21.僕と、鶏ガラと、ワイルドベアー
デパートをあとにして、僕たちは帰りがけに狼おばちゃんのいるいつものスーパーへ立ち寄ることにした。もちろん、僕の頭には赤い頭巾が深くかぶられている。
「あら、赤ずきんのボク。今日は優美林のお姉さんたちに囲まれて、モテモテねえ」
レジに並ぶと、狼おばちゃんが大きな耳をピコピコと動かしながら、ニヤニヤとからかうような声を上げてきた。
僕の後ろには、制服姿のサリー、コニー、アオイ、ピピがぞろぞろと並んでいる。
「いや、そういうんじゃなくて、みんな同じ寮の仲間なんです」
僕が苦笑いしながら弁明すると、おばちゃんはさらに身を乗り出し、鋭い犬歯を覗かせてニカッと笑った。
「はいはい、そういうことにしておくよ。……で、実際のところ、どのお姉さんが本命なんだい?」
あからさまな質問が飛んできた瞬間、僕の後ろの空気が一変した。
サリーは黒い猫耳を急に激しくピコピコと動かし始め、
コニーは金の三つ編みをいじりながら視線をあちこちに彷徨わせている。
アオイにいたってはグレーのクマ耳を限界までペタンと寝かせて顔を真っ赤にしているし、
いつも冷静なピピまでもが黒い丸メガネの位置を何度も直しながら不自然に咳払いをしていた。
なぜかうら若き乙女獣人たちが揃ってもじもじし始めるという、なんとも言えない奇妙な空間がレジ前に出来上がる。
「おばちゃん、からかうのはそれくらいにしてください。それより、前にお願いしていた例のやつ……ありますか?」
僕が話を本来の用件へと戻すと、おばちゃんは「はいはい、分かってるよ」と言いながら、レジの奥からずっしりと重いポリ袋を取り出した。
「骨からスープを作るのかい? お店でも始めるつもりかい? 大変すぎて普通の家庭じゃやらないよ」
そう呆れ気味に言いながら、2羽分の鶏ガラが入った袋を僕に手渡してくれた。
この世界にも骨から出汁を取る技術自体はあるものの、顆粒だしのない世界でそれを一般家庭でやるのはあまりにも重労働。おばちゃんが驚くのも無理はなかった。
ありがたく袋を受け取ると、それを見ていたアオイが、少し赤みの引いた顔でボソッと呟いた。
「……鶏の骨、素揚げすると……カリカリして、香ばしくて……美味しいよね……っ」
はにかむような笑顔で、まるでフライドポテトの感覚で恐ろしいことを言うアオイ。
だが、それは噛む力が桁外れに強い熊族だから可能な芸当だ。
「……え、アオイ、骨ごといくの……?」
サリーが引きつった笑顔で黒い猫耳を後ろに伏せる。
「ああ……。アオイちゃん、ワイルドすぎ。カルシウムは摂れそうだけど……」
コニーも金の尻尾の動きをピタッと止め、ピピも丸メガネの奥の目を丸くして、ちょっと引いていた。
「アオイさん、今回は素揚げじゃなくて、この2羽分のガラからじっくりスープを抽出するんです。デパートで見たあの麺料理を、もっと美味しくするための秘密兵器を作りますよ」
僕がそう説明すると、引いていた一同の耳が一斉にピンと跳ね上がった。
「ヒロキがまた新しい何かを作ろうとしてる……!」
「お家で、あの極上スープが飲めるのですか……っ」
おばちゃんにお礼を言ってスーパーを出ると、4人はすでに「本命」の話題なんて忘れたように、鶏ガラが入った袋を興味津々で見つめている。
僕は頭の中でレシピの設計図を組み立てながら、みんなと一緒に特別寮への道を急ぐのだった。




