58.僕と、書類選考と、非情の通達
求人広告が出されてから数日後。
送られてきた履歴書の束が、僕の自室のデスクに届けられていた。
「地元密着型」を掲げただけあって、応募者はショッピングモールの周辺に住む獣人たちばかり。僕は小さな体を机の前に丸め、真剣な表情で一枚一枚の履歴書に目を通していた。
パラパラと捲っていると、優美林女子高校の生徒からの応募も何通か混ざっている。その中に、やけに見覚えのある、そして驚くほど達筆で丁寧に書かれた履歴書を見つけて、ヒロキは思わず手を止めた。
「ん? これって……アオイさん!?」
写真欄には、少し緊張した面持ちで微笑む熊族の美少女の姿。自己PR欄には『声の大きさには自信があります!ヒロキくんのために頑張ります!!』と熱い想いがギッシリと書き込まれている。
「丁寧に履歴書を書いて……働きたいなら直接言ってくれればいいのに」
僕は苦笑いしながら、一通りその熱意に満ちた履歴書を読んだ。しかし、すぐに現実的な問題に突き当たる。
「いやいや、ダメだ。アオイさんは芸能科の有望株だよ? そんな子がショッピングモールのフードコートで接客してたら、ファンが押し寄せて大騒ぎになっちゃう……」
お店の安全と、何よりアオイ自身の立場を考えると、深くため息が出た。
「よって、却下です。ごめんなさい」
心の中で手を合わせながら、アオイの履歴書にポンッと『不採用』の赤いハンコを押した。
気を取り直して次の履歴書を捲ると、今度もまた見覚えのある名前と写真が飛び込んできた。
「あ、近所のスーパーのイチカワさんだ!」
まだロンじい特製の変装用ヘッドギアが出来ていなかった頃、赤いパーカーのフードを深くかぶって買い物に行っていた時期から、彼を「赤ずきんのボク」と呼んで何かと可愛がってくれた狼族のおばちゃんだ。
「あのおばちゃん、レジ打ちが鬼のように早かったからなー。お昼の時間帯のレジを任せたら絶対に心強い。よし、採用!」
こちらは迷うことなく、ポンッと『採用』のハンコを押した。
こうして、地元の主婦層や他校の学生などを含め、合計15名の採用が決まった。
もちろん、これから始まる実際の厨房やレジを使った実地研修の段階で、適性を見てさらにふるいにかけることにはなる。けれど、ひとまず書類選考としてはこれで終わりだ。
デスクを片付けた僕は、選考結果の書類を持って特別寮のリビングへと下りていった。
リビングのソファでは、アオイが何やらそわそわとした様子で、耳をピコピコと動かしながら待っていた。僕がリビングに下りてきた瞬間、その大きな瞳が期待にキラキラと輝く。
そんなアオイの前まで歩み寄ると、僕は「不採用」の大きな赤文字が押された履歴書を、両手でそっと差し出した。
「アオイさん、ごめんなさい」
アオイは差し出された紙に目を落とし、そこに押された非情な二文字を確認した瞬間、文字通り頭を抱えて叫んだ。
「ガーン!!!」
本当に口に出して「ガーン」と落胆するアオイ。その隣でユイナが、黒髪のベリーショートを揺らして呆れたように声をかける。
「そりゃそうたい、アオイ。あんた今やテレビで見ん日はないくらいの売れっ子なんやけん。フードコートで働けるわけなかろうもん」
「だってぇ……! 私もヒロキくんの『ししし屋』で、一緒に『しししっ』ってやりたかったのにぃ……!」
大きな体を縮めて本気でシクシクと泣き真似を始めるアオイに、苦笑いしつつも、「お店がオープンしたら、一番に特等席で食べさせてあげるからね」となだめるのだった。




