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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第8話 ヴィルタ先生の個人授業

「ふん!」


 精霊を呼ぶ。魔力を分けてもらう。代わりにそのうち一人を実体化させる。

 ここまでは大丈夫。これは得意。なんなら自信もある!


「お願いっ!」


 あとは水の精霊さんに頼んで、空中に球状の水がぷかぷかと浮かぶ。

 ただ、震えている。子犬のように震えている。

 ということは、その先はもうわかるね。


「あちゃ~……」


 もう笑われることはない。

 さすがに周りの先輩たちも飽きたのか、あるいはこうして私を見守っているヴィルタさん先輩に恐れをなしたのか。

 ただ、笑う笑わないはどうでもよくて、問題はこの繊細な制御なんだよねえ。

 精霊く~ん。コツを教えて~。


『むしろなんで使いこなせないのさ。自分の力なのに』


 だよねえ。あふれんばかりの私の力が制御できない!


『……ほんと、どこかの誰かじゃあるまいし。料理でもして繊細な力の入れ方でも学んだら?』


 料理かあ。できなくはないけれど、そういう細かいのはあまり得意じゃないかも。

 今度やってみようかな? 大雑把じゃない繊細な料理というものを。


「……」


 しかし、私がこうして何度も失敗している姿をじっと眺めているなんて、ヴィルタさん先輩も物好きだねえ。

 決して馬鹿にするとかではないので、余計に不思議でしょうがない。

 私なんか見ていて何か楽しいのかな?


「ねえ」


「はいは~い。なんでしょうか?」


「あんたさえ良かったら教えてやろうか? 精霊の上手な扱い方」


「え、いいんですか!?」


 これは意外。……でもないか。

 ヴィルタさん先輩は、見た目コワモテ中身優しい系の先輩だと睨んでいるからね。

 しかも水の協奏者でしょ? つまり腕がいい。知識もある。きっと教えるのも得意。

 これは願ってもない提案かも。


「それじゃあまずは」


「ヴィ、ヴィルタさん! いいんですか!? そいつ黒ですよ!」


「なに? なんか問題あるの?」


「い、いえ……」


 ヴィルタさん先輩が男の人に聞き返すと、その先輩はすっかり委縮してしまった。

 う~ん。これは威圧していないのに、相手が必要以上に怯えている気がするなあ。


「……」


 結局その先輩はそれ以上は何も言ってこなかった。

 すごすごと引き下がるその姿を見て、ヴィルタさん先輩はどこか残念そうな目を向けている気がする。

 いや、やっぱり怖い目だけどね? 睨んでいるように見えるけどね?


「やっぱり俺だけじゃ駄目か……」


「ヴィルタさん先輩、悩み事ですか?」


「いや、大丈夫だから。それよりほら。精霊の準備して」


「了解です!」


 まずは精霊集め。魔力注入。


「そこ」


「へ? どこですか」


 召喚途中でヴィルタさん先輩にストップをかけられる。

 あれ~? この工程には自信があったけど、もしかしてここもうまくできてなかった?


「もっと精霊が必要ですか?」


「違う。逆だよ」


「逆……。もしかして、精霊集めすぎてます?」


「というか、なんでもかんでも無差別に集めすぎ。精霊同士の相性考えてる?」


「相性……」


 みんな仲良し! ってことではないのかなあ?

 精霊くんが手伝ってくれるときも、そのへんの精霊さん全員に協力してもらっている。

 だから、集める精霊同士については考えていないんだよねえ。それがまずいの?


「例えばそっちの精霊は、魔力を留めるのは苦手みたいだね。逆にこっちは少しずつ蓄えて一気に放つのが得意」


「ふむふむ」


「そんな精霊同士を集めたら、互いの長所と短所がぶつかって制御も難しいでしょ」


「なるほど!」


 わりと基礎的な話っぽい。

 でもおかしいなあ。授業ではそんなこと教えてくれていない気がする。

 もしかして、もう少ししたら習うのかな?


「つまり私は基礎がなっていないと! ……いやあ、面目ない」


「いや、十分できてるよ。本来こんなこと考えるのはもっと先。というか、卒業までにそこまでできるのも一握り。今の段階でそれだけできるなんてすごいじゃん」


「お、おおう……」


「ちゃんと頑張ってるよ。あんた」


「い、いやあ。照れますねえ!」


 ただ淡々とそんなことを言ってくれる。

 だけど適当に言ってるわけではなく、あくまでも真摯に私について評価を下してくれた。

 それがなんだかむずがゆく、やけに気恥ずかしくもある。


「精霊を必要なだけ集めるってけっこう高度な技術だよ。だから、集めすぎて選別する段階なのは自信を持っていい」


「はい、ありがとうございます!」


 つまり、私に才能がないってわけじゃない!

 よかったよかった。あれだけ大口叩いておきながら、実は精霊使いとして落ちこぼれでしたというのは避けられた。


 それにしても、ヴィルタさん先輩はそこまで考えて精霊を使役しているんだね。

 さすがは協奏者ってことかなあ。ということは、王子様やらイルマ先輩やらトゥリちゃんもそれくらいできるってことになる。

 う~ん……。トゥリちゃんが私を協奏者に推薦していたけど、どの道無理だったかもなあ。


「ほら、考えてないでさっさとやる」


「はい!」


 そしてヴィルタさん先輩は案外面倒見がいい。

 惜しいなあ。周りの人たちも怖がらずに接してみればいいのに。


「なに? 他のこと考えてる余裕なんてあるの?」


「す、すみませ~ん!」


 集中が足りないと怒られた。

 な、なるほど。わりと厳格に指導する先輩ってことだね!

 私も余計なことを考えずにしっかりと教わらないと。


 そうしてみっちりと鍛錬すること数時間。……数時間!?

 いつの間にかそんなに時間が過ぎていたんだね。

 気が付けば周りは暗くなっているし、先輩たちも引き上げてしまったのか誰もいない。

 も、門限ってどうだったっけ!? ……ああよかった。まだこのくらいなら問題ない。


「……なんで、そんなにがんばるの?」


「そりゃあもう。精霊と仲良くなって強くなるのは楽しいですからね!」


 ヴィルタさん先輩にも感謝しないとね。おかげで今日はぐんと成長できた気がする。

 これまでと違ってなんとうかこう……精霊さんたちの力をより引き出せている気がするのだ。


『たぶん気のせいだよ~』


 なんで!?

 私わりとがんばったじゃん! 真剣に訓練に没頭していたじゃん!


『でも、それは力の制御の訓練でしょ? 力をより引き出せるっていうのは勘違いじゃない?』


「むむむ……」


 ぐうの音もでない。むの音ならいっぱい出た。

 精霊くんと魔石を通して思念で会話していたはずなのに、急にそんな変な声を出すもんだからヴィルタさん先輩も不審な目で見ている。


「大丈夫?」


「平気です! お腹はすきました!」


「それじゃあ急いで寮に戻ったほうがいいよ。遅れたら自炊しないといけないからな」


「そうでした! では、今日はありがとうございました!」


「ああ、気にしないで。俺が好きでやっていることだから」


 む……。

 ヴィルタさん先輩はコワモテだけど顔がいい。

 そんな顔でそんなことを言われると、女性としてはなかなか嬉しいことでもある。


「ヴィルタさん先輩って、やさしいんですねえ」


「は……?」


 ただ、反応はやっぱり勘違いされるから直したほうがいいと思うけどね!

 今のは私の思いがけない言葉に驚いているんだろうけど、普通に気分を害して睨んでいるようにしか見えない。


「きっと水の派閥の人たちにも、ヴィルタさん先輩が優しい人だって伝わりますよ! では!」


 それだけ言い残して、私は颯爽と寮へと帰ることにした。

 間に合うか!? たぶん平気!

 そもそも間に合わないようなら、ヴィルタさん先輩がその前に切り上げてたと思うし。

 なので、急いで帰れば夕食にもありつけると見たね!


 こうして私は今日も充実した一日を過ごすのだった。

 自炊もいいもんだよね! たまにこうして作らないと腕が鈍っちゃうからね!


    ◇


「ほんと、恐れ知らずだよなあ」

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