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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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2.僕と、3人の獣人と、TKG

「ただいまー……って、一人暮らしだから誰もいないんだけどね。ほら、勝手に入っていいよ」

サリーに促されて入った部屋は、

ごく普通の現代的なワンルームマンションだった。

ただ、この建物自体が学校の寮らしく、

廊下ですれ違った住人も全員が制服を着た獣人の女子学生ばかりだった。

もちろん、全員が僕より遥かに背が高い。

「ちょっとここで待ってて。私じゃ埒が明かないから、今から友達呼ぶから」

サリーは僕を小ぢんまりとしたソファにちょこんと座らせると、スマホを操作し始めた。

僕はといえば、借りてきた猫

(文字通り、目の前には本物の猫族がいるわけだけど)のように小さくなり、

膝の上で手を握りしめていた。

それから十分もしないうちに、

ドアが激しくノックされた。

「サリーーー! 迷子の珍獣拾ったってマジ!? 見せて見せてー!」

ガチャリと扉が開くと同時に、弾丸のように飛び込んできたのは、眩しい金髪をなびかせた女の子だった。

頭の上にはピンと尖ったキツネの耳。

お尻の後ろからは、ふさふさとした立派な金の尻尾が、

興奮のあまりプロペラのように激しくブンブンと振り回されている。

「ちょっとコニー、うるさい。……部屋、入るよ」

続いて、一歩遅れて入ってきた女の子を見て、僕は思わず上体をのけぞらせた。

大きい。とにかく、(色んな意味で)規格外に大きい。

落ち着いた灰色の髪の隙間から覗くのは、

丸っこいクマの耳だ。身長は僕の頭二つ分どころか、見上げる首が痛くなるほど高い。

制服の上からでもはっきりとわかるほど発育が良く

グラマラスな体型をしていて

ものすごい包容力(と物理的な圧)を感じる。

「コニー、アオイ、早かったじゃん」

サリーが二人を迎える。

「だって気になるじゃーん! ……って、ウソ、何これちっちゃい! 可愛いー!」

金髪の狐族・コニーが、またたく間に僕との距離を詰めてきた。

彼女に上から覗き込まれ、僕の視界は彼女の笑顔と、激しく揺れる金の尻尾で埋め尽くされる。

「わ、わわっ……」

「何この子、お耳がツルツルだよ!? 触っていい? ねぇ触っていい!?」

「こらコニー、怯えてるでしょ」

サリーがコニーの襟首をひょいと掴んで後ろに引いた。

すると今度は、後ろに控えていた熊族のアオイが

おずおずとした様子で僕の前に一歩踏み出した。

「あ……えっと……はじめまして……?」

アオイは人見知りなのか、サリーよりも大きい身体を少し縮こまらせるようにして、もじもじと指先を合わせている。

だけど、その圧倒的な身長と大人っぽいプロポーションのせいで、

縮こまられても僕にとっては巨大な壁にしか見えない。

「ほらね? 見たことないでしょ、この種族」

サリーが腕を組んで、二人に自慢げに言った。

「大きさからして、たぶん小学生か、いっても中一くらいだと思うんだけど。言葉は通じるの。でも、自分の年齢を16歳とか言い張るし、携帯も繋がらないみたいでさ」

「えっ、16歳!? アハハ、そんなわけないじゃん! こんなにちっちゃくて、ヒョロヒョロなのに! サリーの半分くらいしか体重なさそうだよ?」

コニーがケラケラと笑いながら、僕の肩をぽんぽんと叩く。

「……でも、服の仕立ては……しっかりしてる。子供用じゃ、ないみたい……」

アオイが、蚊の鳴くような声でボソリと呟いた。

人見知りな彼女の、意外と鋭い観察眼に僕は心の中で深く感謝した。

「(やっと分かってくれる人が……!)」

「でしょ? 服は大人っぽいんだよね。だからどっかの珍しい低身長の種族かと思ったんだけど……。とにかく、お腹空かせてるみたいだから、何か食べさせてあげようと思ってさ」

サリーのその言葉に、コニーがパッと目を輝かせた。

「賛成ー! よーし、お姉さんたちが美味しいもの作ってあげちゃうぞー!」

高身長な3人の女子高生たちに完全に囲まれ見下ろされながら

僕はただ「あの、本当に16歳です……」という言葉を飲み込むしかなかった。

「じゃーん! 特製、タマゴ・カケ・ゴハン! 通称、TKGだよ! 美味しいよー!」

サリーがフンスと胸を張り、ドヤ顔で僕の前に差し出してきたのは

炊きたての白いご飯に生卵を落とした、あまりにもシンプルな一品だった。

コニーも「これ、サリーの数少ない得意料理なんだから!」と、なぜか自分のことのように誇らしげに胸を張っている。

アオイも、後ろからコクコクと静かに頷いていた。

「(……料理って、これのことだったんだ)」

てっきり何か凝ったものが出てくるのかと思いきや、まさかの卵かけご飯。

僕は内心のツッコミをグッと堪えながら、「いただきます」と手を合わせた。

お箸で卵を崩し、醤油をひとかけして、ご飯と一緒に口に運ぶ。

「……っ」

驚いた。

ただ卵を割っただけのはずなのに、めちゃくちゃに美味しい。

黄身のコクが信じられないほど濃厚で、生臭さが一切ない。お米の甘みも際立っている。

どう考えても、僕が元の世界で使っていたスーパーの卵より、遥かに質が上だった。

「どう? 美味しいでしょ!」

サリーが嬉しそうに顔を覗き込んできた。

「うん……すごく、美味しいです……」

本当につぶやいた、その時だった。

咀嚼して、温かいご飯が胃に落ちた瞬間、張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れてしまった。

さっきまで、僕は自分の部屋でキャベツを切っていた。

明日も普通に学校に行って、普通に友達と話して、普通の日常が続くはずだった。

なのに、どうして僕はこんな見知らぬ場所で、背の高い猫耳の女の子の部屋で、一人でご飯を食べているんだろう。

じわ、と視界が滲んだ。

止めようと思えば思うほど、大粒の涙がポロポロと頬を伝って、お茶碗の中に落ちていく。

「え……? あ、あれ……?」

「ひゃ、ひゃあ!? な、何で泣いてるの!?」

最初に飛び上がったのはコニーだった。

さっきまでブンブンと激しく振られていた金の尻尾が、驚きのあまりピンと垂直に直立している。

「ちょっとサリー! あんた何入れたのよ!? 毒!? 毒入れたの!?」

「入れるわけないでしょ、ただの卵だよ! え、嘘、なんで!? 美味しいって言ったじゃん! どこか痛いの!?」

サリーが長い手足をバタバタさせながら僕の顔を覗き込んできた。琥珀色の瞳が完全に泳いでいる。

「う、嘘……私の、卵の割り方が悪かった……? 殻、入ってた……?」

アオイにいたっては、僕以上に顔を真っ青にして、大きな手を胸の前でオロオロと彷徨わせている。今にも彼女のほうが泣き出しそうなほどのパニック状態だ。

「ち、違うんです……本当に美味しくて……ただ、ちょっと……」

泣きじゃくる僕と、部屋の真ん中で頭を抱えて右往左往する、平均身長180cm超えの獣人女子高生3人。

「よしよし、怖くないよー! お姉ちゃんたちがいるからねー!」

パニックになったコニーが、僕の頭を自分の胸元にぎゅっと抱き込んできた。

「ちょっとコニー、余計に苦しそうでしょ! ほら、お水! アオイ、お水持ってきて!」

「あ、う、うん……! お水、お水……!」

部屋の中は、完全にひっくり返した玩具箱のような騒ぎになっていた。

胸に抱えられながら、僕はその温かさと、彼女たちの不器用な優しさに、

少しだけ救われている自分に気づいていた。

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