31.僕と、たこパと、ベビーカステラ
夕方になり、学校の用事で不在だった兎族の学年委員長、ピピも無事に帰宅。
自室で仕事に没頭していたフェイ先生もダイニングへと呼び出し、特別寮のメンバーが全員揃ったところで、いよいよ(獣人の)世界初の「たこ焼きパーティー」が幕を開けた。
リビングの大きなテーブルの真ん中に、ロンじいさん特製のステンレス製たこ焼き器がドンと鎮座する。
黒い丸メガネの位置をクイッと直しながら、ピピがその近未来的なマシーンの構造をじっくりと観察し始めた。
「……素晴らしい造形ですね。ステンレスの重厚感と、この美しい銀色の輝き。一切の無駄がない完璧な設計です。ヒロキさん、もしこの器具を使って本格的にお店を開くとしたら、やはり名前は『銀』がつくような……」
「ピピ、それ以上は言わないでくれ!」
「え? なぜですか?」
元の世界における超有名チェーン店の影を察知した僕は、慌ててピピを静止した。
兎耳を不思議そうに傾げるピピをよそに、僕は気を取り直して「さあ、焼いていきますよ!」と声を上げる。
縦4個、横6個の計24個の穴。熱々に温まったプレートに油を馴染ませ、まずは王道のたこ焼き生地とタコを次々に投入していった。
ジュワワワッという心地よい音と香ばしい匂いが一気に広がる。
「ヒロキ、ここは私に任せて!」
すでにロンじいさんの家で調理工程を予習していたサリーが、やる気満々でたこピックを握った。
長い指先でピックを器用に扱い、フチの生地をくるり、くるりと穴の中へ巻き込みながら、驚くほどのスピードで綺麗な球体にひっくり返していく。
「すごーい! サリー、いつの間にそんな特技身につけたの!?プロの職人みたいじゃん!」
コニーが歓声を上げる。
綺麗に焼き色がつき、外はカリッと丸く仕上がったたこ焼きを、それぞれの皿へと取り分けていく。
あとは各自、特製ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節を好きなだけかけて、アツアツのうちに口へと運ぶ。
「はふっ、ふーっ、……んんん〜〜〜っ! おいしいいぃぃ!」
ハフハフと幸せそうに身悶えする一同。
その中で、僕はふと、あることに気がついた。
猫族のサリーが、出来立ての一番熱いたこ焼きを、一切舌を火傷する様子もなく「んーっ、トロトロ!」と器用に美味そうに食べているのだ。
「(どうでもいいことだけど……猫族だからって猫舌ってわけじゃないんだな。やっぱり動物の猫と、猫獣人は別物なんだな……)」
そんなことを思いつつ、パーティーは2周目へと突入する。
今度は具材のバリエーションを増やした。定番のタコに加え、ジューシーなソーセージ、ロンじいさんの裏山で採れた贅沢な松茸、トロ〜リととろけるチーズ。そして――あえて具材を何も入れない「具なし」の穴もいくつか作った。
「えーっ、ヒロキ、具を入れ忘れてる穴があるよ?」
最初は怪訝な表情を浮かべていたコニーだったが、焼き上がった「具なし」を口に入れた瞬間、その金髪の三つ編みをピクンと跳ね上げた。
「……あ! 逆にこれ、めちゃくちゃアリかも! 出汁の味とネギの香ばしさ、それに生地のモチモチ感が一番ダイレクトに分かる!」
「でしょ? 生地そのものを味わうには、具なしが一番なんだよ」
僕がフフンと胸を張ると、フェイ先生も「やるじゃない、寮長。」と炭酸水を片手に満足そうに微笑んだ。
そして、いよいよお楽しみの3周目。
「ここからが本番のデザートタイムです!」
僕は24個ある穴の半分に、アオイさんがその腕力で完璧に混ぜ上げてくれた『ベビーカステラ』の生地を流し込んだ。
重曹とレモン汁の化学反応で生地がグングン膨らんでいくため、穴からはみ出さないよう量をきっちりとコントロールする。こちらも「任せて!」と目を輝かせたサリーが、たこピックを滑らせて器用にクルクルと丸めていった。
甘いはちみつとミルクの香りが部屋中に満ちていく。
焼き上がった一口サイズのベビーカステラを大皿に盛る。そのままでも素朴で充分美味しいけれど、ここであらかじめ作っておいた秘密兵器の登場だ。
「お好みで、このホイップクリームとハチミツをディップして食べてみてください」
「待ってましたーっ!」
コニーとアオイが真っ先に飛びつく。
アツアツのベビーカステラの上に、アオイさんが魂を込めて泡立ててくれた冷たいホイップクリームをたっぷりと乗せ、ハチミツをたらり。
「冷たあつくて……甘くって、すっごく美味しい……!」
アオイさんが、自分の努力が最高の形で結実したのを感じて、熊耳をこれ以上ないほど幸せそうにふにゃりと寝かせた。
「これ、お店で売ってたら毎日買いに行っちゃうよ!」
ピピも丸メガネを曇らせながら、上品に、だけど驚くべきスピードでベビーカステラを口に運んでいる。
ロンじいさんの技術力、アオイさんのパワー、そして僕の持つ過去の知識。
それらが一つの食卓で完璧なロジックとして噛み合い、特別寮のメンバーに最高の笑顔をもたらしている。




