15.僕と、エネルギーの掛け算と、引き算
「ぷはぁー! 食った食った! 余熱だけでも信じられないくらい美味しく焼けるもんだね!」
大皿に山盛りだった豚バラ肉を完全に平らげ、サリーが身体をソファに投げ出して満足げに黒いお腹をさすっている。
コニーも金の尻尾をぐったりと床に横たえ、心地よい満腹感に浸っていた。
リビングの熱気は、窓を全開にして夜風を入れても、まだサウナのようにムワッとしている。
僕は、すっかり生温かくなった試作型ホットプレートの横に立ち、その構造をじっと観察した。
「フェイ先生。このホットプレートが爆熱になっちゃった原因、たぶん分かりました」
「えっ? 本当、寮長? 何が悪かったのよ。工学部のじじい達、制御回路は完璧に組んだって言い張ってたんだけど」
冷えたお茶をがぶ飲みしていたフェイ先生が、パンダ耳をピクッと動かして僕の隣に並んだ。
「制御回路の問題じゃないです。……原因は、この底面にあります」
僕はホットプレートをひっくり返し、工学部の教授たちが組んだという裏面のカバーを取り外してみせた。中には、不気味なほど青く輝く、この世界の海中物質から作られたバッテリーがギチギチに詰め込まれている。
「やっぱり……。先生、このホットプレート、底面全体にびっしりと大容量バッテリーが敷き詰められてますよね」
「ええ、そうよ? 途中で充電が切れたらお肉パーティーが中断しちゃうから、一番容量の大きいやつをスペースの許す限り詰め込めって私が命令したの」
「それがダメなんです」
僕は苦笑しながら、バッテリーの並びを指差した。
「元の世界でもそうですけど、ホットプレートの底面すべてにエネルギー源を敷き詰めれば、それは相当な、というか過剰な熱量になります。ましてや、この世界のエネルギー密度は僕の世界の比じゃないんですよね? 出力をどれだけ『弱』に絞ったとしても、この数のバッテリーが同時に一斉に発熱したら、それだけで熱が掛け算になって暴走しますよ」
「……あ」
僕の指摘に、フェイ先生が丸メガネをずり下げて絶句した。
リビングでまったりしていたピピ委員長も、裸眼のまま驚いたようにこちらを見る。
「つまり、エネルギーを制御する以前に、バッテリーの量が多すぎたってこと……?」
「そうです。電力を供給するバッテリーは、隅っこにほんの少しだけ……そうですね、スマホサイズくらいのものを一、二個置けば十分なんです。残りのスペースは、熱を逃がすための空洞にするか、断熱材を挟まないと。大容量にすればいいっていう、引き算のない設計がこの爆熱を生んだんですよ」
「……なるほど。言われてみれば、完全な盲点だわ……」
フェイ先生は頭を抱えた。この世界の技術者たちは、強すぎるエネルギーを「どう抑え込むか」という壁ばかりを見ていて、「最初からエネルギー源自体を小さく間引く」という、ヒロキのような単純な引き算の発想ができなかったのだ。
「よし分かったわ。寮長、今の理論、そのままじじい達の頭に叩き込んできてあげる!」
フェイ先生の目がギラリと肉食獣のように輝いた。即座にスマホを取り出し、工学部のグループチャットに怒涛の勢いでボイスメッセージを吹き込み始める。
「おい、じじい達! 制御回路のせいじゃねえよ! バッテリーを底面に敷き詰めるな、スマホサイズまで減らして中はスカスカにしろ! うちの天才寮長からの直々のアドバイスよ、明日の朝までに直して持ってきなさい!!」
「あはは……先生、流石に明日の朝は無茶じゃ……」
僕の心配を他所に、フェイ先生は「これで次は完璧な焼き加減でお肉が食べられるわね!」と不敵に笑った。
強すぎる未来のエネルギーに、現代の高校生の「引き算の知恵」が勝った瞬間だった。
カオスな夜は更けていくけれど、僕たちの特別寮の食卓は、確実に一歩ずつ、快適で美味しい理想の形へと近づいていくのだった。




