116.僕と、三者会談と、猫獣人は見た
「……で? ヒロキくん。わざわざ私たち二人を同時に呼び出すなんて、また何か面白い悪巧みでも思いついたの?」
腕を組み、面白そうに口火を切ったのはレミ社長だ。
「悪巧みだなんて人聞きが悪いですよ。
直近の、お弁当の差し入れやケータリングの成功を経て……僕の中で、どうしても皆さんの力をお借りして『商品化』したいアイデアがいくつか浮かんだんです」
僕は持参したノートを机に広げ、お二人の顔をまっすぐに見据えた。
「まず1つ目。レミ社長、ケータリングで出した『ししし屋の冷凍餃子・にんにくマシマシバージョン』を、正式に商品化しませんか?」
「おっ! きたわね!」
レミ社長がバンッと机を叩いて身を乗り出した。昨日、タケダさんと一緒にあの魔改造餃子の匂いにやられていた彼女なら、絶対に食いつくと思っていた。
「あのパンチ力は凄まじかったわ。タケダ・ヒロアキも大絶賛だったし、商品化には大賛成よ。実はうち、焼肉のタレの製造用に『専用のにんにく農場』を持ってるのよ。だから最高品質のにんにくは自社でいくらでも調達できるわ。……ただ、通常版と違って、冷凍した時にあの強烈な風味が飛んだり、逆にエグみが出たりしないか、少し検証が必要になりそうね」
「はい。そこのレシピと配合の調整は、僕も全力で協力します!」
レミ社長と力強く頷き合い、僕はすかさず視線を隣のアキラ専務へと移した。
「そして2つ目。アキラ専務にお願いしたいのは……『冷凍チャーハン』の開発です」
アキラ専務の理知的な目が、スッと細められた。
「冷凍チャーハン、ですか」
「はい。家庭のフライパンでパラパラに炒め直すことが大前提の調理法になります。コストの都合上、僕が昨日作ったようなゴロゴロの巨大焼豚を入れるのはさすがに厳しいかもしれませんが……大象食品の誇る最先端の冷凍技術なら、お米一粒一粒を油と旨味でコーティングした状態で急速冷凍して、お家で火を入れた時に一番美味しく蘇る『最高のチャーハン』を作れるんじゃないかと思って」
「……なるほど。各家庭で再び熱を加えた時に、最も米が立ち、パラパラの食感になるよう逆算して冷凍する。うちの技術開発部の腕の見せ所ですね。具材のサイズは調整が必要ですが、大象食品の冷凍技術にかけて、極上の炒飯を実現してみせましょう」
アキラ専務が深く頷くのを見届けてから、僕はさらにノートの次のページをめくった。
「そして最後にもう1つ、アキラ専務。大象食品の高度な乾燥技術を使って、『お湯を注ぐだけで出来立ての味に戻る固形スープ』を作れませんか?」
「お湯を注ぐだけで……スープに?」
アキラ専務が少し驚いたように眉を上げた。
「はい。食品の水分を一気に凍らせて、真空の状態で水分だけを飛ばす特別な乾燥方法です。これなら、ケータリングで出したような鶏ガラスープの繊細な風味や、具材の白菜や豆腐の食感、卵のふんわり感をそのままギュッと四角い固形に閉じ込めることができます。軽くて持ち運びもしやすいですし、食べる側はお椀に入れてお湯を注ぐだけで、僕が何時間も煮込んで作ったあの味がその場で完璧に再現されるんです」
その提案を聞いたアキラ専務は、目をごちそうを前にした時のように輝かせた。
「素晴らしいアイデアです、ヒロキ店長。その高度な乾燥技術による固形スープの製造なら、我が社のプラントが最も得意とするところです。冷凍チャーハンとこのスープがあれば、家でもササッと食事が完成しますね」
「ありがとうございます!」
業界の二大巨頭を前に、僕は一歩も引かずに三つの大型プロジェクトを同時に、しかもライバル同士を同席させたままテンポ良く取りまとめていく。
――その様子を、応接スペースのドアの隙間から『家政婦は見た』ばりの怪しい体勢で覗き込んでいる影があった。サリーだ。
(……ヒロキのやつ。いつの間にあんな業界の大物二人を相手に、しかもライバル同士を並べて、あんな堂々と商談を仕切れるようになったのよ。……メンタル強くなったにゃー)
ドアの陰で、サリーが猫族特有のしっぽをパタパタと揺らしながら、半ば呆れ、半ば感心したように小さく呟いていたことなど、この時の僕は知る由もなかった。




