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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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55.僕と、たこ焼きと、試験販売

新年のバタバタが少し落ち着いた頃、特別寮のリビングで、寮生全員が集まって、ちょっとした「作戦会議」が開かれていた。

実は、一般家庭にホットプレートや小型IHが爆発的に普及したとはいえ、『たこ焼き器』の存在と、そこから生まれる『たこ焼き』という料理は、未だに世の中に出回っていなかった。

現状では、ヒロキのいる特別寮や、そのごく周辺の獣人たちしか知らない「秘密の味」だったのだ。

「新しくオープンした『ししし亭』のメニューに、たこ焼きを入れるのってどうなの?」

サリーがそう提案すると、金髪のセミロングを揺らしたレミ社長は、顎に手を当てて「うーん……」と小さく唸った。

「それさ、マジで味は最高なんだけどぉ……『ししし亭』って一応、高級鉄板焼きじゃん? 目の前で職人がシャカシャカお肉焼くシックな空間で、丸い穴に生地流してクルクル回すの、ちょっとラグジュアリー感と合わないっていうか、客層がバグる気がするんだよねー」

流石は敏腕ギャル社長、ブランドイメージの管理はシビアだ。

「確かに、たこ焼きはもっとこう、お祭りとか、みんなでワイワイつつく大衆的な楽しさがあるもんなぁ」とヒロキが納得していると、アニーが身を乗り出してきた。

「だったら! うちの学校の学生食堂で、試験的に売り出してみるのはどうや!? 優美林の生徒やったら、ジャンクで美味いもんには絶対目が早いはずやで」

「それ、めっちゃアリじゃん! アニー、天才! 学食の特別ブースなら、校長に話してフェイの権力で一発で場所確保できるしね!」

レミ社長がパチンと指を鳴らし、トントン拍子で「優美林高校・学食たこ焼き試験販売」のプロジェクトが始動することになった。

迎えた販売当日。

学食の一角に設けられた特設ブースには、ロン謹製ステンレス製のたこ焼き器が並んだ。

焼き手を務めるのは、もちろんヒロキと、カンサイ出身のアニーの2人。

「アニー、生地の出汁の加減、これで大丈夫?」

「バッチリや、寮長さん! たこも贅沢に大きめの入れてな! 油はごま油をちょっと多めに敷くと、外がカリッと仕上がるんや!」

2人が息の合ったコンビネーションで、熱々の鉄板にジュワーッと生地を流し込み、たこピックを両手に持ってリズミカルにクルクルとたこ焼きを丸めていく。ニンニクやソースとはまた違う、出汁とごま油の香ばしい匂いが学食中にブワッと広がっていく。

そして、この記念すべき初売りの「売り子」には、真っ先にピピとアオイが立候補していた。

「学年委員長として、新しい食文化の導入を見届ける義務があります!」と黒い丸メガネを光らせるピピ。

そして、「ヒ、ヒロキくんのお手伝い、私、頑張ります……っ」と気合を十全にみなぎらせていたアオイだったのだが――。

「――ごめんなさい、アオイ。今日の午後から、新曲のプロモーションで急遽ラジオの生放送が入っちゃったの。すぐに衣装合わせに行ってちょうだい」

「ふぇぇ!? そ、そんなぁ……! ヒロキくんのたこ焼き……私の初売り子がぁ……っ」

マネージャーからの非情な連絡により、アオイは芸能活動の忙しさゆえに、泣く泣く売り子役を断念せざるを得なくなってしまった。半泣きになりながら「ヒロキくん、ごめんなさいいぃ……!」と熊族のパワーでヒロキの手を握りしめ(ちょっと骨が軋んだ)、後ろ髪を引かれまくりながらスタジオへと連行されていくアオイ。

そんなアオイの思いを背負い、ピンチヒッターとして売り子役に名乗りを上げたのは、サリーだった。

「アオイの無念は私が晴らすよ!……っていうか、特権で焼き立てを最初につまみ食いさせてくれるなら、何時間でも大声出すから!」

黒髪ロングのポニーテールを揺らし、お腹を鳴らしながらやる気満々のサリー。

「はいはい、サリーの分はちゃんと取っておくから、しっかり呼び込み頼むよ」

「任せて! ピピ、いくよ!」

「ええ、いきましょう!」

ピピとサリー。スタイルの良い2年生コンビがブースの前に立つと、それだけで学食内で凄まじい目立ち方をする。

「みんな注目ー! 特別寮の新メニュー『たこ焼き』だよー! 食べないと一生後悔するよー!」

「獅子丸食品の全面バックアップによる試験販売です! 生徒の皆さん、ぜひ一皿試してみてください!」

サリーのハツラツとした大声と、ピピの委員長らしい理路整然とした呼び込み。そして何より、ブースから漂う「未体験のめちゃくちゃ良い匂い」に釣られて、お腹を空かせた女子生徒たちが、一人、また一人と足を止め、ブースの前に集まり始めていた。

ごま油を多めに使ったたこ焼きは、僕が最初に作ったものに比べると、外側のカリカリ具合が上がったので、中のトロトロ具合との対比がわかりやすくなっていた。

食べた時の熱さにびっくりする獣人も多かったが、今までにない食感と、上にかかったソースの味に、試験販売は概ね良好に終わる。

アニーとサリーの普通コース組はクラスメイトから、次の販売はいつなのかということと、

ちびっこ寮長を紹介してほしいという要望が殺到していた。

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