11.僕と、赤いフードと、狼おばちゃん
優美林女子高の面々が授業を受けている間、
特別寮の寮長である僕は、いつものスーパーへと向かうため、玄関の鏡の前で身支度を整えていた。
この世界で僕が外を出歩くとき、絶対に欠かせない必須アイテムがある。
「よし……これで隠れたな」
僕は、お気に入りのパーカーの赤いフードを頭にかぶった。
この世界で唯一の『人間』である僕には、彼女たちのような立派な獣の耳がない。
側頭部にあるつるんとした人間の耳は、この世界では一発で正体がバレてしまう超重要機密なのだ。
だから外出時は、こうして赤い頭巾で頭をすっぽりと覆い隠すのが鉄則だった。
カゴを片手に、いつものスーパーの自動ドアをくぐる。
「(今日は何にしようかな。お肉は昨日食べたから、今度は野菜もたくさん摂れるメニューがいいな)」
僕は周囲の大きな獣人たちにぶつからないよう、ひっそりと通路を歩く。
168cmの僕の身長は、この世界では完全に「子供」のサイズ感だ。
赤い頭巾を深くかぶってトコトコ歩く姿は、客観的に見ればどう見ても迷子か、おつかい中の男の子だった。
カゴにキャベツや玉ねぎ、そして豚肉などを詰め込み、お会計のためにレジへと並ぶ。
僕がいつも選ぶのは、一番奥のレジ。そこにいるのは、このスーパーのベテラン店員さんだ。
「あら、赤ずきんのボク、いらっしゃい! 今日もおつかい? 偉いわねぇ」
バーコードをテキパキと読み取りながら、朗らかな声で話しかけてくれたのは、狼族のおばちゃんだった。
おばちゃんと言っても身長185cmあって、僕よりも大きい。
灰色の毛並みに、ピンと立った大きな狼耳。口元からは鋭い犬歯が覗いている。
元の世界の某童話なら、赤い頭巾をかぶった子供が狼に出会ったら、ガブッと食べられてしまうのがお約束だ。
だけど、この世界の狼族のおばちゃんは、とっても優しくて面倒見が良い。
「こんにちは。今日はみんなでご飯を食べるので、その買い出しです」
「おやまあ、偉いねぇ! ちゃんと毎日お野菜も買って、バランスよく食べてるんだね。ボクは本当にお利口さんだわ。ほら、これおばちゃんからのオマケね」
おばちゃんは、大きな肉球のある手でレジ袋に商品を詰め終えると、僕の頭を「よしよし」と優しく撫で(頭巾がずれないかヒヤヒヤしたけれど)、ポケットからおまけのキャンディを一つ握らせてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「はーい、気をつけて帰るんだよ!」
狼のおばちゃんに笑顔で見送られ、僕はスーパーを後にした。
「(ふぅ……。食べられることはなさそうだし、一安心だな……)」
袋に入ったキャンディを見つめながら、僕は小さく息を吐いて苦笑した。
人間の痕跡が消え去った数億年後の未来の地球。外見はちょっと強そうだけど、中身は驚くほど温かくてお節介な獣人たち。
赤い頭巾を少し直しながら、僕はみんながお腹を空かせて帰ってくる、
僕たちの『秘密の城』へと、軽い足取りで歩みを進めるのだった。




