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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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1.僕は、迷子

ありがちな設定と内容ですが、読んでいただけるとありがたいです。

さっきまで、僕は自分の部屋にいたはずだった。

明日の調理実習の予習を兼ねて、

千切りにしたキャベツの感触が

まだ指先に微かに残っている。

それなのに。

「……え?」

瞬きをした次の瞬間

足元から畳の感覚が消えていた。

代わりに踏みしめていたのは

アスファルトの無機質な感触。

目の前にはどこにでもある、ごく普通の現代的な建物が建っている。

だけど、何かが決定的に狂っていた。

ふと通りを見やると、そこを行き交う人々——

犬のような耳をパタパタさせる主婦や

トカゲのような尻尾を揺らすサラリーマンの姿が目に入る。

人間が、僕の他に誰もいない。

頭が混乱でショートしそうになり、

僕はその建物の前で完全にすくんでしまっていた。

その時だった。

「——ちょっと、そこ退いて。家に入れないんだけど」

後ろから、少し低めの、だけど綺麗な少女の声がした。

「あ、すみまセん……っ」

慌てて振り返り、声の主を見上げようとした僕は

思わず息を呑んだ。

ゆっくりと視線を上へ、上へと動かしていく。

僕の頭頂部を遥かに通り過ぎ、

見上げるような高さに、その『誰か』の顔があった。

そこにいたのは、信じられないほど綺麗な黒髪を持った女の子だった。

年齢は僕と同じくらいに見える。

だけど、彼女の頭頂部には、髪の隙間からピンと突き出た、

三角形の黒い獣の耳がある。

さらに彼女の腰の後ろからは、細長い黒い尻尾が

不機嫌そうに左右に揺れていた。

猫の姿をした、ものすごく背の高い女の子。

学校帰りなのか、スクールバッグを肩にかけた彼女は、自分より頭二つ分は高い位置から、

大きな琥珀色の瞳で僕を鋭く見下ろしている。

「……って、あんた誰? さっきまで誰もいなかったよね、ここ」

彼女は不審そうに眉をひそめ、ぐいっと顔を近づけてきた。

「どこから湧いて出たのよ。っていうか……何その耳、ツルツルじゃん。どこの種族? 人の家の前で何してんの?」

言葉は通じる。だけど、あまりの体格差と迫力、

そして「不審者」を見るような視線に、僕は完全に気圧されてしまった。

「あ、の……僕は、気づいたらここに……」

「は? 気づいたらって、あんた迷子?……って、よく見たらあんた、ちっさ!」

彼女はジロジロと僕を上から下まで見回し、ポンと手を叩いた。

「なんだ、小学生? びっくりした、一瞬、新手の不審者かと思っちゃったじゃない」

「えっ……あの、僕は16歳で、高校生なんですけど……」

「はいはい、強がんなくていいから。そんなヒョロヒョロで、私のみぞおちくらいまでしか身長ないのに高校生なわけないでしょ? 迷子になっちゃって怖かったねー。あ、私の名前はサリーっていうんだ?」

サリーは完全に納得した顔で、僕の頭にポンと大きな手を置いた。

猫の肉球のような、どこか柔らかくて温かい感触が頭頂部に伝わってくる。

「(いや、本当に16歳なんだけど……)」

僕はサリーの圧倒的なお姉さんオーラ(というか、物理的な威圧感)に気圧されて、それ以上強く言い返すことができなかった。

「それにしても、見たことない種族ね。耳もツルツルだし……。うーん、外でこんなちびっ子を放っておくわけにもいかないし、ご家族の連絡先、わかる?」

「えっと、携帯は……あ、繋がらない……」

ポケットから取り出したスマホは、画面こそつくものの「圏外」の表示。そもそも、この世界に僕の家族はいない。

だんだんと現実味が湧いてきて、僕の顔が青ざめていく。

それを見たサリーは、僕が捨てられたか、

あるいは本当に迷子になって泣きそうになっているのだと勘違いしたらしい。

琥珀色の目を少し和らげると、

ふいっと僕に背を向け、建物の門扉を開けた。

「ほら、お腹空いてるでしょ。とりあえず中に入りな。お姉さんがちょっと面倒見てあげるから」

そう言って、サリーは僕の腕をひょいっと、まるで軽い荷物でも持ち上げるかのように引っ張った。

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