはギラギラと血走った目で私を見据えると、パイプ椅子を蹴立てて立ち上がり、私の隣へと移動してきた。
「あの、そのシーン、ここで『再現』してみても良いですか? 潮見さん!」
「えっ? 再現、とは……?」
「こういうことです」
ガシッ。
千代田さんの柔らかく小さな両手が、私の右手をギュッと握りしめた。
そのまま流れるような動作で私の背後へと回り込み、私の肩、そして腰へと、生々しく腕を回してきたのだ。
「ひゃうっ!?」
「清子先輩は、こうやって潮見さんを抱きしめるんですね? 柔らかい……。潮見さん、ダボダボの制服で隠れていますけど、すごく華奢で、女の子らしい柔らかい身体をしてる……」
千代田さんの甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
大人しい癒やし系の同学年の女生徒に背後から密着され、耳元で熱い吐息混じりに囁かれるという異常事態。
【現在の蓄積リビドー:60%】
(急上昇中)
「ま、待ってください、千代田さん! これはちょっと、実践的すぎると言いますか……っ」
「大人しくしてください。これは『取材』なんです。偉大なる作品のための、神聖なる実地検証なんですよ!」
大義名分を振りかざしたオタクは無敵だ。
千代田さんの手は腰からさらに上へと滑り上がり、私の制服のブラウスの上から、胸の膨らみを鷲掴みにした。
「〜〜〜〜〜ッ!!?!?」
「そして、この次は、ここを可愛がるんですよね……?」
指先が、胸の先端を的確に捉え、きつく、コリコリと摘み上げられる。
全身を雷に打たれたような電流が駆け抜け、私の口から声にならない悲鳴が漏れた。
――上手い。
なんだこの文学少女、手つきがやけにエロいぞ!?
普段からどんな薄い本を読み込んでいるんだ!
「ああっ、清子先輩の愛の重さが伝わってきます……っ! つ、次は、嫉妬に狂った絵里香先輩のお仕置きの再現を!」
「ひゃああっ! ちょ、そこは、だめぇっ!」
千代田さんのもう片方の手が、私のスカートの裾から躊躇なく侵入してきた。
太ももの内側を撫で上げられ、乙女の絶対領域へと指先が這い寄る。下着のクロッチ部分を隔てて、密やかな部位に直接的な刺激が与えられた。
* * *
【警告:蓄積リビドー85%】
(まずい、まずいまずいまずい!!)
私の脳内で、けたたましい非常ベルが鳴り響いた。
予想外の快感と、女の子同士の背徳的な密着。リビドーゲージがとんでもない速度でメーターを振り切ろうとしている。
もしここでリビドーが100%に達し、サキュバス『レディ・ドロップ』として覚醒してしまったら。私は間違いなく、背後にいるこの無防備な文学少女を押し倒し、最後まで美味しく『頂いて』しまう。
ダメだ、それだけは絶対にダメだ!
私はガクガクと震える膝に力を込め、必死に唇を噛み締めた。
(落ち着け私! そうです、こんな時は素数を数えましょう! 2、3、5、7、11……! 般若心経もいいかもしれません。色即是空、空即是色……ッ!)
「潮見さん、身体がすごく熱いですよ……。ビクビク震えて……すごく、リアルです……っ」
「あ、ひぅっ……ち、ちが、これは、武者震いで……っ♡」
快感に溶けそうになる脳髄を必死に繋ぎ止め、私は自分の内側から漏れ出そうになる紫色の魔力を、全精神力を注ぎ込んで抑え込んだ。冷や汗が滝のように流れ落ち、視界がチカチカと点滅する。
* * *
永遠にも似た、地獄のような、しかし天国のような時間がどれだけ続いただろうか。
「——はっ!?」
唐突に。
千代田さんが、弾かれたように私からパッと身体を離した。
「わ、私……! い、一体何を……! ご、ごめんなさい! 取材に熱中するあまり、我を忘れてしまって……ッ!!」
正気に戻ったらしい千代田さんが、顔を茹でダコのように真っ赤にして、頭を床に擦り付ける勢いで土下座をした。
「い、いえ……。私も、その……お役に立てたのなら、よかったです……」
私も顔から火が出るほど赤面し、乱れた制服の襟元を必死に直しながら、引きつった笑いを返すしかなかった。
気まずい。
とてつもなく気まずい。
お互いに目も合わせられず、逃げるように「今日はありがとうございました」「さようなら」とだけ言い合い、私たちは解散した。
* * *
【現在の蓄積リビドー:99%】
(爆発寸前)
ガチャリ。
急いで家に帰り自室のドアを閉めた私は、そのままベッドに崩れ落ちた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」
荒い呼吸が止まらない。
下腹部に溜まった重くドロドロとした熱は、限界の限界まで膨れ上がっていた。
サキュバス化こそギリギリで免れたものの、千代田さんによる過激な『再現取材』で極限まで高められたリビドーは、もはや自然に治まるレベルをとうに超えている。
「うぅ……っ。恐るべし、文学少女……。まさかあそこまで攻められるとは……」
私はフラフラとした足取りでベッドに這い上がると、誰に見られるわけでもないのに布団を頭からすっぽりと被った。
そして、己の右手を見つめる。
「たまには攻められるのも悪くない、なんて……調子に乗った罰ですね……」
誰もいない薄暗い部屋の中。
私は一人、小さく丸まりながら、溜まりに溜まったリビドーゲージを鎮めるための虚しい『自家発電』に、涙目で励むのだった。




