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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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51.僕と、大パーティーと、新たなる目標

『それでは、獅子丸食品さんの商品のヒットと、優美林高校チアリーディング部世界大会第5位と、サカイ・アオイさんの歌手デビューと、今後の皆様の健康を願って、かんぱーーい』

ヒロキの音頭で大パーティーが幕開けた。

優美林高校の学生食堂に、総勢数十人の獣人たちの歓声と、グラスの触れ合う爽快な音が響き渡った。

獅子丸食品から発売されたソースやごま油の大ヒット、コニーたち優美林高校チアリーディング部の世界大会第5位という快挙、そしてアオイさんの歌手デビュー決定。

これでもかというほどのおめでたい話題を全部乗せにした、史上最大の『大完成&お祝いパーティー』が幕を開けた。

リビングから食堂にかけて並べられた長机の上には、まさに僕がこの世界で作ってきた料理の総決算アーカイブとも言える、圧巻のメニューが文字通り山積みにされていた。

特製ソースをたっぷり塗った熱々のお好み焼きやたこ焼きはもちろん、ジュージューと香ばしい音を立てる焼肉や、サリーお気に入りの焼きおにぎり。

大皿に盛られた濃厚なカルボナーラに、新開発の中濃ソースをドバッとかけて食べる揚げたてサクサクのとんかつやメンチカツ。

デザートにはふわふわのパンケーキがうず高く積まれ、スープコーナーには鶏ガラスープベースの優しい卵スープが湯気を立てている。

「うわぁぁ! これ全部食べてええの!? うち、天国に送り人にされたんちゃうか!?」

アニーが黒い三つ編みを激しく揺らし、小さな身体をピョンピョン跳ねさせながら、お皿にお好み焼きととんかつをこれでもかと盛り付けている。

ヨーコ先輩も「チア部のみんな、世界大会の分もしっかり食べるよ!」と笑顔で部員たちを引っ張り、他のみんな自分の好きな料理を好きなだけお皿に盛って、本当に幸せそうに笑い合っていた。

賑やかに弾ける獣人たちの笑顔、お皿いっぱいに盛られた美味しそうな料理。

その、誰もが一切の遠慮なく「食」を楽しんでいる最高の景色を見つめていた時――僕の胸の中に、これまでにないほど熱く、明確な「一つの目標」がすとんと落ちてきた。

僕は、フルートグラスに入った琥珀色のぶどうの炭酸水を優雅に傾けているレミ社長の側へと、ゆっくり歩み寄った。

「レミ社長、ちょっといいですか」

「ん〜? ヒロキくんじゃん! 最高のパーティーだねー、うちのソースもごま油も、みんなガツガツ食べてくれてマジ感無量なんだけど!」

白衣を脱いで、今日は華やかなパーティードレスに身を包んだレミ社長が、サングラス越しにニカッと笑う。僕はその隣に並び、大はしゃぎするみんなの姿を見つめながら静かに語りかけた。

「レミ社長。僕、いつか『食べ放題のお店』を作りたいです」

「……たべ、ほうだい?」

聞き慣れない言葉に、レミ社長がグラスを止めて不思議そうに僕を見た。

「そうです。決まった金額をもらったら、そこから先は、お客様みんなが自分の好きなものを、お腹いっぱい好きなだけ食べられるお店です。……そう、まさに、今ここにあるこの景色みたいなお店を作りたいんです」

僕は楽しそうにたこ焼きをハフハフしているアニーちゃんや、焼きおにぎりを美味しそうに頬張るサリーを指差した。

「国籍も、種族も、身体の大きさも関係なく、みんなが同じ場所で、自分の食べたいものを食べたい分だけ楽しんで、笑顔になる。今はまだ、僕のレパートリーだけじゃメニューが足りないかもしれない。だけど、いつか絶対に実現可能だと思っています。……レミ社長。そのときが来たら、僕に力を貸して、協力してくださいね」

僕がまっすぐ彼女の目を見てそう言うと、レミ社長は一瞬驚いたように目を丸くした。

だけど、すぐにフッと口元をビジネスパーソンの不敵な笑みに変え、フルートグラスを僕のグラスにカチンと軽くぶつけた。

「……あはっ、やっぱりヒロキくんって、たまにとんでもない爆弾落としてくるよね。好きなものを、好きなだけ……。それ、食を扱う獅子丸食品のトップとして、乗らないわけにはいかないじゃん?」

レミ社長は楽しそうに髪をかき上げ、僕の頭のパンダ耳を優しく小突いた。

「いいよ、約束。その最高のビジネス、絶対にうちが一番のパートナーになってあげる。だからさ、それまでに世界中の胃袋を気絶させるようなメニュー、もっともっとたくさん開発しといてよね、ちびっ子寮長さん?」

「はい! もちろんです!」

僕の頭のパンダ耳が、未来の大きな夢に向かって、嬉しそうにピコピコと激しく跳ねた。

「食べ放題、かぁ……。うん、マジで夢が広がりまくるね」

レミ社長はぶどうの炭酸水を小さく一口含むと、会場の賑わいを値踏みするような、鋭くも楽しげなビジネスパーソンの目で全体を見回した。

「獅子丸食品がバックアップするとなれば、ぶっちゃけどんな形でも最高の店を作れる自信はあるけど……ヒロキくん自身は、どんなお店がやりたいの?」

レミ社長からの鋭い問いかけに、僕は改めてみんなの笑顔を見つめ直した。

「僕が一番やりたいのは……やっぱり、いろんなジャンルの料理を、誰もが気軽に足を運べるようなリーズナブルな価格で、お腹いっぱい食べてもらえるお店です。この世界には、まだみんなが知らない美味しい料理がたくさんありますから。それを一つの場所で、宝探しみたいに楽しんでほしいんです」

レミ社長は満足そうに頷いた。けれど、僕はそこで言葉を止めず、自分自身への戒めを込めるようにして続けた。

「でも……その形だけに凝り固まらないようにはしたいと思っています」

「お、言うね〜。どういうこと?」

「リーズナブル路線は僕の理想です。だけど、体が大きくてお肉をたくさん食べたい犬族の生徒もいれば、アニーちゃんみたいに少しずつ美味しい粉ものを味わいたい子もいる。種族や文化、その時々のニーズに合わせて、たとえば『今日はがっつり焼肉食べ放題コース』とか、ゆくゆくは『ちょっと贅沢な大人の食べ放題』みたいな展開だってアリかもしれない。一つの成功した形に縛られて、誰かの『食べたい』を取りこぼしちゃうのは、一番もったいないですから」

元の世界にあった、多種多様な食べ放題の文化。その歴史を知っているからこそ、一つの正解に閉じこもるのではなく、この世界の獣人たちの生態や好みに合わせて、柔軟に形を変えていける柔軟性を持っていたかった。

「あはは! 柔軟性もバッチリじゃん。守りに入らないその姿勢、あたしは大好きだよ」

レミ社長は嬉しそうに目を細め、僕のグラスにもう一度自分のグラスをカチンと合わせた。

「いいね、ヒロキくん。あんさんのその頭の柔らかさがあれば、どんな面白い店だって作れそうじゃん。あたしも負けてらんないわ。それじゃあ、未来の『フードパラダイス』の実現に向けて、お互いじっくり牙を研いでおこうね!」

「はい、よろしくお願いします!」

賑やかな音楽と、獣人たちの幸せそうな笑い声が響く大食堂。

僕は、お皿いっぱいに料理を盛って「これ最高やわ!」とはしゃぐアニーや、焼きおにぎりを嬉しそうに齧るサリーの姿を心に焼き付けながら、未来の店で飛び交うであろう無数の「美味しい!」の声を想像して、密かに胸を高鳴らせるのだった。


「それじゃあパーティーの締め括りに……アオイ、いっちゃって!」

フェイ先生がステージ代わりの食堂の演台をパシパシと叩きながら、マイクを握るアオイさんを促した。

「は、はい……! あの、みなさん、今日はおめでとうございます……。その、とっても緊張しますけど……精一杯、歌わせていただきます……っ」

マイクを両手でぎゅっと握りしめ、耳をペタンと伏せておどおどしているアオイさん。普段通りの、ちょっと気弱で優しすぎる彼女の姿に、食堂のあちこちから「アオイちゃんがんばれー!」「デビューおめでとうー!」と温かい声援が飛ぶ。

だけど、伴奏のイントロが静かに流れ始め、彼女がそっと息を吸い込んだ瞬間――会場の空気が、文字通り一変した。

「――ッ!!!!」

アオイさんの口から溢れ出したその第一声に、僕も、レミ社長も、そして賑やかにはしゃいでいたチア部のみんなも、全員が完全に言葉を失って釘付けになった。

素晴らしい高音の伸び。そして、普段の小さく震えるような話し声からはおよそ想像もつかない、食堂の壁をビリビリと震わせるほどの圧倒的な声量。

それは、聴く者すべての胸の奥を激しく揺さぶる、どこまでも澄んだ力強い歌声だった。

「な、なんやこれ……鳥肌止まらへん……っ。アオイさん、めちゃくちゃカッコええやんか……!」

さっきまで口いっぱいにたこ焼きを詰め込んでいたアニーが、箸を止めて、つぶらな瞳をキラキラと輝かせながらステージを見つめている。

隣ではサリーも、尻尾の動きをピタッと止めて、その歌声の一音一音をこぼさないようにじっと耳を澄ませていた。

元々は歌手志望で優美林高校の芸能コースに入学したというアオイさん。パンケーキの配信をきっかけに掴んだチャンスかもしれないけれど、彼女の根底にあるその実力は、まさに本物、いや、本物以上だった。

ステージの上でスポットライトを浴びる彼女の横顔には、もういつもの気弱さはカケラもなかった。ただ純粋に、歌う喜びと力強さに満ちあふれた、一人の完璧な「歌姫」の姿がそこにはあった。

曲のラスト、天高く突き抜けるような見事なロングトーンが食堂に響き渡り、余韻を残して伴奏が静かに終わる。

一瞬の静寂の後。

「うおおおおおおおーーーーっ!!!」

「アオイーーーッ!! 最高ーーーっ!!」

割れんばかりの爆発的な大歓声と拍手が、嵐のようにアオイさんに降り注いだ。

「ふぇぇ、あ、ありがとうございましたぁ……っ!」

曲が終わった瞬間、一秒でいつもの「おどおどアオイさん」に逆戻りして、顔を真っ赤にしながらペコペコと頭を下げて演台の後ろに隠れようとする彼女の姿に、会場は今度は温かい笑顔と拍手で包まれる。

美味しい料理でお腹を満たし、最高の歌声で心を震わせる。

僕がもたらした食の技術や知識がみんなを繋ぎ、そしてみんなの持つ輝かしい才能が、この特別寮の未来をどこまでも明るく照らしていく。

鳴り止まない拍手の中で、僕は頭のパンダ耳を嬉しそうにパタパタと揺らしながら、この素晴らしい世界の仲間たちと出会えた幸せを、改めて噛み締めていた。

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