19.僕と、生態系と、制服の女子高生たち
この世界の生態系について、僕はいくつかの決定的な違和感を覚えていた。
ここには猫、熊、狐、兎、パンダ、狼など、本当に多種多様な獣人が暮らしている。
だけど、よくよく観察してみると、明確に『存在しない種族』がいることに気づく。
まず、魚やクジラ、タコといった水棲生物の獣人は一人もいない。
強大すぎるエネルギーが巡る海の中でも、やはり水棲生物が自ら進化の過程で陸に上がってくることは叶わなかったのだろう。
だからこそ、この世界の海は純粋な「資源の宝庫」として手つかずのまま、莫大なエネルギー物質を湛え続けているのだ。
そしてもう一つ。牛、豚、鶏の獣人も、これまで一度も見かけたことがない。
「(……家畜のDNAは、進化しなかったと見るべきか)」
僕たちの特別寮の食卓には、今日も質の良い豚バラ肉や新鮮な鶏卵、牛肉などが当たり前のように並んでいる。
もしこれらが獣人として知性を持って進化していたら、それこそ道徳的にも食糧事情的にも、この世界は完全に破綻していただろう。
進化の神様がいるのだとしたら、そのあたりの引き算は実に冷徹で、かつ人間(僕)の都合に合わせたかのように合理的だった。
「(元の世界では、熊や兎を食べることもあった、なんて……)」
絶対にアオイとピピには言えない。
大柄な身体を縮めてはにかむように微笑むアオイや、黒い丸メガネの位置を直しながら真面目に雑炊を食べていたピピの顔が浮かぶ。
彼女たちの祖先(あるいは元の世界の野生動物)が、かつての地球で食材として扱われることがあったなんて事実は、
この特別寮の平和な食卓にはあまりにも刺激が強すぎる。
この秘密だけは、僕の胸の中に一生仕舞い込んでおくつもりだ。
「よし、赤ずきんの準備、オッケー」
鏡の前で赤い頭巾を深くかぶり、人間の耳を完全に隠す。
リビングに向かうと、そこにはいつもの優美林の制服姿の女子高生4人が、すでに準備万端で待っていた。
「ヒロキ、遅い! 待ちくたびれてお腹と背中がくっつきそう!」
サリーがポニーテールを揺らし、黒い猫耳をソワソワと動かす。
「コニー一押しの肉盛りマウンテン、今日こそ限界まで食べるんだから!」
コニーが金の三つ編みを跳ねさせ、隣でアオイもグレーのクマ耳をパタパタさせて目を輝かせている。
ピピはいつも通りキリッとした佇まいだけど、どこか足取りが軽そうだ。
「お待たせしました。それじゃあ、この世界の『外の味』、勉強させてもらいに行きましょうか」
僕は4人の賑やかな足音に囲まれながら、初めての市場調査へと一歩を踏み出した。




