第5話 【封印照合】が目を覚ます
翌朝、私は北領宝物庫の封印確認簿を片端から洗い直した。
【封印照合】が目を覚ましてから、蝋の色と欠け、鍵傷の深さ、札紐の結び方が以前よりはっきり読める。似ているだけの偽印と、本物の癖が手に取るように分かるのだ。
「昨冬以降の記録だけ、同じ手で繕われている」
私は三冊の帳面を並べた。王都の搬出札控え、北領の受領簿、封印確認簿。どれも一見整っているのに、姫冠関連だけ受領順が逆転している。
「誰かが王都から北領へ送ったあと、別の品を戻した」
「すり替えか」とレオンハルトが言う。
「少なくとも証書筒は。封印帯の裂け目が合いません」
そこへ古参の保管係オットーが帳面を抱えて入ってきた。頑固そうな老人だったが、私の並べた帳面を見るなり、目を細めた。
「前任の主任は青玉の姫冠ばかり気にしていた。王都から急ぎの使いが来るたび、保管棚を開けさせたものです」
「使者の名は?」
「記録には残っておりません。残すなと言われたので」
残すなと言われた記録ほど、残すべきだったのに。
私は胸の奥で深く息を吸った。
「修道院封庫への参照がありました。王妃献納録の追補がそこにあるはずです」
「雪の峠を越える必要がある」とレオンハルトが言う。「今日中に許可状を出そう」
「私一人で行けます」
「君の箱ごと崖下へ落ちても困る」
無愛想な言い方なのに、妙に責める響きがない。私は少しだけ笑ってしまった。
「それは確かに困りますね」
その時、王都からの速達が届いた。差出人はセレナ。封を切る前から、香の甘い匂いが鼻につく。
中には夜会の招待状が一枚。《王家縁故認定祝賀会》。そして一行だけ。
『お姉さま、ようやく私が本物の王女に相応しいと認められますの。北領の暗い棚からでも祝ってくださいね』
私は招待状を閉じた。
セレナは、失くなった王妃献納録を使って何かを証明したつもりでいる。なら、その証明そのものをひっくり返せばいい。




