133.僕と、電動飛行機と、穀倉地帯
後日、レミ社長に「小麦粉の性質や品種について調べてみたい」と相談したところ、速攻で「それならカントウ屈指の穀倉地帯へ視察に行ってみるといいわ!」と手配を整えてくれた。
そして決まった視察の当日。
僕はサリーと一緒に穀倉地帯へと向かうことになったのだが……そこで最大の衝撃を受けることになった。
化石燃料が存在せず、何より有害ガスが発生するから火は厳禁なこの世界。
当然、移動は陸路のEV車や電車がメインだと思い込んでいたのだが――目の前に鎮座していたのは、見上げるほど巨大な「電動飛行機」だった。
「……えっ? 嘘でしょ……これ、空飛ぶの……?」
「うん、超大型の電動プロペラとバッテリーで飛ぶんだよ!カントウの遠方へ行く時はこれが一番早いんだから」
事もなげに言うサリーの横で、僕は搭乗ゲートをくぐる前から生きた心地がしていなかった。
機内に乗り込むと、座席の足元には極太のバッテリーユニットがギッシリと詰まっている気配がする。
オール電化技術が元の世界を遥かに凌駕しているのは知っているけれど、限度というものがあるだろう!
滑走路を走り出し、恐ろしいほどの静けさと強烈なモーター音とともに機体がふわっと浮き上がった瞬間、僕は座席のシートベルトを力いっぱい握りしめた。
「ひぃっ……!こんな巨大なバッテリーの塊が空を飛ぶなんて信じられないよ……!もし飛行中に電池が切れたらどうするの!? 墜落するじゃん……!」
窓の外でどんどん小さくなっていく街並みを見ながら、青ざめた顔でブツブツと生気の抜けたつぶやきを漏らす僕。
すると、隣で機内サービスのドリンクを余裕の表情で飲んでいたサリーが、ニコッと満面の笑みを向けながら僕の肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫よ〜、落ちるときは私も一緒だから!」
「全然励ましになってないよーーーーッ!! むしろ恐怖が倍増したんだけど!?」
絶叫する僕の声を乗せて、電動飛行機は滑らかに上空の雲を抜けていく。
(……頼むからバッテリー残量メーターだけは絶対に減らないでくれ……!)
小麦粉の探求という壮大な目的の前に、まさか「高所&電動飛行機」という人生最大の試練が立ちはだかるとは思いもしなかった。
「……い、生きて地面を踏めた……」
着陸のショックとともに、僕の口から魂が半分ほど口からスッと抜け出ていった。
隣でサリーは「ね、無事でしょ?」と平然としているけれど、帰りもあの「空飛ぶ巨大バッテリー」に乗らなければならない事実を思い出して、早くも胃がキリキリと痛み始めている。
だが、ここでへこたれている場合ではない。
気を取り直して空港でEVのレンタカーを借り、目的地の穀倉地帯へと向かった。
道中、外はかなり激しく雪が舞っていたのだが、驚いたことに路面には雪が一切積もっていなかった。道路の下にワイヤレス給電と連動した「融雪・ロードヒーターシステム」が完璧に組み込まれているのだ。冬場でも凍結の心配がなくスイスイ走れるのは、このオール電化世界の本当にありがたいところである。
そうして到着したのは、カントウでも有数の規模を誇る大型の製粉工場だった。
ここでは小麦だけでなく、大麦や米、さらにはとうもろこしなど多種多様な穀物が集積・加工されている。
自動化された巨大な機械が凄まじい速度で粉を挽いているエリアもあれば、職人さんが昔ながらの巨大な石臼を使ってじっくりと時間をかけて粉を挽いているエリアもあり、伝統と先端技術が同居する時代の移り変わりを肌で感じることができた。
そして、お目当ての小麦コーナーで案内を受けたのだが……そこで改めて驚愕することになる。
案内された小麦の品種はどれもこれも、タンパク質が非常に多く含まれた力強いものばかり。
「薄力粉」のような軽いものは影も形もなく、それどころか、元の世界の強力粉すら生ぬるく思えるほどの『超強力粉』とでも呼ぶべき、怪物級のパンチを持った粉まで存在していたのだ。
「なるほど……この世界の土壌とエネルギーキューブの影響は、僕が思っていた以上に小麦の質を根底から変えていたんだな」
諦めと納得が交錯する中、工場内をじっくり見学してまわる。
この時——工場の一角で挽かれていた、ふわりと甘い香りを放つ黄色みがかった「とうもろこし粉」が、巡り巡って、肉まんの皮を「理想のフカフカ食感」へと激変させる秘密兵器になることを、この時の僕はまだ知る由もなかったのだった。




