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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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82.僕と、餃子と、未完成

結局、ロンじいや大学の工学博士がどれだけ不眠不休で発破をかけてくれたとしても、世界初となる精密機械の完成には物理的な時間が足りなかった。

ランチャームの開発、およびタレの自動注入機の製造が間に合わないまま、無情にも『ししし餃子』のオープン予定日を迎えてしまったのだ。

「ヒロキ、どうする? 機械の完成を待って、一度オープンを延期するかい?」

レミ社長からも心配そうに打診されたし、僕だって最初は延期を考えた。だけど、すでに現地で採用してトレーニングを終えている従業員たちの雇用契約や給与補償の問題、そして何よりも、オープンに先駆けて『ししし屋』で実施した餃子の試食会で、「早くお店で買わせてほしい!」と熱烈な声を寄せてくれたお客様たちの期待を裏切りたくなかった。

悩みに悩んだ末、僕は一つの苦渋の決断を下した。

――タレとラー油の小袋を付属しない、いわば「未完成」の状態のままで、お店をオープンさせる。

そんな波乱含みの幕開けではあったけれど、お祝いのセレモニーだけは盛大に執筆された。今回も開店のテープカットを務めてくれたのは、芸能活動で多忙なスケジュールの合間を縫って駆けつけてくれたアオイさんだ。長身に華やかな衣装をまとった彼女が、大きなハサミでリボンを綺麗に切り落とすと、集まった買い物客から大きな拍手が湧き起こった。

タレなしというハンデを背負った『ししし餃子』だったが、店頭に並べた商品ラインナップには、僕ができる限りの工夫を詰め込んだ。

中身のタネこそ同じだが、売り方は3つの形に分けた。

その場でも食べられる調理済みの『焼き餃子』、長期保存に最適な『冷凍餃子』、そして買って帰って解凍の手間なしですぐに調理できる『生餃子』。

それぞれの袋には、この世界の人たちでも失敗せずに美味しく焼けるよう、レシピと焼き方のコツを丁寧に解説したマニュアル的なパンフレットを必ず同封した。フライパンへの並べ方から、差し水の量、羽をパリッとさせるタイミングまで、僕のノウハウを詰め込んだ力作だ。

そして最大の課題だった「タレ問題」に対しては、とにかく今できるすべての知恵を絞って泥臭く対応した。

まずタレに関しては、お家の冷蔵庫にある「醤油」や「ポン酢」、なんなら「焼肉のたれ」でも十分に代用可能で、それぞれ違った美味しさが楽しめるという旨をポップやパンフレットで大々的にアピールした。

さらに、僕の目が潰れそうになりながら完成させた新商品の自家製ラー油については、薬局で流通している「目薬の容器」をそのまま流用。綺麗に洗浄・殺菌したそのプラスチックの小瓶に手作業でラー油を詰め、先着100名限定で、希望するお客様に無料で配布するという力技に出たのだ。本当に、今の僕たちにできることはこれがすべてだった。

カチッとした順調な門出とは行かなかった。お弁当の時のように「完璧な形」で送り出せなかった悔しさは残る。

だけど、蓋を開けてみれば、肝心の商品そのものの評判は上々だった。

「タレがなくても、キャベツとお肉の旨味だけでめちゃくちゃ味がしっかりしてる!」

「パンフレット通りに焼いたら、家でも信じられないくらいパリパリに焼けたわ!」

店内で焼き餃子を食べたお客様が、笑顔で冷凍餃子や生餃子を追加で購入していく姿を調理場の隙間から見たとき、張り詰めていた僕の肩の力がようやく抜け、ひとまず溜飲が下がったのだった。

トラブルを抱えながらも、僕たちの餃子は確かにカントウの人々の心を掴み始めている。あとは、ロンじいたちの機械が完成するのを待ちながら、この熱気を絶やさないように焼き続けるだけだ。

オープン初日の長い夜が更けていく中、僕は心地よい疲労感に包まれながら、次なる一歩へ向けて小さくガッツポーズを作った。

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