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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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44.僕と、一生のお願いと、大事な人

「ヒロキさーん!」

スーパーで今晩の食材を選んでいると、背後からよく通る、元気な声が降ってきた。

振り返ると、そこにいたのは見上げるような高身長――あの優美林高校チアリーディング部の主将、198cmの犬族の先輩だった。

「あ、チア部の……! 先日は優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます! 実はヒロキさんに、一生のお願いがありまして……!」

大きな耳をパタパタと揺らしながら、彼女は僕の目の前で両手を合わせて懇願してきた。聞けば、国内大会での圧倒的な優勝が評価され、今度はなんと『世界大会』への出場が決定したのだという。

「それで今度、壮行会をするんですけど……みんな『あのヒロキさんのいなり寿司を食べなきゃ世界一は狙えない!』って大騒ぎで。また作っていただけないでしょうか……っ?」

そこまで期待されたら料理人として断る理由はない。ただ、問題はあの贅沢な具材だ。

「ちょっと待ってくださいね。あの松茸が入手できるか、今すぐ確認してみます」

僕はその場でスマホを取り出し、ロンじいさんに連絡を入れた。元の世界では秋の味覚だけど、この世界の生態系は一味違う。電話の向こうでロンじいさんは、ガハハと豪快に笑った。

『おぅ、ヒロキか! あのキノコなら裏山で年中いくらでも穫れるから、好きなだけ持っていきなさい!』

エネルギーの満ち溢れた土地の恩恵に感謝しつつ、ひとまず食材のクリアを確認する。あとは学校の敷地内での提供になるため、学校側との兼ね合いや手続きについて、フェイ先生とコニーに一度確認する必要がある。

「材料は大丈夫そうです。学校への確認が取れたらすぐにコニー経由で折り返し連絡しますね」

僕がそう伝えると、彼女はパッと表情を輝かせた。

「本当ですか!? ありがとうございます! あ、遅遅ながら、私、芸能コース3年のシバ・ヨーコと言います。連絡、楽しみに待ってますね!」

彼女は抜群のスタイルを揺らしながら、颯爽とスーパーの奥へ歩いて行った。

……と、その直後。周囲の買い物客から、うっすらとひそひそ話が聞こえてくる。

「おい、今の……シバ・ヨーコだよな? ドラマに出てる……」

「ってことは、一緒にいるあのちっちゃい大熊猫族の子って……噂の『ちびっ子寮長』か!」

周囲の視線が一気に僕の頭のパンダ耳に集まり、僕は大急ぎでカゴを持ってレジへと滑り込んだ。

「ええっ!? ヨーコ先輩がヒロキに直談判しにいったの!?」

寮に戻ってコニーに事の顛末を話すと、彼女は狐耳をピコピコと跳ねさせて驚いた。

「ヨーコ先輩、超有名人だよ! 芸能コースのトップで、チア部の主将やりながらゴールデンタイムのドラマで主演張ってるんだから。学校でも誰もが憧れる大スターだよー!」

そんな大物がわざわざスーパーで僕に声をかけてきたのかと、改めて事の大きさに圧倒される。

……と、その時。

リビングのソファの影から、なぜか頭の熊耳を力なく「シューン……」と完全に寝かせ、大きな身体を小さく丸めているアオイさんの姿が目に入った。

「アオイさん? どうしたの?」

「……ヨーコ先輩、とっても綺麗で、お芝居も上手で、チア部の主将で……そんなすごい人が、ヒロキくんに直接……シューン……」

どうやら、先日のCMデビューで一躍時の人になったアオイさんだけど、本物の大スターであるヨーコ先輩の名前を聞いて、気弱な彼女はすっかり気後れし、謎の劣等感(と、ほんの少しの独占欲?)で落ち込んでしまったみたいだ。

切なげに僕を見つめるアオイさんがあまりにも可哀想で、僕は彼女を宥めようと、一歩歩み寄って真っ直ぐにその瞳を見上げた。

「そんなことないよ、アオイさん。僕には、テレビの画面の中でも、普段の生活でも、ヨーコさんよりアオイさんの方がずっと輝いて見えるよ。……アオイさんは、僕にとって本当に大切な人ですから」

僕としては、純粋に彼女の素晴らしい食いっぷりや、いつも寮を支えてくれる優しさを称えた、100%「慰めと励まし」のつもりだった。実際、アオイさんは「……えへへ、ヒロキくん……」と、頬を真っ赤に染めて嬉しそうに耳をピコピコと復活させている。

よし、綺麗に解決したぞ。

そう思ってホッと息を吐いた、その瞬間。

「……なぬっ!?」

ダイニングのカウンターの向こうから、凄まじい地鳴りのような声が聞こえた。

見ると、食器を拭いていたサリーが、完全に手が止まった状態で、物凄いジト目を僕に向けている。黒い猫耳は不機嫌そうに真横に寝かされ、尻尾が床を「トントン、トントン」と不穏なリズムで叩いていた。

「へぇ……『ヨーコさんよりアオイさんの方が輝いて見える』、ねぇ……? 『大事な人』、ねぇ……?」

「サ、サリーさん? 目が、目が据わってるよ……!?」

「別にぃ? ヒロキが誰を一番大事にしようが、私はただの『お手伝い』だもんねー? フーンだ!」

あからさまにツンケンしながら、サリーはガチャンと派手な音を立ててお皿を棚に片付け始めた。

この前「ずっとお手伝いしてほしい」と言ってあんなに綺麗に解決したはずのロジックが、一瞬にして崩壊していく。

僕は頭のパンダ耳をペタンと伏せ、ただただ冷や汗を流すことしかできないのだった。

シバ・ヨーコ

女性。18歳。身長198cm

優美林女子高等学校芸能コース3年生。

コニーも所属するチアリーディング部の主将にして

連続ドラマで主演も務める新進女優。

犬族(柴犬系)。薄茶色髪のショートボブ。

ヒロキに部の士気向上のため、いなり寿司を作ってくれるよう依頼する。

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