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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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17.僕と、鍋パーティーと、逞しい商魂

工学部のじじいたちをフェイが容赦なく締め上げ、徹夜で完成させたという「ホットプレート試作品第2号」。

今度のモデルには、深さ10cmほどの立派な深鍋がセットされていた。

この世界では普段、厨房でがっしり固定されたIHコンロの上でしか使われないタイプの煮物用の鍋だ。

それをリビングのテーブル中央に据え置き、めんつゆを注いでからスイッチを入れる。

「……お、熱気が来ない!」

コニーが身を乗り出して、金の三つ編みを揺らした。

昨夜のようにリビングがサウナ状態になることもなく、鉄板はちゃんと適温を維持している。

バッテリーを間引いた効果は抜群で、今度は暴走することなく綺麗に温度が調整できていた。

「よし、じじいたちもやればできるじゃない。これなら合格よ」

フェイが満足げに腕を組んで頷く。

めんつゆが小気味よく沸き立ってきたところで、僕は用意しておいた具材を次々と投入していった。

白菜、豆腐、長ネギ、そしてあの質の良い豚バラ肉。そこに加えて、スーパーで「食用」として売られていた、僕の元の世界では見たことのない不思議な葉物野菜と、紫色の斑点があるキノコっぽいものも入れてみる。どんな味なのか、好奇心もくすぐられる。

ぐつぐつと音を立てて、湯気の中でお肉や野菜が煮えていく。

その様子を、サリー、コニー、アオイ、ピピの4人が、まるで未知の儀式でも見るかのようにじっと真剣な目で見つめていた。鍋を囲んで全員の視線が一つに集まるこの独特の空気感は、やはり元の世界の鍋パーティーそのものだ。

「さあ、もうお肉も野菜も火が通りましたよ。どうぞ!」

僕の号令がかかった瞬間、一斉に箸が鍋へと伸びた。

それぞれが目当ての具材を器用に引き揚げ、あらかじめ配っておいた「特製手作りポン酢」の皿へと移していく。

「熱っ、ハフ……んんんー!」

サリーが黒い猫耳をピンと立たせ、ポン酢を纏った豚バラ肉を口に運んだ。

「お肉がめちゃくちゃジューシー! それにこの酸っぱいタレが絡んで、いくらでも食べられそう!」

「何これ、この紫のキノコ、すっごいシャキシャキしてて美味しい! 噛むと旨味がじゅわって出てくる!」

コニーが金の尻尾をビシバシと振りながら歓声を上げる。

僕の知らない未知の食材も、この濃厚なめんつゆの出汁とポン酢の酸味に見事に調和していた。

「……美味しい……し、なんか、みんなでこうやって突っつくの、すっごく楽しい……!」

コニーが笑顔でそう言うと、隣に座るアオイもグレーの耳をパタパタと寝かせ、はにかむような笑顔で深く頷いていた。

「厨房と食卓が切り離されていないというのは、これほど合理的で、かつ豊かな食空間を生み出すのですね。驚きました」

ピピも黒い丸メガネの奥の目を輝かせ、上品ながらも休むことなく白菜と豆腐を口へ運んでいた。

みんな無我夢中で鍋を突き、あれほど山盛りだった具材はあっという間に空になった。

「ふぅ……美味しかったぁ。お腹いっぱい!」

サリーが満足げに息を吐く。

「ふふ、サリー、まだ終わりじゃないですよ。鍋には『シメ』があるんです」

「シメ……?」

全員が不思議そうな顔をする中、僕は残った旨味たっぷりのつゆに、白米を投入した。ひと煮立ちさせたところで、ゆうべサリーが絶賛してくれた濃厚な卵の溶き汁を、円を描くようにさらりと回し入れる。

余熱で卵がふわっと固まったところで、各自の器に盛り付けた。

「どうぞ、お好み焼きのときの青のりを少し振って食べてみてください。『雑炊』です」

一口食べた瞬間、全員の目が今日一番の大きさに見開かれた。

「おいしーーーーい!!! なにこれ、お肉とお野菜の出汁を全部ご飯が吸ってる!!」

「卵がふわふわ……っ。お腹いっぱいだったはずなのに、これなら別腹で入っちゃう……!」

最後の雑炊まで一粒残さず綺麗に平らげ、世界初(または数億年ぶり)の鍋パーティーは最高の形で幕を閉じた。

「卓上調理、大成功ね。これ、すぐにでも量産化の予算を組ませるわ」

フェイが楽しそうに笑う。

食卓をみんなで囲み、温かい料理を分け合って食べる楽しさ。

僕が持ち込んだ元の世界の当たり前は、この未来の地球の獣人たちにとっても、何より特別な幸せの時間になったようだった。

「へえ、ボタン電池ですか」

僕はフェイから手渡されたホットプレート2号機の裏側を開け、その構造に思わず感心してしまった。

底面に敷き詰められていた巨大なバッテリーの代わりに、小さなボタン電池が整然と並んでいる。これなら確かにバッテリー切れになっても、誰でも簡単に新しいものと交換できる。

「どう? 工学部のじじい達に、今回の修正ついでにこの仕組みも組み込ませたのよ。これなら『バッテリー交換』という新しい市場も作れるしね」

フェイは腰に手を当て、どこか悪巧みをしているような笑みを浮かべた。

聞けば、ホットプレートの普及に合わせて、この規格専用の電池を学校の売店や近隣のショップで定期的に販売するビジネスモデルを考えているらしい。

「調理器具で利益を出して、さらに消耗品でも継続的に稼ぐ。……商売の基本ね」

ヒロキは心の中で深いため息をついた。

歴史学の権威として学園で尊敬を集めるフェイだが、その実態は、隙あらば利権を構築しようとする凄腕の商売人だ。

歴史の真実を解き明かすよりも、目の前の経済をいかにコントロールするかということに、彼女は並々ならぬ情熱を燃やしている。

「あの……フェイ先生。先生って、歴史学者としてよりも、商売人として生きたほうが……あ、いえ、なんでもないです」

「あら、寮長? 今、失礼なことを考えてたでしょ。私の商才に嫉妬してるの?」

フェイは楽しそうに僕の肩を軽く叩いた。

歴史の教科書を書き換えるよりも、新しい家電の規格を作ってマーケットを独占するほうが、彼女にとってはよほどスリリングで刺激的な日常なのかもしれない。

僕は改良された2号機をテーブルに置き、改めてその小さなボタン電池を眺めた。

この先、僕が提案する数々の「元の世界の当たり前」が、フェイの手によってどのようなビジネスへと変貌していくのか。楽しみなような、少し怖いような気持ちになりながら、僕は次なるレシピの構想を練るのだった。

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