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第4話 割れた封蝋と銀の鍵

その夜、私は青玉の姫冠が保管されていた棚を見に行った。


 空の台座だけが残り、布の皺だけが新しい。棚札には《王妃献納・青玉装身具一式》とあるのに、姫冠本体、首飾り、留め具、証書筒のうち、証書筒だけが見当たらない。


「証書筒を抜けば、由来だけ消せるわね」


 私が言うと、背後のレオンハルトが低く返した。


「同じことを考えた」


 彼が拾った銀の古鍵を受け取る。冷たい金属に薄く残った青蝋は、王都で見た偽封蝋と色が違った。こっちは本物の封印蝋だ。つまり鍵は本来ここにあったのに、誰かが別の偽印で記録だけを繕っている。


 鍵を棚下の小引き出しへ近づけた時、胸の奥で妙な熱が走った。


 金属の擦れ、蝋の欠け、紙の繊維が、ひとつの線として頭の中で重なる。鍵はここを開けた。だが最後に差したのは、本来の保管係ではない。焦って抜いたせいで鍵山が削れている。封筒の偽印も、同じ左利きの押し方。


「……見える」


「何がだ」


「鍵と封印の癖です。どの鍵がどの箱を開けたか、どの蝋がどこから剥がされたか」


 私は自分でも驚きながら、引き出しの奥板を押した。カチ、と鈍い音がして、薄い隠し蓋が浮く。中には破れた封印帯の切れ端と、王都宝物局の搬出札の半券が挟まっていた。


「この棚、二重底になっていたのね」


「前任者は報告していない」


「報告したくないものを隠したからでしょう」


 私は封印帯の裂け目へ指を沿わせた。さっきの熱がもう一度走る。切れ方、蝋の剥がれ、押印の角度。ばらばらだった断片が揃っていく。


「【封印照合】……」


「能力か」


「たぶん。目録官のくせに、今さらですが」


 レオンハルトは笑わなかった。軽く扱いもせず、ただ当然のように次の言葉をくれる。


「便利だ。なら使おう」


 その一言で、私は少しだけ肩の力を抜いた。王都では新しい気づきも、面倒な理屈として潰されてきた。ここでは違うらしい。


 隠し蓋の奥には、もう一枚だけ紙片が残っていた。《王妃献納録追補・修道院封庫参照》。それだけで十分だった。


 消えた記録は、完全に消えたわけではない。誰かが急いで線を引き直し、そして綺麗に消しきれなかった。


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