67.僕と、コンテストの結果と、明太子
大盛り上がりを見せた『たこ焼き新ソースコンテスト』。
数あるアイディアの中から、見事栄冠を勝ち取ったのは、虎族のノムラ・コテツさんという方が考案した『甘辛ソース』だった。
さっそく提出されたレシピに目を通した僕は、言葉を失うほど感動してしまった。
「これ……すごいな。まさに『スイートチリソース』そのものじゃないか……!」
ニンニクの風味と唐辛子のピリッとした辛み、そこへ絶妙な甘さと酸味が加わったそのタレは、僕の元の世界でもタイ料理などで定番のあの味だった。
この世界の獣人たちが、既存の調味料や手に入る食材を組み合わせて自力でこの味にたどり着いたという事実に、彼らの「食への飽くなき探求心」を改めて突きつけられた気がした。
もちろん、たこ焼きとの相性もバッチリだ。外カリ中トロの生地に、このトロリとした甘辛ソースが絡むと、今までの和風な味付けとは一線を画す、エスニックで中毒性のある美味しさに化ける。
審査員一同、文句なしの満場一致での優勝決定だった。
そして、ユイナにあれほど突っ込まれた「ソース1年分」の具体的な量についても、レミ社長と相談してきっちり答えを出した。
導き出した大盤振る舞いの答えは、『お好み焼きソース』『塩ダレ』『てりやきソース』を、それぞれどっさりと「60本ずつ」、合計180本の贈呈だ。
「だいたい6日に1本消費する計算」という、一般家庭からすれば「そんなに使えるか!?」と思ってしまうような驚異のペースでの計算。けれど、これくらい規格外の量を進呈するほうが、イベントとしては最高に盛り上がるし、獅子丸食品としての「大盤振る舞い感」が出てちょうどいいのだ。
コテツさんの自宅に、トラック1台分はあろうかというソースのダンボールの山が運び込まれる様子を想像して、僕はちょっとだけクスッとしてしまった。きっと近所中に配ってもお釣りが来るレベルだろう。
コテツさんの甘辛ソース、早く『ししし屋』の店頭に出したいな。
今回の『たこ焼き新ソースコンテスト』は、新しい味の発見やたこ焼き器の普及だけでなく、僕にとってこの世界の「食の現在地」を知るための、ものすごく重要なリサーチの機会になった。
応募されてきた膨大なレシピを仕分けし、実際に試作を繰り返す中で、僕は2つの決定的な事実に気がついたんだ。
それは、この世界ではまだ『食材』として流通していないものの存在と、『ソース(タレ)』という文化そのものの認知度の低さだった。
僕の元の世界なら、たこ焼きのトッピングやソースの定番といえば「チーズ」や「明太子」が真っ先に思い浮かぶ。当然、この世界の住人からもそれらを使った斬新なアイデアが飛び出してくるだろうと予想していた。
けれど、結果は違った。
まず「チーズ」に関しては、プロセスチーズをただ単純に溶かして上からかけただけの、ひねりのない応募作がたった1つあっただけ。
とはいえ、この世界でチーズをたこ焼きに合わせようとしたその着眼点と熱意は嬉しかったので、その応募作には『特別賞』として各種ソース2本ずつセットを贈呈することにした。
そして「明太子」にいたっては、応募作どころか名前すら掠りもしなかった。
不思議に思って調べてみると、獣人たちには、そもそも『魚卵』を食べるという習慣そのものがないことが分かった。
ナンゴク出身のユイナに聞いてみても「魚の卵ば食べると?そんな残酷なことせんばい!」と真っ向から否定されてしまった。
いくら僕が「明太マヨ」の美味さを知っていても、ベースとなる食材への認知がなければ、彼らの頭からその発想が生まれるはずもなかった。
さらに、魚卵の文化を調べる過程で、もうひとつ衝撃的な事実に突き当たった。それが「海苔」についてだ。
『ししし屋』のたこ焼きやお好み焼きには、仕上げに「青のり」を振っている。だから当然、この世界にも「板海苔」が存在するものだとばかり思い込んでいた。
しかし、流通を遡ってみて驚いた。
この世界でも海苔の養殖自体は一応されている。だけど、技術的な問題なのか、あるいはそこまでの需要がなかったのか、「乾燥・粉砕して『青のり』にする」という段階で流通が止まっていたのだ。
僕たちの世界にあるような、四角く薄く成形された、あのパリッとした「板海苔」はこの世界には存在しなかった。
「そっか……まだ板海苔も、明太子もないんだ」
調べものの資料を閉じながら、僕は小さく息を吐いた。
でも、不思議とガッカリはしていなかった。むしろ、胸の奥からフツフツと新しいワクワクが湧き上がってくるのを感じていた。
この世界にないということは、裏を返せば、これから僕がそれらを仕掛けて流行らせる側に回れるということだ。
もし僕がロンじいに協力してもらって「板海苔を製造する機械」を作ったら?
もし僕が魚卵を美味しく食べる文化を根付かせて、自家製の明太子を作り出したら?
獣人たちのあの「奪えるものは奪う」という凄まじいハングリー精神なら、僕が新しい食材やその加工技術を提示した瞬間、きっとまた驚くようなスピードで吸収し、独自の進化を遂げさせていくはずだ。
「まだまだ、僕がこの世界に教えられる『美味しいもの』は山ほどあるな」
コンテストを通じて見えてきたこの世界の食の限界。それは僕にとって高い壁ではなく、これからいくらでも塗り替えられる、無限の可能性が広がった未来の地図そのものだった。




