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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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35.コニーと、いなり寿司と、チアリーディング

「いってきまーす!」

ある日の早朝、静かな特別寮にコニーの元気な声が響き渡った。

玄関へと猛ダッシュしていく金髪の三つ編みを追いかけるように、僕は厨房から身を乗り出す。

「コニー、朝ごはんは!?」

「ヒロキ、ごめん! 今日は本当に時間なくて!」

靴をパパッと履き替えるコニーに向かって、僕はあらかじめ用意しておいた、ずっしりと重みのある紙袋を思い切り放り投げた。

「いつもの用意したから、移動中にでも持ってって!」

「おっと! ありがとー、ちびっこ寮長!」

空中で器用に袋をキャッチしたコニーは、満面の笑顔で狐耳を揺らしながら、弾けるような軽やかさで寮を飛び出していった。

実はコニー、世界的に有名な優美林高校の中でも一際過酷とされる「チアリーディング部」に所属している。

この時期は大きな大会が間近に迫っているため、毎朝誰よりも早く寮を出て、夜遅くにくたくたになって帰ってくる生活が続いていた。

エリート校の体育会系、その本気の熱量には僕も圧倒されるばかりだ。

そんな彼女のために、片手でも手軽に食べられるエネルギー源として持たせたのが――『いなり寿司』だった。

もちろん、この世界に最初から出来合いの油揚げなんて売っているはずもない。

豆腐を作って薄く切り、絶妙な温度の油でじっくり二度揚げして作った完全自家製の油揚げだ。

それを醤油とはちみつで甘辛くジューシーに煮付け、中にはなんと、ロンじいさんの裏山で採れた松茸を贅沢に使った「松茸の炊き込みご飯」をぎっしりと詰め込んである。

「(……まぁ、『狐族といえばいなり寿司』っていう、僕の元の世界の短絡的なイメージで作ったんだけどね)」

本人が気に入ってくれれば大正解だ。

その日の夜遅く、部活を終えて帰ってきたコニーが、少し照れくさそうにプラスチックの空き容器を僕に返してきた。

「ヒロキ、今日もごちそうさま! あのさ、これ、めちゃくちゃ美味しいってチアの子たちにも大好評でさ……。みんな、もし今回の大会で優勝したら、お祝いにこれをもっといっぱい食べさせてほしいんだって!」

「え、チア部のみんなが?」

「うん! あ、もちろん無理ならいいんだけど……」

少し申し訳なさそうに狐耳をペタンと寝かせるコニー。

だけど、大好きなチアに全てを懸けてボロボロになるまで練習している彼女たちの「美味しいものが食べたい」というピュアな原動力モチベーションを、料理人として無下にできるはずがない。

僕は頭のパンダ耳をキリッと前へ向け、不敵に微笑んだ。

「わかった、任せといて! コニーたちが優勝したら、お腹いっぱいになるまでいくらでも作ってあげるよ!」

「本当!? やったーーーっ!!」

コニーは疲れも吹き飛んだ様子で僕に飛びつき、危うく熊族のアオイさん並みの力でハグされそうになった。

かくして、ちびっこ寮長の『特製松茸いなり寿司』を最大のモチベーションにした優美林高校チアリーディング部は、大会本番、他を寄せ付けない圧巻の演技を披露。

キレのあるダンスと一糸乱れぬ完璧なアクロバットで、文句なしの完全優勝を飾ったのだった。

そして後日、約束の約束を果たす時が来た。

場所は優美林高校の広大な食堂の一角。

約束通り、僕は朝から厨房にこもり、総勢10人の育ち盛りの女子高生チアリーダーたちのために、全部で『150個』ものいなり寿司を提供した。

大皿に山盛りにされた、黄金色に輝くいなり寿司のタワーは圧巻の一言だ。

「うわぁぁ……! これが伝説の『いなり寿司』!?」

「松茸の匂いが凄すぎる……!」

ユニフォーム姿のチアリーダーたちが、目をらんらんと輝かせながら一斉にテーブルを囲む。

当然ながら、全員が僕(168cm)よりも遥かに背が高く、スタイル抜群のエリートアスリートたちだ。

中でも一番高身長な犬族の子(主将)にいたっては、驚異の198cm。見上げるような巨躯の彼女たちが、僕の作ったいなり寿司を嬉しそうに両手で包み込んでいる光景は、どこか微笑ましくもある。

「せーの、いただきまーす!」

10人の女子高生たちが、一斉にいなり寿司を頬張った。

「んんん~~~っ!! おいしいいぃぃぃ!!」

「油揚げからジュワッて甘いお出汁が溢れてくる!」

「松茸のご飯と合いすぎて頭良くなりそう!」

食堂中に黄色い歓声が響き渡る。1人あたり15個という計算だったが、スポーツで極限まで引き締まった彼女たちの代謝と食欲の前には、150個のタワーなどただの通過点に過ぎなかった。

パクパク、もぐもぐ、ジュワリ。

凄まじい効率の良さで、山盛りだったいなり寿司があっという間に、本当に文字通り綺麗な空っぽの皿へと変わっていく。

「ふぅ……美味しかったぁ! 」

主将が満足そうに尾を振ると、彼女たちは一斉に視線を僕へと向けた。

「ヒロキくん、最高のお祝いをありがとう!」

「あ、はは、喜んでもらえて何よりで……わわっ!?」

次の瞬間、僕の身体は10人の強靭なチアリーダーたちによって、軽々と文字通りフワリと宙へ持ち上げられた。

「せーのっ、そーれ!!」

「わわわわっあーーーっ!?」

高い、高すぎる!!

普段から人を空中に放り投げるプロフェッショナルである彼女たちの胴上げだ。手加減されているとはいえ、抜群のチームワークと熊族・犬族らの野生のパワーによって、僕の小さな身体は食堂の天井間際、地上3メートルほどの空中へとひょいひょいとリズミカルに放り投げられた。

「あはは! ヒロキ、おめでとー!」

コニーが下で大爆笑しながら手を叩いている。

滞空時間の長すぎる胴上げに目を回し、僕は「美味しい料理は、時に世界一のパフォーマンスを生み出すんだな……」と、重力から解放された頭で、どこか他人事のように実感するのだった。

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