105.僕と、中華ブームと、乙女たちのジレンマ
『北京ダックもどき』が寮生たちに大ウケしたのをきっかけに、僕の中で空前の『中華料理ブーム』が到来した。
そう言えば、こっちに来てから餃子やラーメンは作ったけれど、定番の王道中華にはまだ手をつけていなかった。この世界にもチャーハンや丼物に近い「米に具材を合わせる料理」自体はなんとなく存在していたから、あえて作っていなかったというのもある。
けれど、火が禁忌のこの世界で、超薄型IHの超火力をどこまで活かせるかという実験も含めて、僕は連日、特別寮の厨房で特製中華鍋を振り続けることにした。
――そこから始まった中華尽くしの数日間は、まさに圧巻の一言だったと思う。
まずは、仕込みに丸一日かけた自家製の特製焼豚。それを惜しげもなくゴロゴロと贅沢に刻み入れ、IHの限界火力を引き出して米の一粒一粒を卵でコーティングした、究極の『チャーハン』。
さらに、この世界ならではの「巨大で身がプリプリな本物のカニ肉」をこれでもかと卵に閉じ込め、特製の甘酢餡をたっぷりとかけた至高の『天津飯』。元の世界ではカニカマで代用しがちだったけれど、本物のカニを使うとここまで格段に贅沢になるのかと僕自身が感動してしまった。
もちろん、それだけじゃない。
肉と、海に溶け込んだキューブの栄養でこれまた巨大に育ったエビやイカ、そしてシャキシャキの新鮮な野菜を旨味の詰まった中華餡でまとめ、白米の上に豪快にかけた『中華丼』。
そして極めつけは、自家製のラー油をピリッと利かせ、豆腐の喉越しがたまらない『麻婆豆腐』と、油を吸ってトロトロになったナスが最高な『麻婆茄子』。
連日、食堂のテーブルに並ぶ茶色と黄金色の絶景を前に、お腹を空かせた寮生たちは毎晩狂喜乱舞していた。
「……ねえ、ヒロキ。ちょっといいかしら」
中華ブームの4日目。
麻婆茄子をハフハフと言いながら白米に載せてかっ込んでいたサリーが、ふとスプーンを止めて、真剣な顔で僕を睨んできた。
「何、サリー? 味、ちょっと辛すぎた?」
「味は文句なしに100点よ。そうじゃなくて……あなた、私たちを確実に太らせにきてるでしょう!」
「そうですよぅ、ヒロキさん!」
隣でチャーハンをおかわりしていたピピも、リスのように頬張ったまま激しく同意してくる。
「毎晩毎晩、こんなに白米が進む反則級のおかずばかり出されたら、セーブしたくても手が止まらないじゃない! 芸能コースのレッスンでどれだけカロリーを消費しても、これじゃ完全にプラス収支よ!」
アオイさんがそう言って、少しふっくらした(ような気がする)お腹をさすりながら悔しそうに身悶えしている。
アニーも口元に餡をつけながら「でも、美味しいから止められないのが罪深いですぅ……」と幸せそうな悲鳴をあげていた。
「ははは! 料理人としては、そうやって綺麗に平らげて文句を言ってもらえるのが一番の褒め言葉だよ」
僕はタッチパネルで火力を落としながら、満足げに笑った。
強力な送電インフラと最新のIHのおかげで、直火がなくても「中華のパラパラ感やシャキシャキ感」は完全に再現できることが証明できた。何より、僕の知識とこの世界の極上食材が噛み合ったときの中華料理の爆発力は、想像以上だ。
「さあ、お肉も野菜もまだたくさんあるからね。太るなんて野暮なことは言わずに、しっかり食べて明日のレッスンのエネルギーにしてよ!」
「もうっ、悪魔の囁きなんだからぁ!」
文句を言いながらも、すぐにスプーンを伸ばす彼女たちの笑顔を見つめながら、僕の中華ブームはまだ続くのだった。




