101.僕と、定例発表会と、自然の理
ついに定例発表会も最終日、3日目を迎えた。
この日は最上級生である3年生の発表会だ。
彼女たちは、優美林女子高校芸能コースが代々受け継いできた伝統の「歌劇」の演目を、体育館ステージで披露することになっている。
それは途中に休憩を挟むとはいえ、全部で6時間にも及ぶ超大長編の本格的な舞台だ。
特に主役に抜擢された生徒は、その6時間のうち9割近くを舞台上で演じ続けなければならない。求められる体力と気力は想像を絶するものがある。
何より、昨年はその主役をヨーコさんが完璧に務め上げ、伝説的な舞台を残していったのだ。今年の主役にかかるプレッシャーと重圧は、僕なんかには計り知れないほど凄まじいものに違いない。
客足が落ち着いた合間にパンフレットを眺めていて、ふと気がついた。
今年の3年生の紹介欄には、全部で15名の名前しかなかった。
(確か、入学時にはどのコースも一律20名だったはずじゃ……)
気になって手伝いのスタッフに少し聞いてみると、入学時の20名のうち、5名が厳しいレッスンの重圧や人間関係、あるいはそれぞれの事情で途中でドロップアウトしてしまっていたのだという。
この厳しさは、芸能コースに限った話ではなかった。今年だけでも、普通コースや専門課程コースを含めれば、すでに4名の途中退学者が出ているらしい。
各学年各コースでたった20名しか入れない、カントウ屈指の名門女子高校。けれど、ここへ入れたからといって、その後のエリートコースが約束されたわけでは決してないのだ。
スポットライトを浴びる華やかな世界のすぐ裏側には、人知れず涙を流し、挫折を味わって去っていく者が必ずいる。
綺麗事だけでは済まない、これもある意味ではこの世界の本質である「弱肉強食」の厳しい理なのだと、真夏の体育館を見つめながら改めて実感させられた。
グラウンドでは、役割を終えた特設ステージの解体作業が朝から静かに始まっていた。
来客者の大半も6時間の歌劇を観るために体育館のほうへと集中しているため、これまでの2日間に比べると、グラウンドの屋台チームの売れ行きはそこまで多くはなかった。
「よし、みんな。今日はお客様の動きに合わせて、仕込み分がすべて売り切れたコーナーから順番に撤収作業に入ろう」
僕の指示で、サリーやアニーたちも手際よく片付けを始める。
そんな中、僕のうどんコーナーで今日も朝から健気に接客の手伝いをしてくれていたアオイさんが、体育館のほうをチラチラと気にしているのに気がついた。
「アオイさん、うどん屋の手伝いはもう十分だよ。ここからは僕一人で回せるし、アオイさんは体育館に行って、3年生の舞台を観ておいで」
「えっ? でも、まだお手伝いの時間が……」
「いいからいいから。来年はアオイさんたちの番なんだから、先輩たちの集大成を目に焼き付けておかなきゃダメだよ」
僕が優しく背中を押すと、アオイさんは「……はい! ありがとうございます、ヒロキくん!」と真剣な表情で頷き、エプロンを外して体育館へと走っていった。
彼女は現在2年生のトップを走る、誰もが認める「来年の主役候補」だ。
ドロップアウトしていく仲間たちの現実や、偉大すぎるヨーコさんという前例の影、そして今まさに舞台上で命を削るようにして演じている3年生の先輩たちの姿を、アオイさんは一体どんな想いで見つめているのだろうか。
一人の表現者としての彼女の横顔を想像しながら、僕は静まり返っていくグラウンドで、最後の大鍋の火をそっと落とすのだった。




