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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第9話 つまりあの人も猫です

「リセアちゃん! 私精霊の扱い方うまくなったよ!」


「え、シエルちゃんあれ以上うまくなるんだ……。すごい」


「実は私出力ばかりだったみたいだから、一段階上を目指すことにしたの!」


「そうなんだ。……私もがんばらなくっちゃ」


 精霊使いはこの国ではわりと優遇されている。というのも、やっぱり単純に強いのだ。

 普通に魔法を使う場合よりも大規模かつ強力な魔法を扱えるため、国としてはそういう人材を有事の時のために確保しておきたいんだろうねえ。

 だから、私もどかーんと魔法が使えることが、精霊使いとしてのすごさだと思っていた。

 だけど繊細な制御のほうも重要だというんだから、なかなか難しいもんだねえ。


「ところで、そんなこと誰が教えてくれたの? 先生たちも今は出力を上げろって言っていたよね?」


「うん。でも、ヴィルタさん先輩は出力が十分なら、精度を上げたほうがいいって教えてくれたの」


「ヴィ、ヴィルタ先輩……!?」


 おや、知ってるのかな。知ってるみたいだね。

 まあ当然っちゃ当然かあ。水の協奏者だし目つき悪いし顔がいいからね。


「あ、あのヴィルタ先輩だよね? 水の協奏者の」


「そう。あの人、精霊の扱い方上手だよ」


「と、当然でしょ! だって、水の協奏者なんだから……」


「私も気持ちだけなら黒の協奏者でいようと思うの」


「お、恐れ多い……。とも言い切れない? 私、シエルちゃんのこと侮ってたのかなあ?」


 ただ、きっとヴィルタさん先輩のように他の協奏者もすごい人たちなんだよね。

 だとしたら、私はまだ協奏者よりも弱っちい精霊使いってことになる。

 精霊くんという助けがない私はせいぜい協奏者候補くらいかな。


 ……そこで気になるのはトゥリちゃんだ。

 あの子、炎の協奏者に勝ったんだよね。ってことは、制御もすごいんじゃないかな?

 そんなことを考えていると、ちょうどタイミングよくトゥリちゃんが通りかかった。


「お~い! トゥリちゃん~!」


「……」


 トゥリちゃんはこちらに気付くと、のんびりとした足取りで近づいてくる。

 マイペースな子だ。ここで私が威嚇とかしたら、そのままどこかに逃げていくのかな。


「どうしたの?」


「トゥリちゃんって炎の協奏者だよね?」


「ええっ!? そうだったんですか?」


 私の問いかけにトゥリちゃんじゃなく、リセアちゃんが声をあげる。

 そんなリセアちゃんの様子もどこ吹く風。トゥリちゃんはあくまでもマイペースに答えてくれた。


「……不本意ながら」


 そう言いながらもジトっとした目で私を見る。

 私が断るからそうなったんだぞ、と言外に訴えかけているかのようだね。


「私はほら。制御が甘いってことがわかったから!」


「……シエルならすぐに制御だって上手になる。なら、私よりシエルが炎の協奏者になるべき」


「でも、トゥリちゃんは炎の協奏者を倒したんでしょ?」


「えぇ……。も、もしかして怖い方ですか?」


「怖くないよー」


 訂正する気があるのかないのか、トゥリちゃんは間延びした声で否定する。

 たしかに、入学初日から自分が所属しようとする派閥のトップを倒すだなんて、案外喧嘩早いようにも思えるね。


「向こうから勝負を挑んできた。私はそれに勝っただけ」


「ひえっ、協奏者に……」


「向こうから挑まれるなんて、入学初日から大変だったんだねえ。でも、何をしたらそんな事態になるの?」


「シエルには言われたくない」


「たしかに……」


 な、なにさ! 私だって、好きで絡まれたり嫌がらせされてるわけじゃないからね!

 この学校というかここの生徒たちがおかしいんだから、私は絶対この黒い制服を変えたりしないんだから。


「実力があるという噂を聞いて、勝手に盛り上がって挑んできただけ」


「へえ。トゥリちゃんってそんな噂が流れるほどすごかったんだ」


「えっへん」


 彼女は控えめながらも誇らしげだった。

 協奏者になること自体は望んでいないが、自分の実力そのものは認めているし自信もあるみたい。

 私も同じだから仲間だね!


「でも本当にすごいです……。一年生なのに、先輩にそれも協奏者に勝っちゃうなんて」


「やっぱり小さいころから精霊の勉強してたの?」


 ある意味では私もそれだ。

 精霊くんと出会ってそのまま仲良くなるうちに、実体化は上手になった。

 トゥリちゃんも、昔から学んでいたからこそなのかもしれない。


「お兄ちゃんに教えてもらった」


「え、トゥリちゃんお兄ちゃんいるんだ。どんな人?」


「う~ん……。やさしい」


「いいことだねえ」


 やさしいお兄ちゃんなら兄妹仲もよさそうだし、喧嘩せず仲良しが一番だね。


「やっぱりお兄ちゃんも精霊使い目指してるの?」


「……前までは」


「おや、前まで……」


 ということは今は違うってことだよね。

 気が変わって別のことを目指すようになったならいいけど、なんとなく繊細な事情があるような気がする。

 そう察することができたので、精霊を繊細に扱う練習が活きてきた!


「今は別の目的がある……と思う」


「じゃあ、その目的が叶うといいね」


「……うん」


 ちょっと間が空くのはなんでだろう。

 マイペースな子だからというわけじゃない。

 なんか明確に答えに困ってるような雰囲気だね。

 ……うん。あまり触れないほうがいいことなのかも。

 空気が読める女。それがシエル・アルモニアなのだ。


「いた! トゥリさん!」


「げ……」


 話題を変えようと思った矢先、トゥリちゃんを呼ぶ声が聞こえ近付いてきた。

 それを聞いた途端、トゥリちゃんは嫌そうな顔へと代わる。


「げっ……。黒」


 そしてそんなトゥリちゃんを探していた人たちも、奇しくもトゥリちゃんのような反応を見せる。

 彼女たちは彼女たちで、私という存在を認識した途端に嫌そうな表情を浮かべた。


「トゥリさん、先代協奏者から炎の派閥についての引継ぎがありますよ。そんなやつと話していないで来てください」


「はあ……。シエル、またね」


「うん。がんばって~」


 それにしても、まだ一年生のトゥリちゃんに派閥の引継ぎねえ。

 先代なんて言われてしまっている協奏者の男の人もかわいそうな気がする。

 そして先輩たちの面倒を見るトゥリちゃんも大変だ。

 まあ、私のところにきたらみんなまとめて面倒見てあげるけどね!


 とはいえ、まだまだたった二人の黒の派閥。

 さくさくっと人数を増やせるわけでもないし、まずは私たちが楽しく強く学んでいくのだ。


「リセアちゃん、今日もがんばろうね!」


「う、うん。ただ、私はまた風の派閥でがんばるから……」


「あ、そっか。苦手な部分を徹底して鍛えるんだね」


 真面目だなあ。

 たまには他の派閥に顔を出して、私ってこんなにすごいんですよ? みたいなアピールしてもいいと思う。

 ただ、そんなリセアちゃんは想像できないので、彼女は今後も弱点を改善する努力を続けるんだろうなあ。


 なら私も負けていられない。黒の派閥の協奏者候補生として、ここはひとつ大幅な強化を目指そう。

 具体的には昨日の続きだね。今日も水の派閥の演習場で特訓だ。

 水の球体はぷるぷる震える時間も延長できているし、このままいけばぷるぷる震え続けるかわいい水になってくれるはず。


「そういえば、もっと詳しい話を聞く前に行っちゃったなあ」


「トゥリさんのこと?」


「うん。トゥリちゃんのお兄ちゃんってどんな人なんだろうねえ? やっぱりトゥリちゃんみたいにマイペースなのかな?」


「え……。シエルちゃんも会ったことあるでしょ?」


 おやあ? ここにきて、また私の記憶にない知り合いってこと?

 いや、結局それは冗談や勘違いだけなので、私の記憶が消えているわけじゃない。

 だから今回のこれもきっとそのどちらかだね。


「トゥリさんのお兄さん。ヴィルタ先輩だよ……?」


 ほらね。私もちゃんと会ったことを覚えている人だった。

 ……え、ヴィルタさん先輩? そうなの?

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