第61話 火の粉舞い散る世界の中で
「シエルさん。少し尋ねたいことが」
「はいは~い」
「シエルさん。よかったら風の精霊魔法の指導をお願いできますか?」
「もちろん!」
黒の派閥の協奏者として、今日も私は頑張っている!
黒飴事件以降も協奏者のみんなは協力してくれているので、私もすっかり精霊魔法が上達した。
今や黒の派閥のみんなを指導できる立場なので、なんだか協奏者っぽくなってきたなあなんて考えちゃう。
でも、他の協奏者からの指導は受け続けている。
本当にめきめき上達させてくれるからねえ。
私もいつかはそんな指導者になれたら嬉しいな。
「よろしくお願いしまっす! カリオ先輩!」
「君、いつも力が入りすぎだよ。もう少し肩の力を抜いたら?」
「じゃあ、こんな感じで」
「その切り替えの早さはすごいよね」
気合十分から脱力十分へ。その流れも魔力制御に通ずるものがあるからねえ。
私はすっかりと成長しているのですよ。カリオ先輩!
「ところで、今日は四人全員での指導なんですね?」
「ああ。複数属性の調和と制御、シエルにはそれを完璧にしてもらいたいからね。今日からはしばらくそこを訓練してもらいたい」
「なるほど~」
要するに黒の派閥の黒たるゆえんの力だね。
まさか、本当に四属性を混ぜたら黒くなるとは私もびっくりした。
ただ、あれほどの力は黒飴戦以来発揮できていない。
各属性の地力を上げた今なら、この五人だけでもできるって判断してもらったってことかな?
「まずは五人の魔力を制御してもらう。今の君ならできるだろ?」
「余裕です!」
これは本当のこと。
その前段階の訓練は散々積んできた。だから、ここでできないなんて言うつもりはないよ!
それにしても、協奏者のみんなの力って本当にすごいよねえ。
こうしてみんなの魔力を集めるとよくわかるんだけど、下手したら先生よりも上なんじゃないかって思う。
四つの属性のエキスパート。その力は本当に大きな力であり、私の成長の切っ掛けとなってくれた。
今ならしっかりとみんなの力を無駄なく使える。
私も成長したし、なんなら協奏者のみんなも黒飴のときから成長している。
だから、今の私たちならあのときと同じかそれ以上の精霊くんを実体化できるね!
『へぇ、それは楽しみだな。それじゃあ、やってみてよ。今の君の全力でボクの体を実体化してみせて?』
もちろん!
さあ、教えてもらったことの集大成といこう!
私はみんなの魔力を集めた。それらの消耗を減らすだけじゃない。
しっかりと調和させることで、元々の魔力以上の力を引き出す。
それに私自身の魔力を使って制御する。これなら、五人の力を超えた魔法を使えるはず!
「待って! 力が強すぎる!」
「まさか、今の時点でこれほどの力が!?」
え、なんかまずい?
イルマ先輩とカリオ先輩の慌てた様子に、私は思わず魔法の制御を乱してしまった。
あ……。これって暴発しちゃう?
「ごめんなさい、失敗したかもです! 逃げましょう!」
このままじゃ魔力が爆発しちゃう。
ということで、私たちは急いでその場から離れた。
魔法を行使していた場所から離れ、爆発しないか恐る恐る見ていたんだけど……。
あれ? なんか全然そんな気配はないね。
たしかに失敗したと思うんだけど、なんでだろう?
「ふぅ。すごい力だね」
「精霊くん!」
よかった。実体化はうまくいったみたい。
というか、精霊くんが暴走しそうだった魔力をなんとかしてくれたのかな?
だとしたら、精霊くんにお礼を……。
「駄目だ。間に合わなかった」
「シエルの実体化、阻止できなかった」
ヴィルタさん先輩、トゥリちゃん。どういうこと?
もしかして、さっきの魔法って失敗しないと駄目だったってこと?
でも、成功するに越したことはないよね? 精霊くんもこうして元気そうだし。
「いやぁ、予定がだいぶ早まったよ。ありがとね? 君たちの協力無くしては、シエルはこれほどの力を得なかった」
「え、私やっぱり成長した?」
「うん。こうしてボクが完全に復活できるほどにはね」
そうなの? 精霊くん、完全に復活できたんだ。
それはよかった。……というか、今まで完全な状態じゃなかったんだね。知らなかったよ。
「シエル! 離れろ!」
「え? なんでですか?」
ヴィルタさん先輩が私の手を思いきり引いて抱きよせる。
ど、どうしました!? さすがに私もちょっぴり照れる……。
という気持ちは、私の頬を切った灼熱の腕により蒸発した。
「あれ? 外しちゃったか~」
「せ、精霊くん? ど、どうして……」
今のは確実に精霊くんの手だった。
私の頬に触れようとした。……なんてことじゃないよね?
あれは確実に攻撃だった。ヴィルタさん先輩が手を引いてくれなかったら、私の顔は焼け爛れていただろうから。
「何も知らないうちに殺してあげたほうが幸せかなって思ったんだけど、ボクの気遣いは邪魔されちゃったみたいだねぇ」
「こ、殺すって……な、なんで?」
「だってさぁ。君、もういらないもん」
いらない……。
私、なんかしちゃった? 精霊くんが嫌がることしていた?
もしかして、ずっと精霊くんは私のことを嫌っていた?
「シエル、しっかりして! こいつは魔王軍四天王のピルカヤよ! 人類全てを憎んでいるのだから、あなたに問題があるわけじゃない!」
「そうだねぇ。むしろ人類の中ではけっこう気に入ってる方だよ? 苦しまずに殺してあげようとする程度にはね」
イルマ先輩の言葉を肯定するけれど、それはつまり気に入った存在すら殺すほどに相いれないってこと……だよね。
精霊と人間は仲良くなれないってこと? それとも、ピルカヤくんが魔王軍だったから?
ピルカヤくんは、私を通して人類を見定めるって言っていた。
その結果がこれだというのなら、私は人類の駄目なところばかりを見せてしまっていたのかもしれない……。
「魔王軍はもうボク一人しか残っていない。だけど人類に負けるつもりもないよ? 君たちだって女神も勇者も失った。完全に復活したボクなら、人類絶滅だってできるはずだよねぇ!」
いつもの優しい炎じゃない。
怒りを感じさせるほどに荒々しく、真っ黒で禍々しい炎。
ピルカヤくんはずっと我慢していたってこと? 私たち人間に復讐をしたいけど、体は復活していないから。
だから、私を使って復活してから人類と戦おうと……。
「逃げる」
「トゥリちゃん」
ヴィルタさん先輩だけでなく、トゥリちゃんも含めてすでに逃げる準備をしていたみたい。
まるで、このことがわかっていたかのよう……。
そっか、だからだね。だから、みんな私を正しく導いてくれていたんだ。
「あれ~? 逃げちゃうの~?」
だから! この場はしっかりと逃げよう!
状況はまだ完璧には飲み込めていないけど、協奏者のみんながいる!
ピルカヤくんがあんな風になった理由があるかもしれないし、なかったとしてもまずはここから逃げよう!
「ま、いいや。どうせみんな燃やすから。君たちがどうなろうと興味ないんだよね~」
ケラケラと笑う姿は、私が知っているピルカヤくんそのものだった。
それがあまりにもいつも通りで、だからこそやけに悲しかった……。




