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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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40.僕と、ソース作りと、大手企業

「……というわけだから、ヒロキくん。このプロジェクト、マジで爆速で進めるから期待してて!」

普段のしゃべり方こそ完全にギャル丸出しのレミ社長。だけど、彼女のその言葉にハッタリは1ミリも含まれていなかった。

実は彼女、幼少期から「獅子丸食品の令嬢」としての英才教育を徹底的に叩き込まれ、中高生時代は名門・優美林女子高等学校の「専門課程コース」を優秀な成績で卒業。

その後はエスカレーター式に優美林女子大学に進学し、経営学部をストレートで卒業した、正真正銘の才媛さいえんなのだ。

あの圧倒的なカリスマ性と、裏に秘めた本物の経営手腕は伊達ではない。

社長室に戻るやいなや、レミ社長は鋭い眼光を宿らせて各部署へ次々と的確な指示を飛ばし始めた。その姿は、先ほどの親しみやすいギャルから、一瞬にして数千人の社員を率いる若きリーダーのそれへと変貌していた。

「このタレとポン酢は、ホットプレートの普及の波に乗せる! 開発、製造、物流、全ライン最優先で動かして!」

その圧倒的なトップダウンの指示により、なんと、わずか『7日間』という異例の速さで巨大工場の生産ラインが完全に動き出したのだ。

原材料の調達から、にんにくの鮮烈な風味を閉じ込める特殊なボトリング技術の確立まで、すべてを7日間でクリアしてしまうあたり、獅子丸食品の底力と彼女のやり手ぶりが窺える。

「……で、実際の販売スケジュールなんだけど〜」

生産ラインが稼働したという連絡を受けて、特別寮のリビングでフェイ先生がスマホの画面をタップしながら教えてくれた。

「パッケージのデザインとか、全国のスーパーや流通網への配荷、あとはCMの仕込みなんかを考えると、実際に店頭に並ぶのは、ここからだいたい『30日後』ってところね」

「30日後……じゃあ、暦のカウントでいうと、240日を過ぎたあたりには、世界中のスーパーに僕のタレが並ぶってことですか?」

「そういうこと。ホットプレートも一般家庭にジャンジャン行き渡る頃合いだし、マジで完璧なタイミングだわ。やるじゃない、レミも」

フェイ先生が満足そうにワイングラスに(中身はぶどう果汁の炭酸水割り)を傾ける。

約30日後には、自分が作ったあの特製焼肉のタレとポン酢が、全国の食卓へ届けられる。そう思うと、なんだか急に大きな運命の歯車が回り始めたような気がして、僕の頭のパンダ耳はワクワクと緊張で小さくピコピコと震えた。

「ヒロキのタレがスーパーで買えるようになるなんて、凄いね! 私、毎日買いに行っちゃうかも!」

サリーが尻尾を嬉しそうに振りながら、自分のことのように目を輝かせている。

若きギャル社長の圧倒的なスピード感によって、僕たちの美味しいアイデアは、いよいよこの世界全体の食文化を大きく塗り替えようとしていた。


「……そういえばレミ社長、もう一つ、相談したい新商品のアイデアがあるんです」

獅子丸食品とのプロジェクトが爆速で動き出したある日、僕はリモート会議の画面の向こうにいるレミ社長へ、思い切って新しい提案を切り出してみた。

せっかく世界的大手食品会社のトップを味方につけたのだ。この強力すぎるコネクションを生かさない手はない。

僕が提案したのは、これまでの特別寮の設備や僕個人の力では、どうしても完成に辿り着けずに途中で断念していた『お好み焼きソース(中濃ソース)』の開発だった。

「お好み焼きソース……? なにそれ、ウスターソースじゃダメなの〜?」

画面の向こうで、レミ社長がペンをくるくる回しながら不思議そうに首を傾げる。

この世界にはサラサラとしたウスターソースはあるのだが、あのお好み焼きやたこ焼きに欠かせない、ドロッとして果実の甘みが凝縮された「中濃・濃厚ソース」の文化がまだない。

今の僕の技術力では、既存のウスターソースにケチャップを混ぜて強引に粘度を上げた「即席ソース」を作るのが精一杯。

だけど、様々な調味料を煮詰めてブレンドする『その手のプロ』である獅子丸食品の開発班に任せれば、僕の頭の中にある理想のソースが完璧に再現できるに違いないと考えたのだ。

「ウスターソースよりももっとドロッとしていて、リンゴやトマト、フルーツの甘みとコクがギュッと詰まったソースです。これができたら、ホットプレートを使った『お好み焼き』や『焼きそば』のポテンシャルが爆発的に跳ね上がります!」

熱弁する僕の言葉を聞いて、レミ社長の瞳が、再びビジネスウーマンの鋭い輝きを放ち始めた。

「……マジ? ソースのドロっとしたやつってこと? 確かにウスターだけじゃ、鉄板料理のバリエーションに限界あるな〜って思ってたんだよね。それ、うちの醤油やみりんの醸造・熟成のノウハウを使えば、マジでエグいクオリティのものが作れる気がする!」

さすがは名門・優美林の専門課程コースを出た才媛。新しい調味料がもたらす市場の可能性を、一瞬で理解してくれたようだ。

「超おもしろそうじゃん! 開発班にすぐ特設チーム組ませるから、ヒロキくん、その理想の味のイメージ、もっと詳しく教えて!」

「はい! よろしくお願いします!」

画面の向こうでギャル丸出しにガッツポーズをするレミ社長を見て、僕は心の底から救われたような気持ちになった。

元の世界でも、ソースといえば有名な「犬のマークのあのソース」をはじめ、老舗のプロたちが長年培った技術で最高の味を守り続けていた。

やっぱり、大量の野菜や果物を完璧なバランスで煮詰めるような高度なプロセスは、大企業の専門ラインにお願いするのが一番だ。

「凄いねヒロキ! 美味しいソースが完成したら、また特別寮で粉ものパーティーができるじゃん!」

後ろで買い出しのメモを書いていたサリーが、黒い猫耳をピコピコと嬉しそうに揺らして大はしゃぎしている。

頼もしすぎるギャル社長という最高の相棒を得て、ちびっこ寮長の頭の中にある「元の世界の美味しい記憶」は、また一歩、この世界の常識を塗り替える準備を整えるのだった。

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