表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/137

75.僕と、食材探訪と、謎の独立国家(3)

白虎ホワイトタイガーと言えば

某サファリパークが有名ですよね。

「昔から、このグヌマーの山には、芋のような作物が自生していた。だがな、それには強い毒が含まれていたんだ。まともに食えば激しい痛みに襲われる。それでも……かつてのグヌマーの民は飢えていた。飢えて死ぬよりはマシだと、命を削りながらその毒芋を茹でて食べ続けていたんだ。

だがある日、偶然の奇跡が起きた。囲炉裏のそばで芋を茹でていた先祖が、燃やした木の灰を入れた籠を、誤って芋の鍋の中に落としてしまった。……するとどうだ。不思議なことに、灰が芋の毒を完全に中和し、独特の弾力を持つ、安全な食べ物へと生まれ変わらせた。それが『こんにゃく』の始まりだ」

ハクさんの話に、サリーもアニーも、そしてケンジさんも真剣な表情で聞き入っている。しかし、ハクさんの声はさらに低くなった。

「だが、こんにゃくの悲劇はそれで終わりではなかった。

やがてその存在が外の世界に知れ渡ると、『いくら食べても太らない魔法の食材』として、カントウ中で爆発的な大流行を巻き起こした。一時期はグヌマーの民も、売れた金で大いに潤ったさ。……だが、流行の裏で悲劇が起きた。こんにゃくのあの独特の強い弾力と滑らかさのせいで、外の国の幼い赤子たちが、ノドに詰まらせて窒息死する事故が多発したんだ」

「あ……」

僕は思わず声を漏らした。元の世界でも、こんにゃくゼリーなどの窒息事故は大きな問題になっていた。この獣人の世界でも、全く同じ悲劇が起きていたんだ。

「事故が起きると、外の獣人どもは手のひらを返した。『グヌマーの毒芋が子供を殺した』『呪われた危険な食い物だ』とな。凄まじい風当たりだった。事故の責任を全て押し付けられ、傷ついたグヌマーの民は、ついに心を閉ざした。なるべく他の国の獣人とは関わらないよう、関所を設けて引きこもる道を選んだんだ。……今じゃ、こんにゃくは美味いものに飽きた酔狂な金持ちどもに、危険を承知の上で法外な値段で売りつけるだけの、日陰の存在さ」

部屋を沈黙が支配した。こんにゃくが禁忌とされていたのは、ただの迷信やオカルトではなく、悲しい事故と、それによって生まれた深い心の傷が原因だったのだ。

ハクさんは腕を組み、椅子に深く腰掛け直すと、じっと僕の目を覗き込んできた。

「ヒロキよ。お前の目の奥には、俺の経験を以てしても測りきれない、不思議な何かが宿っているのを感じる。ただの子供ではないことは分かっているさ。……だがな、民の傷を背負う長として、ただの情だけで首を縦に振るわけにはいかない。

お前がその『こんにゃく』を、過去の呪縛から解き放ち、誰も傷つけずに誰もが笑顔になれる新しい形へと変えられるという、決め手になるような『きっかけ』がほしい。俺を、そしてグヌマーの民を納得させるだけの何かを、今ここで見せてみろ」

ハクさんからの、料理人としての僕への、文字通りの『試練』だった。

(誰も傷つけず、ノドに詰まらせる心配もなくて、こんにゃくの美味しさを引き出せる料理……)

僕は静かに立ち上がり、後ろに控えるサリー、アニー、ケンジさんに向かって力強く頷いた。

「ハクさん。僕たちに、調理場を貸してください。僕の料理で、そのこんにゃくの悲劇の歴史、今ここでひっくり返してみせます!」

調理場を借りた僕は、さっそくトランクからロン特製の製麺機を取り出した。そして、ハクさんから受け取った塊の『こんにゃく』を投入する。

ガシャコン、とハンドルを回すと、押し出されたこんにゃくは、僕の狙い通り細い「麺(糸こんにゃく)」の形になって、次々とトレイに滑り落ちていった。

「ケンジさん、お願いします!」

「おう、任せとけ!」

ここからは『ししし屋』チームの完璧なコンビネーションだ。犬族のケンジさんが、手際よくホットプレートに『ごま油』を引く。パチパチと香ばしい匂いが立ち上る中へ細いこんにゃく麺をドサッと投入し、上から『てりやきソース』を豪快に回しかけた。

ジュワーーーッ!!!

甘辛い極上のソースが鉄板の上で焦げる、破壊的な匂いが部屋中に広がっていく。

そこへ、アニーが「グヌマーのキャベツは甘みが強くて最高やな!」と、現地で調達した瑞々しいキャベツを驚異的なスピードで千切りにしていく。

焼き上がったアツアツの麺とシャキシャキのキャベツを、サリーが手際よく綺麗なお皿へと盛り付けた。

「完成です!『ししし屋』特製、こんにゃく麺焼きそば!」

ハクさんは差し出された皿をまじまじと見つめた。かつて赤子の命を奪った、あのツルツルとした恐ろしい塊はそこにはない。フォークや箸で簡単にほぐれ、よくソースの絡んだ細い「麺」へと完全に姿を変えていた。

ハクさんは箸を取ると、躊躇うことなくそれを一気にかき込んだ。

ズズッ、ズズズッと豪快な音が響く。

咀嚼し、ゴクリと飲み込んだ長は、ふぅーっと大きな息を吐き出し、ニヤリと口角を上げた。

「……こいつは、美味いな。塊じゃねえから喉に引っかかる気がしねえ。それに、このソースのコクが淡白なこんにゃくに信じられないほどよく合う!」

「よしっ!」

僕は思わず胸の前でガッツポーズ。サリー、アニー、ケンジさんの3人も「やったバイ!」「完璧や!」と笑顔で激しいハイタッチを交わした。

けれど、僕たちの攻撃はこれだけでは終わらない。

「ハクさん、まだまだ行きますよ!」

僕は立て続けに、ホットプレートで次なる料理を仕上げていく。

まずは、生地の上に薄切りにしたこんにゃくを並べてカリッと焼き上げた『こんにゃくお好み焼き』。こんにゃくのぷるぷる感がお好み焼きのモチモチ感と合わさり、独特の楽しい食感を生み出す。

さらに、ロンの工房の裏山で大量収穫して持ってきていた松茸を贅沢に手で裂き、角切りにしたこんにゃくと一緒に鉄板へ。仕上げに『獅子丸印の焼肉のたれ(にんにく味)』をジュワッと絡めて一気に炒め上げる!

「これも……うん、これも美味い……!」

ハクさんがハフハフと口を動かしていると、鉄板から立ち上るお好みソースと焼肉のたれ、そして松茸の狂おしいほどの良い匂いにつられたのだろう。

工場の奥で働いていた白虎族の若者たちや、外の広場で遊んでいた子供たちが、一人、また一人と「なんだこの美味そうな匂いは……?」と集まり出してきた。

こうなれば、僕たち『ししし屋』の勝利は確定したようなものだ。

「みんな、お腹空いてる!? いっぱいあるから食べていって!」

僕は持ってきた食材のすべてを解放し、集まった白虎族たちに片っ端から料理を振る舞い始めた。

応接室は一瞬にして、お祭りの出店のような大賑わいへと変貌する。

「うわぁ! なにこれ、くるくる回って面白い!」

子供たちは、僕とサリーがたこ焼きやベビーカステラを千枚通しで器用にひっくり返すプロの動作に興味津々で、目を輝かせて見入っている。焼き上がった熱々のたこ焼きをハフハフと頬張り、「おいしー!」と大はしゃぎだ。

一方、屈強な若者たちは、どこからともなく巨大な炊飯器を抱えて持ってきた。

彼らはケンジさんが次々と焼き上げるお好み焼きを、信じられないことに「おかず」として白米の上にワンバウンドさせ、タレの染みた米と一緒にガツガツと豪快に胃袋へ収めていく。炭水化物×炭水化物の悪魔的美味さに、若者たちの箸は止まらない。

「おいおいお前ら、お客様の前でそんな意地汚い真似をするな」

ハクさんは腕を組みながら若い衆を叱りつけていたけれど、そのアイスブルーの瞳は完全に、孫たちの賑やかな食事風景を温かく見守る「優しいおじいちゃん」のそれになっていた。

かつて悲劇の食材として恐れられ、この地を閉ざす原因となったこんにゃくが、今、僕たちの料理とソースの魔法によって、白虎族の未来を担う子供たちや若者たちの最高の笑顔を引き出している。

グヌマーの閉ざされた心の扉は、ホットプレートの熱気と「美味しい」という豊かな笑顔によって、今、完全に解き放たれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ