62.サリーと、この先の進路と、邪な妄想
『ししし屋』のオープンからしばらく経ち、お店の営業もすっかり軌道に乗ってきた頃。
2年生のこの時期になると、学校生活に余裕が出てくる一方で、誰もが避けて通れない「現実」が突きつけられるようになる。――そう、卒業後の進路選択だ。
ある日の放課後、特別寮のリビングへ下りていくと、ソファのところでサリーが1枚の紙を前に完全にフリーズしていた。
声をかけようか迷って見ていると、その紙の頭には大きく『進路希望調査票』と書かれているのが見えた。「進学」か「就職」か、そして具体的な希望先を書き込む欄は、どれも白いままポッカリと空いている。
「うーーーん……」
サリーは黒髪のポニーテールを揺らし、尻尾をソファの背もたれにペチペチと退屈そうに叩きつけながら、深いため息をついた。
今のところ、将来の夢というものがサリーの中には朧げにしかないみたいだ。
周りのみんなは、アオイさんみたいに芸能界で自分の道を突き進んでる人もいれば、ピピみたいにしっかり先の計画を立てていそうな人もいる。それに比べて自分は……と、進路調査票を前に頭を抱えている。
「あー、でも、実家に戻るのもなあ……」
ぽつりと呟いて、サリーはペンを回した。
都会に出てきて、特別寮の仲間たちと過ごす刺激的で温かい毎日に比べたら、やっぱり寂しさを感じてしまうのだろう。何より、ここでの暮らしを気に入ってくれているみたいだ。
離れたくない。この場所に、ずっと残れる方法はないだろうか。
ぐるぐるとそんな思考を巡らせていたサリーの脳裏に、ふと、ヒロキの顔が浮かんだらしい。
「……いっそ、ヒロキと……」
「――って、にゃ、にゃにににに何を考えてるの、私ーーーっ!?」
そこまで口に出した瞬間、サリーはハッと我に返った。
みるみるうちに、猫耳の先から小麦色の頬までが真っ赤に染まっていく。
「何言っちゃってんの!? ヒロキは確かに凄いし、一緒にいると楽しいし、ずっと近くにいたいとは思うけど……って、それを進路調査票に書けるわけないじゃん! 担任の先生にどんな顔で見られるのよ!」
頭の中が大パニックに陥ったサリーは、誰に見られているわけでもないのに、頭の上で両手をぶんぶんと激しくバタバタさせた。真っ赤な顔のまま、手で顔を覆ってソファにバタンと倒れ込むサリー。
進学か、就職か。
まだ答えは出そうにないけれど、寮での日々が、サリーの「未来の選択肢」に少しずつ影響を与えているみたいだった。




