119.僕と、大型歌謡祭と、それぞれの戦場
特別寮のリビングで何気なくテレビをつけると、ゴールデンタイムの華やかな『大型歌謡祭』が放送されていた。
画面の中央で、ビシッと高級感のあるタキシードを着こなし、抜群のトーク力で番組を回しているのは……なんとタケダさんだった。
(……おお、タケダさん。司会までこなすなんて、さすが売れっ子だなぁ……)
199cmの長身と圧倒的なオーラ。先日の試写会で「にんにく増し増し餃子」をモグモグ食べながら「これで勝ち確だね!」と少年みたいに笑っていた姿や、崖からドボンと落ちていた姿とのギャップが凄まじい。
タケダさんが所属している『クラウドマン』は、9人組の超人気アイドルグループだ。メンバーそれぞれがドラマの主演を務めたり、バラエティや司会で活躍したりと、個々の知名度も抜群。まさにトップアイドルという貫禄である。
画面が変わり、次に登場したのはジマケンのいるグループ『ダントレス』だった。
もともと『ダントレス』は4人組のグループだったのだが、最近追加メンバーの大規模オーディションを行い、ジマケンはその狭き門を勝ち抜いて加入した期待の新人だ。
新生『ダントレス』は、現在8人組。
画面の中でキラキラした笑顔を振り撒きながら激しいダンスを踊るジマケンを見て、僕は思わず身を乗り出した。
(あ、ジマケンだ! かっこいいじゃん……ん? よく見ると、あっちの3人も……)
オーディションを勝ち抜いて新加入した4人の顔ぶれをじっくり見て、僕は思わず苦笑いしてしまった。
ジマケンを含めた新メンバーの4人、全員が先日の『白百合学園の事件簿』で生徒役として出演していたメンバーじゃないか。
(……まあ、全員アオイさんに殺されてたメンバーなんですけどね。劇中で4番目に殺されたジマケンと、その前後に殺された仲間たちかい……)
殺伐としたドラマの被害者たちが、ステージの上で弾けるような笑顔で歌って踊っている姿は、なんだか妙にジワジワくるものがある。
そして番組の中盤、『ストレンジ・シープ』の出番がやってきた。
羊族だけで結成された4人組バンド。
ステージに現れた彼女たちは、羊族特有のモコモコした髪型や、パステルカラーのフリルがたっぷりついた、まるでぬいぐるみのように可愛らしいふわふわの衣装に身を包んでいる。
……が、イントロが流れた瞬間、その「見た目の可愛さ」は一瞬で吹き飛んだ。
重低音のベースと激しいドラムが響き渡る中、メインボーカルのランちゃんがマイクを両手で強く握りしめ、ステージ中央で身体をのぞかせた。
『豆腐の角にっ! 足の小指ぶつけちまえぇぇぇぇーーーっ!!』
地響きのような凄まじいデスボイスがスタジオに轟く。
可憐な見た目の16歳から放たれたとは思えない、あまりにも殺傷能力の高いシャウト。さらに曲のサビ前には、圧倒的な声量で叫び散らした。
『アツアツのスープをっ!! 鼻から流し込んでやるぁぁぁあーーーっ!!』
相変わらず、見た目と衣装のふわふわ感に対して、曲と歌詞の世界観がまったくマッチしていない。相変わらず重度の闇を感じさせる歌詞だけど、試写会で目をウルウルさせながら「この豆腐がこんなに美味しくなるなんて……」と感動していたランちゃんの姿を知っている僕としては、なんだかその命がけの叫びすらも、どうにも微笑ましく思えてしまうのだった。
「ヒロキー、何笑ってるの?」
いつの間にかリビングに来ていたサリーが、僕の顔を覗き込んでくる。
「いや、みんなテレビの向こうで凄く頑張ってるなぁと思ってさ」
「ふ~ん。そういえば、フリーズドライのスープ、ストシーの寮にも届いたみたいで、ランちゃんがSNSで『神のスープ』って大絶賛してたよ」
「本当? それは良かったな」
タケダさんの名司会、ジマケンたちの華やかなステージ、そしてランちゃんの魂のデスボイス。
みんなそれぞれ芸能界という戦場で戦っているんだなと感心しながら、僕は「明日の朝ごはんは、みんなが喜ぶもっと美味しいものを作ってあげよう」と、静かに心に誓うのだった。




