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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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72.僕と、食材探訪と、鮮魚市場

僕とサリーは、潮風に吹かれながら海苔の養殖場のすぐ近くにある地元の鮮魚市場へと足を運んだ。

市場の中は、活気ある獣人たちの怒号のような声と、磯の匂いで満ち溢れている。その一角を通りかかったとき、僕たちの目に飛び込んできたのは、生けいけすの中でうごめく大量の「たこ」の姿だった。

このあたりはたこの水揚げ量が多い地域らしく、僕たちが仕掛けた『ししし屋』のたこ焼きの大ヒットによって、以前よりも遥かに多くのたこが市場で取引されるようになっているのだという。

「おう、あんたたちが『ししし屋』の! ほんと、ありがたい話だよ!」

僕たちの姿に気づいた恰幅のいい漁師の獣人さんが、豪快に笑いながら話しかけてくれた。

漁師さんの話によると、この世界では以前、たこはそのグロテスクな見た目のせいで酷く嫌われており、滅多に売れない不人気食材だったらしい。

それどころか、地元の漁師たちにとって最も売れ筋なアジやイワシといった小魚を大量に食い荒らすため、海の中の「害獣」に近いような扱いを受ける厄介者だったのだそうだ。

それが今や、僕たちのたこ焼きのおかげで立派な高級食材として高く売れるようになり、漁師たちの家計は大いに助かっているのだと、何度も深く感謝されてしまった。

「ほら、ちょうど今さっき水揚げされたばかりのやつだ。見てみな!」

漁師さんが生け簀からぐいっと持ち上げたそのたこを見て、僕は思わず「うわっ!」と声を上げて数歩飛び退いてしまった。

そこにいたのは、僕の知っている元の世界のたこの、少なくとも5倍はありそうな巨大な軟体生物だった。うねうねと動く太い足の吸盤ひとつ取っても、僕の拳くらいの大きさがある。サリーも目を丸くして驚いている。

けれど、漁師さんは「ははは! 何言ってるんだ、これでも通常よりかなり小ぶりな方なんだぜ?」と笑うのだ。

海苔の時もそうだったけれど、エネルギーキューブが溶け出しているこの世界の海は、生き物たちの成長スピードやサイズを常識外れなものに変えてしまう。その凄まじい影響力を、僕は巨大なたこの吸盤を見つめながら改めて肌で実感していた。

「よし、じゃあいつものように出荷用の『茹で』の作業に入るからな!」

漁師さんがそう言うと、黒服たちも手伝って、火にかけられた巨大な寸胴鍋へとその巨大たこが投入された。

ぐつぐつと煮え滾る熱湯の中にたこが沈められると、一瞬で鮮やかな赤紫色へと色が変わり、太い足がキュッと内側へ綺麗に丸まっていく。

その様子を、隣でじっと見ていたサリーが不思議そうに僕の顔を覗き込んできた。

「ねえ、ヒロキ。どうして捕まえた後、わざわざすぐに熱湯で茹でるの? 生のままじゃダメなのかな?」

「これはね、寄生虫の予防のためなんだよ」

僕はサリーに分かりやすいように説明を付け足した。

「生のままだと目に見えない小さな虫や菌がいるかもしれないから、こうやって一度熱湯に潜らせることで、安全で美味しい食材になるんだ。『ししし屋』に届いているたこも、全部この茹でだこの状態から仕入れてるんだよ」

「へえーっ、安全に美味しく食べるための、大切なひと手間なんだね!」

サリーは納得したように尻尾を嬉しそうにパタパタと揺らした。

海苔の養殖場に続き、たこの市場。

普段、厨房で当たり前のように扱っている『ししし屋』の食材たちが、一体どんな場所で、どんな人たちの手によって、どんな想いで作られ、僕たちのもとへ届いているのか。

(こうして、自分たちが毎日作って食べる食材について、背景まで深く知る機会って……本当に大切なことだし、何よりすごく楽しいな)

ただレシピを再現するだけじゃない。この世界の自然の恵みと、一生懸命に働く獣人たちの活気を感じながら、僕は料理人としての幸福感を噛み締めていた。

「ヒロキ、次はあっちに行ってみようよ!」

無邪気に僕の手を引っ張るサリーの笑顔を見つめながら、僕はカントウの美味しいエネルギーを五感でたっぷりと吸収し、活力を満たしていくのだった。

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