134.僕と、乳牛と、乳製品
製粉工場を後にした僕たちが次に向かったのは、広大な敷地を誇る牧場と乳製品の加工場だった。
敷地内に整然と並ぶ牛舎の中でのんびりと草を食んでいたのは、言葉を話す獣人ではなく、純粋な『獣(動物)』としての乳牛だったのだ。
元の世界では家畜として扱われた牛、豚、鶏はそれに該当する獣人は存在していないことは、この世界のことを調べたときにわかっていたことではあるのだけど、
こうして動物としての『牛』の存在を目の当たりにすると、この種は『獣人』へと進化しない道を選んだ、ある意味貴重な存在なのかもしれないと思ってしまう。
目の前でモーモーと鳴く乳牛たちは、大きさこそ元の世界のものとさほど変わらない。けれど、エネルギーキューブの恵みをたっぷり含んだ栄養豊富な牧草を食べて伸び伸びと育っているためか、そのポテンシャルは規格外だった。
見学の途中、搾りたての生乳を試飲させてもらったのだが……。
「……うわ、すごい! めちゃくちゃ濃厚で甘い!」
口に含んだ瞬間、まるで上質な生クリームをそのまま飲んでいるかのような濃密なコクと、豊かな甘みが広がる。クセや嫌な臭みは一切ない。
隣を見ると、サリーが顔ほどもある大きなガラス瓶を両手で抱え、恐ろしい勢いでゴクゴクと飲み干していた。
「ぷはーっ!うまーいっ!ヒロキ、これヤバいよ! おかわりー!」
口の周りに白いヒゲをつけ、感情を隠しきれない尻尾をブンブンと激しく振り回している。猫族の本領発揮といったところか。
その後、加工場へ移動してその極上生乳から作られるバター、生クリーム、練乳の製造プロセスを見学。さらに、溶かして食べるラクレットチーズや、フレッシュなモッツァレラチーズの仕込み作業も見せてもらった。
どれも香りが芳醇で、素材の良さがビンビンに伝わってくる。
(そういえば……これまで色々と作ってきたけれど、本格的な乳製品を使ったメニューってあんまり手をつけてなかったな)
この極上モッツァレラチーズと濃厚なトッピング、そしてさっきの小麦粉の力強いコシを活かした生地……。
(……『ピザ』だ。生地をパリッと香ばしく焼き上げた、焼きたての本格ピザを作ったら絶対ヒットするぞ!)
もちろん、ピザを最高な状態で作るには、超高温で一気に焼き上げる専用の「電気オーブン」か「卓上ピザ窯」みたいな調理器具が欲しくなる。
「よし……帰り道(の電動飛行機)は胃が痛いけど、無事に帰れたら、真っ先にロンじいさんのところへ相談に行こう」
最高の素材と新しいアイデアを手に入れて、僕の頭の中は早くも「新メニュー」の設計図でいっぱいになっていた。




