111.僕と、ビュッフェウォーマーと、セッティング
今回の出張ケータリングに向けて、優美林大学の博士たちが執念で仕上げてくれた新兵器『超薄型IH内蔵ビュッフェウォーマー』は、なんと贅沢に2台も試作されていた。
これ、1台につき4つの大きなトレーを並べられる優れものだ。つまり、計8マスの「絶対に冷めない熱々の特等席」が用意されたことになる。
この魔法の保温箱をフルに活用した、本日の『ちびっこ寮長特製・究極の中華ビュッフェ』のラインナップがこれだ。
【熱々キープ】ビュッフェウォーマー陣(計8マス)
麻婆豆腐:自家製ラー油のピリ辛餡が、湯せんで常にトロトロの最高の状態。
ミートボールの甘酢あんかけ:ふんわり肉団子に絡む甘酢が、温まることでさらに輝く。
ししし屋の餃子(通常):冷めないから皮が固くならない、いつもの安心の味。
ししし屋の餃子(タケダさん特注・にんにく増し増し魔改造版):トレーのフタを開けた瞬間、破壊力抜群の香りが炸裂する本日の主役。
エビチリ:海に溶けたキューブの栄養で巨大に育った、プリップリの大きめの海老を贅沢に使用。
カニたま:もちろん今回も本物の極上カニ肉をこれでもかと卵に閉じ込めた、贅沢の極み。
牛肉とキノコの炒め物:オイスターソースのコクが肉とキノコに染み渡る、白米泥棒な一品。
豆腐と白菜のうま煮:にんにくや辛さに疲れた胃袋を優しく包む、出汁の利いたホッとする味。
【主食&汁物】別枠コーナー
ゴロゴロ焼豚チャーハン:仕込み万全。足りなくなることを見越して、現場で追加で煽れるように中華鍋も持参。
白米:濃いめのおかずたちを迎え撃つための必須インフラ。
鶏ガラスープ2種(清湯&白湯):透き通ったあっさり清湯と、コク深い濃厚な白湯を、あのIH内蔵寸胴鍋でいつでも熱々に。
さらに、今回のメニューは僕の料理だけにとどまらない。特別寮の仲間たちも、それぞれ自慢の『出店』を引っ提げて参戦してくれた。
「ヒロキくん! わての底力、タケダさんたちに見せつけたるからな!」
そう言って鼻息を荒くしているのは、鼠族のアニーだ。彼女の提案で、なんとビュッフェ会場の片隅に『たこ焼き』と、デザート用の『ベビーカステラ』の特設ブースが設置されることになった。
アニー自ら、現地で焼き師としてフル回転する気満々だ。
さらに、兎族のピピと猿族のユイナは、厨房から頑丈なミキサーを持ち込んでいた。
「ヒロキさんの麻婆豆腐の辛さを、私たちのスムージーで完璧にアフターケアしてみせます!」
「ナンゴクのフルーツの扱い、見せてあげるよ!」
二人がその場でフレッシュに作り出すのは『いちごミルクスムージー』。辛い中華料理の後の甘くて冷たいスムージーなんて、絶対に演者さんたちが群がるに決まっている。
「よし、みんな荷物は積んだ!? 出発するわよ!」
特別寮の唯一のドライバー、サリーが電動軽トラックのハンドルを握り、力強くアクセルを踏み込んだ。
荷台には、2台のビュッフェウォーマー、寸胴鍋、中華鍋、そしてアニーのたこ焼き器やミキサー、大量の食材がギチギチに、かつ丁寧に固定されて積まれている。
車は滑らかな道路を駆け抜け、4日ぶりの撮影スタジオへと滑り込んだ。
「お待ちしておりました、ヒロキ店長!!」
トラックが到着するや否や、現地で今か今かと待機していたのは、レミ社長が連れてきた獅子丸食品の黒服たちだった。
普段はビシッとスーツを着こなして社長の護衛や会社の裏方をこなしている彼らだが、今日は全員がキビキビとした「最強のケータリングスタッフ」と化していた。
「そこのウォーマーは長机の右側へ! 寸胴は中央、アニーさんのたこ焼きブースは電源の近くに配置しろ!」
「チャーハン追加用の予備IH、セッティング完了しました!」
黒服たちの無駄のない、凄まじい連携プレイ。
力仕事はすべて彼らがテキパキとこなしてくれたおかげで、あっという間にスタジオの一角に、元の世界の高級ホテルのレセプションか、あるいは最高に贅沢なディナーパーティーかというレベルの「中華ビュッフェ会場」が出現した。
ウォーマーのタッチパネルが静かに起動し、じんわりとお湯が温まり始める。
フタの隙間から、餃子のごま油の香りや、麻婆豆腐のスパイスの香りがふわりとスタジオに広がり、試写会を前に集まりつつあった俳優さんたちの視線が一斉にこちらに釘付けになった。
「ふふん、完璧な滑り出しね、ヒロキくん」
腕を組んで満足げに頷くレミ社長の横で、僕はエプロンの紐をキッと結び直した。
タケダ・ヒロアキさんをはじめとする、お腹を空かせた美男美女のキャストやスタッフたち。そして、大作ドラマを見届けるための最高の夜。
ちびっこ寮長と特別寮の仲間たち、そして獅子丸食品の総力を結集した『どこでも大ビュッフェ』、いよいよ開幕だ。




