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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第58話 裏表のない空の色

 精霊く~ん。今日はどの属性の訓練がいいかなあ?

 入学して数日。黒の派閥という孤高の精霊使いとして、私は腫物扱いされながらも精霊魔法を学んでいた。

 それでも理解者はいる。……いた、と思っていたんだけどなあ。


「イルマ先輩たち、最近は忙しそうだねえ」


『まあ、別の派閥の人間だからね。さすがにシエルの優先順位は下の方でしょ』


「だよね~!」


 あ~あ。世知辛い世の中だよ、ほんとに。

 やっぱり私の派閥にも早く仲間が欲しいなあ。

 今の私の仲間は精霊くんただ一人。人間の友達を作らないとね!


『友達ではあると思うよ? ただ、派閥がどうとかで一緒にいられないんでしょ。ほんっと、君たち人間ってややこしいよね~』


 精霊くんだって魔王軍という特大の派閥だったじゃん!

 みんな仲良くが私の信条なので、本当なら黒の派閥もいらないんだけどねえ。


『けっこう楽しいよ。仲間内でわいわいするのも』


 それはわかる。

 だけど、その楽しみを求めて別の派閥と仲良くできないのは嫌だ。

 私って欲張りな人間だからね。


『いいと思うよ? 君たち人間は、そういう心の強さが何か大きなことをしでかすんだから』


 しでかすって……。なんか悪いことみたいだねえ。


『それでボクたち負けて死んだからね!』


 おおう。センシティブな話題だあ……。

 ただ、精霊くんはいつものようにコミカルな雰囲気でぷんぷんと怒っているだけ。

 案外割り切っているのかな?


『前も言ったでしょ? 悪いのは女神。そしてその女神は仲間が倒した。なら、君たちは別にどうでもいっかな』


 どうでも……。負の感情は嫌だけど、仲良くなれないのもさみしいねえ。

 どうかな? ここはひとつ仲良くしてみようじゃないの。


『仲いいでしょ~? だってボクたちは友達じゃない』


 だね!

 さあ、精霊くんという心強い味方の存在を改めてありがたがろう。

 そうして元気を取り戻したので、今日もがんばって仲間集めだね!


「シエル・アルモニア。ちょっといいかな?」


「おや? 王子様」


 出鼻をくじかれた?

 いやいや、ここは王子様と仲良くなるチャンスの到来だと思おう。


「少し長くなるかもしれない。悪いけど空き教室に移動して話そう」


「は~い」


 悪いことしたっけ? まだしてないはず!

 なら、堂々とついていってお話しようかな。

 私たちは校内を移動し、人だかりが少ないというか周囲に誰もいない教室へと入っていった。


「来たね」


 そこにいたのは、ヴィルタさん先輩。イルマ先輩。トゥリちゃん。

 あれえ? 協奏者勢ぞろい!

 ……はっ! ここに呼ばれたってことは、私もついに黒の協奏者として認められたってこと!?

 いやあ。これからもがんばっちゃうよ~。……あれ? でも、認められるような功績とかあったっけ?


「いきなりで悪いんだけど、これって知ってる?」


「魔道具……。ですかね?」


 イルマ先輩が見せたのは指輪のような魔道具。

 でも、あれの効果はよくわからない。

 というか私には魔道具とか専門外だからね!


「これは、嘘に反応する魔道具よ」


「ほえ~。便利そうですねえ」


 ……あ、あれ? なんで流れるように私の指にはめてるんですか!?

 やはり尋問! おのれ王子様……。このままでは、私は濡れ衣を着せられ……ないね。

 要するに嘘を言うなってことだもんね。


「まずはシエルで試しましょうか」


「実験台!?」


 まあいっか。協奏者のみんなが試そうとしてくるってことは、体に害とかはないだろうからね。

 もしかして、これって単に放課後にお喋りして楽しんでいるって状況なのかな?

 本当は派閥同士では仲良くできないから、こうやって人がいない場所で仲良くしているとか?

 だとしたら、派閥がやっぱり邪魔だなあ。黒の派閥で全部を塗りつぶす計画、継続しよう!


    ◇


「というわけで、色で判断できるのよ」


「本当ですね~。まさかがんばって抵抗しても見破られるとは。なかなかやりますね」


「なんで抵抗するのさ」


「い、いえ? やましいことがあるとかじゃないですよ? 人間の力を見せつけようと思いまして」


 ただ人間は負けました。これからは魔道具の前に平伏すことにしよう。

 そんな決意を固めていると、トゥリちゃんが神妙な顔で私にお願いしてきた。


「ねえシエル。あなたの精霊にも質問させて」


「それってこの指輪をしながらってこと?」


 どうする? 私じゃなくて精霊くんの意思を尊重するけど。


『別にいいよ~。そもそも、ボクが嘘をつく理由なんてないし。全部真実の色にしてあげる』


 そっか。じゃあ実体化するね。

 精霊くんの許可も出たので、協奏者のみんなにそれを伝える。

 そしてまずは実体化。魔力を集めて精霊くん用の体を作る。

 なぜかみんなが固唾をのんで見守ってくれている気がするけれど、私ってそんな危なっかしく見えるかなあ?


「よ~し。今日もばっちり」


「シエルもボクの実体化に慣れてきたね。それで? 何か質問するんでしょ?」


「ああ。悪いが少し付き合ってくれ」


 トゥリちゃんではなく、王子様が精霊くんと向き合い話し合う。

 なんだろう? なんかやけに真剣な表情だねえ。

 人間用の魔道具を精霊にも使えるかの実験ってことかな?

 だから、精霊くんの反応をしっかりと見逃さないようにしているとか?


 そんな王子様の最初の質問はなんなんだろう?


「シエルの精霊。君は元魔王軍だな?」


 ……え。


「……そうだね。どこで聞いたのかな?」


 王子様の質問って……。

 あ、あれ? 精霊くんが魔王軍だったってばれている?

 な、なんで? いや、そんなことより……。

 みんなが真剣な表情なのは、精霊くんが危険な存在だと思っているから?


「ち、違います! あ……違くないけど、精霊くんは今はいい精霊で……」


 なんとかしてフォローしないと。

 そう思った私の口から出た言葉は、なんだかまとめきれていないものだった。

 王子様たちは、そんな私を憐れむような表情で一瞥する……。


「まったく。ボクはいいんだけど、シエルを悲しませるのはいただけないねぇ」


「ああ、それはこちらも不本意だ。だから、彼女を悲しませる存在を近くに置いておくわけにはいかない」


「それってボクのこと?」


「違うのか? 元魔王軍四天王ピルカヤ。君はシエルを利用して完全復活して、人類を襲おうとしているんじゃないか?」


「はぁ? そんなことするわけないだろ。まったく、いつの時代も魔族は差別を受けてばかりだよねぇ」


 嘘の色になっていない!

 よ、よかったあ。精霊くんに限ってそんなはずないと思ったけど、ちゃんと本当のことを言っている色だ。

 これなら協奏者のみんなも……。


「……そんなはずは」


「魔道具が精霊相手にはうまく効いていないとか?」


「変な細工はしないで。本当のことを言って」


「え~? ボクに何を言わせたいのさ?」


 信じてない! ぜんっぜん信じてくれてない!

 な、なんで!? 精霊くんが何をしたっていうの?

 そりゃあ、元魔王軍四天王だけど……。

 そういうこと? 魔王軍だったから仲良くなれないってこと?

 でも、私とずっと仲良くしてくれたのは本当なのに……。


「せ、精霊くんを悪く言わないでください!」


「あ、シエル」


 私は精霊くんの実体化を解除して、そのままその場を走り去ってしまった。

 辛いなあ。他の生徒たちが私に悪意をぶつけるのはいい。

 でも、協奏者のみんなとは仲良くなれたと思っていた。

 そんな人たちが精霊くんを疑うのが辛い。


 だけど、私は協奏者のみんなを信じるべきだったんだと思う。


    ◇


「ほんと楽で助かるよねぇ! 君さぁ。忠告されてたよね? それなのにボクを実体化させるなんて、お人好しの相手って楽だよねぇ!」


 実体化した精霊くんは全てを燃やし尽くした。

 校舎を燃やし、生徒を燃やし、私を燃やし、最後は国を燃やすのだろう。

 ごめんなさい。私が馬鹿だったせいで……。

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― 新着の感想 ―
シエル…実はめんどくさい子だったのか…君こそ相手の話も聞かないと。 四人のほうも、もう少し言葉を選んで。 それにしても、この状況は難易度の高いノベルゲームのよう。
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