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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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34.アオイと、パンケーキと、生配信

「少数精鋭のエリート校」として世界的な知名度を誇る優美林女子高等学校。

それだけに、在籍する生徒たちはどのコースであっても世間から常に高い注目を浴びていた。

特にアオイの所属する「芸能コース」ともなれば、その一挙手一投足がメディアやネットを通じて瞬時に拡散される、いわば未来のトップスター候補生たちの集まりだ。

その芸能コース1年生がレギュラーを務める、世間注目度の高い生配信番組が存在した。

当然アオイも出演していたのだが、元来の激しい人見知りが災いし、これまではカメラの前でどうしても萎縮してしまっていた。

他の19名の精鋭たちが華やかに自己アピールをする中、192cmの圧倒的なスタイルを持ちながらも、いつもおどおどと画面の隅に隠れてしまい、ファンからも「背景と同化しているアッシュグレーの綺麗な子」くらいの認識に留まっていたのだ。

そんな中、番組の転機となる企画が持ち上がる。

世間に彗星のごとく現れ、爆発的な大ヒットを記録し始めていた『ホットプレート』。

その革新的な調理器具の活用法を紹介する特集コーナーが、番組内で組まれることになったのだ。

「……これなら、私でも、できるかも」

いつもは台本を前に震えているアオイの熊耳が、その時ばかりはシャキッと前を向いた。

本番のブザーが鳴り、カメラがアオイを捉える。

いつものおどおどした雰囲気は一変、彼女の前にホットプレートがセットされた瞬間、アオイの瞳に宿ったのは純粋に「ヒロキくんに教えてもらった大好きな料理を、みんなに広めたい」という真っ直ぐな情熱だった。

「重曹に……レモン汁を少し加えることで、苦味が消えて、信じられないくらいふっくら膨らむんです」

アオイの口から、驚くほど流暢で理路整然とした説明が飛び出す。

ボウルを握れば、僕を感動させたあの圧倒的な腕力とスピードで、ダマひとつない完璧な生地を高速で作り上げてみせた。

さらに、氷水に当てた生クリームをシャカシャカと凄まじい手さばきで泡立て、あっという間にツンとツノの立った濃厚なホイップクリームを完成させていく。

ホットプレートの上でぽつぽつと気泡が弾けた瞬間、フライ返しを鮮やかに滑らせてクルリ。

完璧に焼き上がった分厚いパンケーキが画面に映し出されると、スタジオ中にバターとはちみつの甘い香りが広がり、共演者やスタッフから「おおお……!」と地鳴りのような歓声が上がった。

皿に贅沢に重ねられ、冷たいホイップとバナナが添えられた特製パンケーキ。

それを口にした他の出演者たちは、「なにこれ!? フワフワでめちゃくちゃ美味しい!!」「お店超えてる!」と、文字通り胃袋と心をがっちりと掴まれて大騒ぎを始めた。

その様子がリアルタイムで配信されるやいなや、視聴者たちのコメント欄とSNSは未曾有の大お祭り騒ぎとなった。

「え、待って、あれ本当に普段画面の隅でおどおどしてるサカイ・アオイ!? 手さばきプロすぎてギャップで脳がバグる!!」

「自分が作ったパンケーキを満足そうに、めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔でハフハフ食べてる姿が死ぬほど可愛いんだけど……! 天使か……!?」

「腕まくりして泡立ててるときの躍動感ヤバかった。ていうか192cmの超高身長であのグラマラスさは反則。特にお胸のあたりが凄すぎて、パンケーキどころじゃない。」

料理を通じて人見知りの壁を完全に突破し、心からの笑顔を見せたアオイ。

そのギャップ、圧倒的な技術、そして隠しきれなかった抜群のプロポーションが世間のオタクやファンに見つかってしまったのだ。

この配信をキッカケに、アオイの人気は文字通り右肩上がりのロケットスタートを切ることになった。

「……というわけで、アオイの個人SNSのフォロワー数が、一晩でエグいことになってるんだけど」

特別寮のリビングで、スマホの画面を眺めながらコニーが興奮気味に叫んだ。

隣では、サリーが「アオイが有名になっちゃったら、あの美味しいパンケーキ競争率上がっちゃう?」と、ズレた心配をしながらたこ焼きを口に運んでいる。

「ふふん、当然の結果よ。うちの芸能コースの秘密兵器なんだから。まぁ、あの調理を仕込んだ『ちびっこ寮長』の手腕も、裏の功労者として認めてあげてもいいわね」

フェイ先生が炭酸水が入ったワイングラスを傾けながら、珍しく満足そうに僕の頭のパンダ耳を小突いた。

「えへへ……ヒロキくん。私、上手くできたよ……っ」

当の本人のアオイさんはといえば、世間での大バズりなんてどこ吹く風。

相変わらず身体を少し小さく丸めながら、僕の服の裾をきゅっと掴み、熊耳を赤くしてはにかんでいる。

「アオイさん、凄いです! 僕も配信見てましたけど、最高の焼き加減でしたよ!」

僕が満面の笑顔で親指を立てて褒めちぎると、アオイさんは嬉しさのあまり「……ん、ありがと!」と、今度は加減をして僕をそっと優しく抱きしめてくれた。

ちびっこ寮長の美味しい料理が、一人の少女の運命を大きく変え、この世界のエンタメ界にまで静かな、だけど確実な激震を走らせようとしていた。

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