135.僕と、高級ホテルと、うるさいアイツ
この日は現地で一泊することになり、獅子丸食品の黒服さんが手配してくれたホテルへと向かった。
到着して驚いたけれど、かなりの高級ホテルだ。
シャンデリアが眩しい豪華なロビーの内装に、サリーと二人で口をぽかんと開けて見惚れてしまっていた。
すると——静かなロビーに、聞き覚えのある威勢の良い声が響き渡った。
「あれ、兄ぃ?!」
僕をそう呼ぶやつなんて、一人しかいない。
ジマケンだ!
話を聞くと、彼の所属するグループ『ダントレス』がカントウ全域ツアーの真っ最中で、たまたま僕らの視察の日程とこのホテルでバッティングしたらしい。すごい偶然もあるものだ。
だが、さすがは犬族。鼻の利き方が尋常じゃなかった。
「……くんくん。兄ぃ、サリーさんが引いてるその保冷カート……めちゃくちゃ良い匂いの新鮮な食材が入ってますよね?! ここで会ったのも何かの縁です! なんか美味いもん作ってくださいよー!」
「えぇっ!? 今から!?」
ジマケンの勢いに気押されていると、なんと彼の無茶振りはホテルのスタッフさんにまで向けられた。
すでにレストランの営業時間は終了していたのだが、ジマケンの必死の交渉(と芸能人の威光?)のおかげで、奇跡的にホテルの厨房をお借りできることになってしまったのだ。支配人さんからも「厨房の調味料や残っている食材も、少しなら使っていただいて構いませんよ」と寛大な許可までいただいてしまった。
「はぁ……手短にできるものにするからね?」
幸い、このホテルの厨房にも『大象食品の冷凍うどん』が常備されていた。
これなら解凍も一瞬だし、メインとして申し分ない。
「サリー、ジマケン、手伝って!」
「合点承知っす、兄ぃ!」
「も〜、ジマケンは相変わらず強引なんだから。でも私も手伝う!」
二人に調理補助をお願いし、さっき牧場で分けてもらった新鮮な乳製品と、厨房にあったトマトや卵を組み合わせて手早く腕を振るう。
そうして出来上がったのは、2種類の洋風うどん。
ひとつめは、打ち立てのようにシコシコとした冷製うどんに、湯むきした甘いトマト、そしてさっき見学したばかりのフレッシュなモッツァレラチーズをコロコロと散らし、ポン酢ベースの特製ダレで爽やかに仕上げた『トマトとモッツァレラチーズの冷製うどん』。
もうひとつは、茹で上げた熱々のうどんに濃厚な生クリームと卵黄、黒胡椒を絡め、仕上げに熱でトロトロに溶かしたラクレットチーズを惜しげもなく上からドバッとかけた『カルボナーラ風釜玉うどんのラクレットチーズがけ』だ。
完成したタイミングで、ジマケンが「兄ぃの飯が食えるぞー!」とダントレスの若手メンバー3人を手際よく連れてきた。
僕とサリー、ジマケン、そしてダントレスメンバー3人の計6人。
静まり返った営業時間外のホテルのレストランで、即席の試食会兼夜食パーティーが賑やかに始まった。
「うっひょーーー! なんですかこのチーズの伸び! カルボナーラなのにうどんのコシが負けてない……めちゃくちゃ美味いっす!!」
「冷製の方もトマトとチーズがサッパリしてて、ライブ後の体に染み渡るわぁ……」
若手メンバーたちが目を輝かせてズルズルと豪快に平らげていく。
「ヒロキ、このラクレットチーズのやつズルいよ! うどんにとろーり絡んで、背徳感がすごすぎるじゃん!」
サリーもハフハフと口を動かしながら大絶賛だ。
「兄ぃ、やっぱり最高っす!ツアーの疲れが一気に吹き飛びましたよ!」
満足そうに腹を叩くジマケンたちを見ながら、僕も冷製うどんを一口。
エネルギーキューブの恵みを受けた濃厚なミルクから作られたチーズは、うどんの強力なコシにも全く負けない存在感を出している。
(……うん、冷凍うどんと極上チーズの組み合わせ、大アリだな。今度のピザの構想だけじゃなく、こういう洋風うどんのバリエーションも『ししし屋』やコラボメニューで使えるかもしれない)
無茶振りから始まった夜食作りだったけれど、旅先での思いがけない出会いと新しい味覚の発見に、お腹も心も満たされていくのだった。




