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獣人しかいない世界で 僕は胃袋掴んで無双する  作者: けろ


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100.僕と、定例発表会と、大スター

100話到達いたしました。ありがとうございます。

「寮長、ご面会です。控室までよろしいですか?」

運営スタッフの生徒に声をかけられ、僕は額の汗を拭った。客足も少し落ち着いたタイミングだったので、エプロンを外して指定された控室へと向かう。

トントン、とノックをしてドアを開けると、そこには懐かしい姿があった。

「お久しぶりね、ヒロキくん」

上品に微笑みながらそこに佇んでいたのは、去年この芸能コースを卒業したヨーコさんだった。

「お久しぶりです! ご活躍はいつもテレビで拝見していますよ。ヨーコ先輩……いや、今はもう『ヨーコさん』ですね」

ヨーコさんには、僕が『人間』であるという明確な正体こそ明かしていない。けれど彼女は、僕がこの世界の住人ではなく「遠い世界からやってきた異邦人」であるということを、その天才的な勘で見破っている、数少ない理解者の一人だ。

「今年の発表会はすごい盛況ね。グラウンドがあんなに美味しい匂いでいっぱいになるなんて……。去年もヒロキくんがこうやってお店を開いてくれていたら、私たちの代ももっと盛り上がったのになぁ」

ちょっと不服そうにプクッと頬を膨らませるヨーコさん。今やカントウのみならず、世界を虜にする押しも押されぬ大スターなのに、僕の前で見せるこういう少女のような仕草は、去年の寮生活の頃と何も変わっていない。

彼女ほどの有名人になると、一般客でごった返すグラウンドの屋台エリアをゆっくり歩くことすらできない。だからこそ、人目を避けて僕をこの控室に呼んでくれたのだ。

ふと見ると、ヨーコさんの手には学食でお馴染みの、透明なプラスチックパックに入ったいなり寿司が握られていた。

この優美林では、発表会のようなイベントの有無に関わらず、学生食堂のお弁当売り場で『いなり寿司』と『三色丼』だけは常に定番として売られているのだ。

「懐かしいなと思って久しぶりに買ってみたんだけど……学食のおいなりさんは、やっぱり少し味が違うのね」

ヨーコさんはパックを見つめながら、クスッと笑った。

「あはは、そうですね。学食のおいなりさんは『松茸ごはん』じゃないですからね」

「そう! それよ! あの味が忘れられなくて」

去年の秋、僕が初めて作ったあの松茸ごはんのいなり寿司。それをこの控室で二人して思い出し、他愛のない思い出話でひとしきり盛り上がる。

今や画面の向こう側の「高嶺の花」になってしまったはずのトップスターと、こうして昔と変わらずに『友人』として笑い合えている。その事実に、僕は自分が本当に果報者だな、としみじみ感じていた。

「――あ、そろそろ私、行かなくちゃ。次の仕事のマネージャーが迎えに来ちゃうわ」

楽しい時間は、本当にあっという間に過ぎていく。ヨーコさんは名残惜しそうにソファーから立ち上がると、僕の目の前までゆっくりと歩み寄ってきた。

そして、僕の手を両手できゅっと優しく握りしめながら、その吸い込まれそうな美しい瞳で、僕の目をじっと見つめてきた。

「私はこれからも、ヒロキくんの行く末をずーっと見守っているからね。……そして、いつか私と肩を並べるくらい、ううん、それ以上の大きな存在になってくれるって、信じてるから」

耳元で囁かれるような、優しくも強い確信に満ちた言葉。

握られた手の温もりと、真っ直ぐに向けられた彼女の視線に、僕は不覚にも心臓がドクンと跳ね上がり、ヘッドギアの裏で激しくドギマギしてしまった。

僕が何か気の利いた返事をするよりも早く、ヨーコさんは僕の動揺をすべて見透かしたような悪戯っぽい笑みを浮かべ、心地よい余韻だけを部屋に残して、静かに控室を後にした。

パタン、と閉まったドアを見つめながら、僕はしばらく赤くなった顔を押さえて立ち尽くしていた。

「……みんな、僕への期待値が高すぎやしませんかね」

大きく深呼吸をしてトクトクと脈打つ心臓を落ち着かせると、僕は自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直した。

大スターに「それ以上の存在になる」と信じてもらえているんだ。ここで立ち止まっているわけにはいかない。僕は再びグラウンドの熱気の中へと、足早に戻っていくのだった。

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