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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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30.僕と、褒められたい熊娘と、内緒のホイップクリーム

「ただいま戻りました!」

特別寮の厨房へ駆け込むと、僕はカゴから食材を取り出し、早速「保留」にしていた作戦の準備に取りかかった。

今回僕が作ろうとしているのは、あのステンレス製のたこ焼き器の形状をフルに活かしたスイーツ――『ベビーカステラ』だ。

元の世界ではお祭りの屋台の定番商品だったけれど、この世界にはそもそも調理器具の設置問題(大容量エネルギー問題)のせいで、手軽に食べ物を出すような屋台文化自体が存在していない。

「(でも、ロンさんの協力で小型IHやバッテリー式の調理器具が普及していけば、この世界にもいつか食べ物系の屋台が出てくるようになるのかもな……)」

そんな未来のロジックに少しワクワクしながら、僕はボウルに材料を計量していった。

まずは生地作りだ。小麦粉に卵、牛乳、はちみつ、そしてさっき買ってきた『重曹』を投入する。

重曹はベーキングパウダーと違って、加熱すると独特の苦味や黄ばみが出やすい性質がある。

そこで少量の「レモン汁(酸)」を加えることで、重曹のアルカリ性を中和しつつ、二酸化炭素の発生を促して苦味を消し、生地を内側から劇的にふっくらと膨らませる科学変化を起こす。

「これを泡立て器でダマがなくなるまでよく混ぜるんですけど……」

「あ、私、混ぜるのやる……っ!」

僕が泡立て器を持った瞬間、もっと僕の役に立ちたいと言わんばかりに、アオイさんが一歩前に出た。彼女が持つ熊族のパワーは僕とは比較にならない。

「じゃあ、お願いします。しっかり滑らかになるまで空気を含ませるように……」

「うん、まかせて……!」

アオイさんが泡立て器を握ると、もの凄いスピードで腕が動き、ボウルの中で生地が高速で回転し始めた。パワーがあるだけでなく、繊細にコントロールされたその動きのおかげで、あっという間にツヤのある完璧なカステラ生地が完成した。

「すごいですアオイさん! 僕がやるより何倍も綺麗に混ざってますよ。最高の出来です!」

「……っ! えへへ……お役に立てて、よかった……」

僕が本気で褒めると、アオイさんは嬉しさのあまり熊耳をパタパタと震わせ、顔を真っ赤にして微笑んだ。

「よし、次は『ホイップクリーム』作りです」

液体の生クリームに砂糖を加え、ボウルの底を氷水に浸しながら冷やす。

「もっと褒められたい……!」というオーラを全身から放ちながら、アオイさんが「これも、私が混ぜる……!」と立候補してくれた。

生クリームの泡立てはかなりの重労働だが、アオイさんの圧倒的なパワーとスピードの前には造作もないことだった。

シャカシャカシャカシャカと心地よい音が響き、みるみるうちにクリームが空気を抱き込んで重くなっていく。そして――。

「あ、アオイさん、ストップです! 完璧です!」

泡立て器を持ち上げると、ツンと綺麗にツノの立った、濃厚で滑らかなホイップクリームが完成していた。重曹の壁も、液体の壁も、アオイさんのパワーで完全に突破した。

「さて……たこパの前に、このクリームの出来をちょっとだけ試食してみましょうか。ただし、フェイ先生にバレると全部没収される可能性があるので、静かにね」

僕は自室で仕事をしているフェイ先生に気づかれないよう、人差し指を口に当ててウインクした。

アオイさんと、いつの間にか厨房を覗き込んでいたサリー、コニーがゴクリと唾を飲み込んで深く頷く。

食パンを取り出し、耳を落として4等分にカット。そこに出来立てのホイップクリームをたっぷりと乗せ、即席のクリームサンドを作った。

「はい、みんな1個ずつ。せーので一口でいこう」

4人で頭を寄せ合い、声を潜めてパンに齧り付いた。

「(……んんっ! 美味い!)」

冷やしながら一気に泡立てたおかげで、口溶けが驚くほど滑らかだ。ミルクの濃厚なコクと砂糖の優しい甘さが、パンの塩気と合わさって口いっぱいに広がる。

「んんん~~~っ!!」

サリーが声を殺しながら、美味さのあまり金の尻尾を激しく左右に振った。

「何これ超おいしい! ふわふわで甘くって、幸せすぎるんだけど……!」

コニーが三つ編みを揺らして、声を潜めた限界の音量で大興奮している。

「……すごく、美味しい。甘くて、冷たくて……これ、いくらでも食べられちゃう……」

アオイさんも自分で作ったクリームの味に感動したようで、うっとりとした表情で頬を抑えている。もちろん、僕のパンダの耳も嬉しさでピコピコと元気に跳ねていた。

「よし、試作は大成功です。このクリームとアオイさんが混ぜてくれた生地を使って、夕飯はいよいよ本番の『たこ焼き&ベビーカステラパーティー』を開きますよ!」

「「「おーーーっ!!(小声)」」」

フェイ先生の部屋がある方向を気にしながら、僕たちは小さなガッツポーズを交わし、夕暮れに向けてパーティーのロジックを完璧に組み立てていくのだった。

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