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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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49.僕と、レミの機転と、ごま油

「フフン!」

さまざまな意見が飛び交う中、レミ社長が急にサングラスのフレームをクイッと押し上げ、鼻を鳴らした。

「実はさ〜、あたしの超絶最高な秘密兵器が隠されてたんだけど……もしかして誰も気付いちゃってない感じ〜?」

腕を組んで完璧なドヤ顔を決めるレミ社長。すると、後ろに控えていた研究所員たちまで、まるで統率されたダンスのように一斉に腰に手を当て、フンスと胸を張ってふんぞり返り、これ以上ないほどのドヤ顔を作り上げた。

「えっ、秘密兵器……?」

試作品のソースにまだ何か仕掛けがあったのだろうか。僕はスプーンを取り直して、何種類かのソースをもう一度慎重になめてみた。粘性、甘み、出汁の香り……。だけど、一通り味見し直しても、それらしい違和感も隠し味もまったくわからない。

「うーん……ごめんなさい、僕にはちょっとわからないです。アニーちゃんは?」

「うちも分からへんわ。どれも完璧に美味いとしか言いようがないで?」

僕たちが首を傾げると、レミ社長は待ってましたとばかりに、人差し指を顔の前で「チッチッチッ」と左右に振った。

「甘いな〜、ヒロキくん! 秘密兵器はね……ソースの“中”じゃないんだわ!」

そう言ってレミ社長がニヤリと笑いながら手元から差し出してきたのは、ソースのボトルではなく、琥珀色のさらっとした液体が入った小さな小皿だった。

「これの匂い、嗅いでみてよ」

促されるままに小皿を受け取り、鼻先へ近づけてみる。

その瞬間、ソースの濃厚な香りを一気に突き抜けて、信じられないほど香ばしく、どこか力強い、だけど信じられないほど甘やかな芳香が鼻腔をくすぐった。

「あ……! もしかしてこれ、『ごま油』ですか!?」

「ピンポーン! 大正解〜〜!!」

レミ社長がパチンと指を鳴らす。

「ほら、こないだ『獅子丸印の焼肉のたれ』のしょうゆ味作ったじゃん? あんときヒロキくん、白ごまを入れたでしょ。あたしさ、あのたれを試食したときに『このプチプチしたやつ、風味ヤバくね?』って目をつけたわけ。で、研究チームに頼んで成分を徹底的に調べてもらったらさー、ごまって油分がめちゃくちゃ含まれてることが発覚したの!」

「それで……絞ってみたんですか?」

「そう! 『これ、機械でぐぐぐーーって超高圧で絞ったら、とんでもなく美味い油が出るんじゃね?』って思ってやらせたらさ、ビンゴ! こんな最高に香ばしい油が取れちゃったってわけ!」

僕は小皿の中の澄んだ琥珀色の液体を見つめながら、心の底から脱帽していた。

元の世界では当たり前のように存在していた「ごま油」。だけど、この世界ではまだ誰もその存在を知らなかったはずだ。

それを、焼肉のたれの材料として渡したわずかな白ごまの風味から可能性を見出し、成分分析を経て、文字通り新しい商品を「絞り出して」みせるなんて。

獣人たちの食に対する探究心と技術力、そして何よりレミ社長の驚異的なビジネスの嗅覚は、僕の想像を遥かに超えていた。

「すごい……さすがレミ社長です。これ、お好み焼きの仕上げに少し塗るだけでも風味が化けますし、それこそさっきの中濃ソースと一緒に揚げ物に合わせても最高ですよ! 万能調味料として絶対に大ヒットします!」

「でしょでしょ!? よーし、お好み焼きソース、中濃ソース、そしてこの『獅子丸特製ごま油』の3連発で、カントウ中、いや世界中の胃袋をハックしちゃうよー!」

レミ社長のイケイケな号令に、ふんぞり返っていた所員たちも「おー!」と熱く拳を突き上げる。

新商品のアイデアが次々と溢れ出るこの熱気の中で、アニーちゃんは「ごま油……なんやこれ、めちゃくちゃええ匂いやん……」と早くもたこ焼きに垂らすシミュレーションを始めて目を輝かせている。

偶然の発見からまた一つ、この世界の食卓を劇的に豊かにするピースが揃おうとしていた。

「なるほど……! この世界での『油』って、主に菜種かトウモロコシから精製されたものが主流でしたもんね。そこにこの芳醇な『ごま油』が加わるとなると……マジで料理の次元が一つ変わっちゃいますよ!」

僕が興奮気味にそう付け加えると、レミ社長は「でしょー!?」と、自慢の金髪をなびかせてさらに胸を張った。

それまでこの世界のキッチンを支えていたのは、クセのない菜種油やコーン油。どれも素材の味を邪魔しない名脇役たちだ。

だけど、このレミ社長が絞り出した『ごま油』は、それ自体が圧倒的な主役級の香りとコクを持っている。

「菜種とかの油もサラッとしてて使いやすいけどさ、このごま油のパンチ力は完全に別格じゃん? 料理の仕上げにひと回しするだけで、一瞬でごちそうに変身しちゃう魔法のオイルってわけ!」

レミ社長の言葉に、アニーちゃんも小さな鼻をクンクンと鳴らしながら、激しく同意するように三つ編みを揺らした。

「ホンマやわ! 菜種の油やったら、ただお肉や粉を焼くだけの道具やけど、この油はそれ自体が『旨味』になってる。うちのカンサイの直感が言うとるわ、これを使ってたこ焼き焼いたら、外側がカリッカリになって風味もエグいことになるって……!」

「アニーちゃん、大正解! 分かってる〜!」

レミ社長とアニーちゃんがバチンとハイタッチを交わす。150cmと180cm超えの凸凹コンビだけど、美味しいものに対する情熱のロジックは完全に一致しているみたいだ。

隣ではサリーも「ヒロキ、これをお肉の炒め物に使っても絶対に美味しいよね」と尻尾を嬉しそうにパタパタと振っている。

既存の菜種油やトウモロコシ油という常識をひっくり返し、焼肉のたれの白ごまから全く新しい調味料を生み出してしまった獅子丸食品の技術力。

伝統的な菜種油の歴史に、僕たちの『ごま油』が新たな風穴を開ける日は、もうすぐそこまで来ていた。

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