122.僕と、盛り盛りと、タケダスペシャル
『まんぷくししし亭』のメインコンセプトは、なんといっても焼肉だ。
店内の中心にドドンと鎮座する巨大な保冷ショーケースの中には、牛、豚、鶏のあらゆる部位が、こだわりの自家製つけダレにじっくりと漬け込まれた状態でズラリと並んでいる。
醤油ベース、塩ニンニク、味噌ダレ、ピリ辛……艶やかに光るお肉たちを、お客さんがそれぞれ専用のトングを使って好きなだけ自分の皿に取るセルフ式のシステムだ。
ショーケースの前では、さっそく『ダントレス』の面々が目を輝かせながら、山のように肉を皿に盛っていた。
特にジマケンの盛りっぷりは凄まじく、お皿の上にはもはやジェンガのような肉のタワーが完成しつつある。
「ちょっとジマケン! お残しは罰金だからね!」
厨房からすかさず注意を飛ばすと、ジマケンはトングを片手に、ニカッと自信満々のドヤ顔を向けてきた。
「兄ぃ!心配いらないッス! 俺らこれぐらいペロリッスよ!」
育ち盛りのトップアイドルたち、恐るべしである。
彼らの消費カロリーを考えれば、確かにあの肉タワーも数分で胃袋に消えるのだろう。
ちなみに、この『まんぷくししし亭』の食べ放題料金は、男女ともに一律の価格設定にしている。
正直なところ、オープン前は「食の細い女性客から『男性と同じ値段なんて不公平だ』と不満が上がるかもしれないな……」と少し心配していたのだけれど。
ふと客席のテーブルに目を向けて、僕は自分の考えがどれだけ甘かったかを思い知らされた。
アオイさんが涼しい笑顔のまま、一切の無駄がない手つきで次々とカルビをロースターに並べては吸い込むように平らげている。
その隣のテーブルでは、ストシーのメンバーたちが「お肉!お肉!」と楽しげにはしゃぎながら分厚いハラミにかぶりつき、さらにはゲストでお招きした普段は清楚なイメージで売っている女優さんまでもが、豪快に豚バラを焼いて白米をかきこんでいるではないか。
(……うん。不満が出るかもなんて、完全に杞憂だったな)
ジュージューと肉の焼ける音と、嬉しそうな笑顔で満たされたフロア。
彼女たちの見事なまでの食べっぷりを見つめながら、僕は一人で深く頷いた。男女一律料金、これで大正解だ。美味しいものの前では、アイドルも女優も、男も女も関係ないのだから。
香ばしい焼き色と強烈な香りに包まれた会場の一角では、いよいよ本日の目玉企画である
『ししし屋の冷凍餃子 タケダ・ヒロアキスペシャル』
の商品発表会が盛り上がりを見せていた。
特設ブースの中央に立つタケダさんは、恵まれたスタイルで白いコックスーツを完璧に着こなしている。ビシッと決めたその全身写真は、製品のパッケージ表面にもドカンとフルカラーで印刷されていた。
まるで高級レストランのシェフかのような気品すら漂っている……が、作っているもののパンチ力は全く気品どころではない。
この餃子、タケダさん直々の熱い要望により、従来の冷凍餃子よりも「にんにく」と「ニラ」のパンチ力が極限まで引き上げられているのだ。レシピ調整に携わった僕個人としては「正直、ちょっとやりすぎなのでは……?」と首を傾げるほどの仕上がりである。
ひと口食べれば、一瞬で部屋中の空気がにんにく色に染まるレベルだ。
そんな僕の心配を余所に、タケダさんは自らホットプレートの前に立ち、手際よくジューッと音を立てて餃子を焼き上げていく。パリッと香ばしい羽がつき、ふっくらと焼き上がった餃子を皿に盛り付けると、集まった報道陣やゲストたちへ手際よく振る舞い始めた。
「さあ召し上がれ! 次の日のことなんて考えちゃダメなんだぜ!」
極上の笑顔で、爽やかに、そして眩しいほどのオーラを振り撒きながら強烈なにんにく餃子を配るタケダさん。
(……うーん、言ってることは完全に『翌日を破壊する悪魔の誘惑』なのに、なんでこんなにため息が出るほどカッコいいんだろう……)
「タケダくん! 最高にジューシーでパンチ効いてるッス!」「明日仕事あるけど我慢できない!」と、ダントレスのメンバーや芸能関係者たちも大興奮で餃子に群がっている。
レミ社長も「これよこれ! 獅子丸食品の新しい看板商品ね!」と満面の笑みでウインクを飛ばしてきた。
高身長のイケメンアイドルがコックスーツ姿で放つ圧倒的なカリスマ性と、理性を吹き飛ばす強烈なにんにくの香り。そのあまりのギャップと熱気に包まれながら、レセプションパーティーは最高の盛り上がりを見せていた。




