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黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


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第57話 あなたのやさしさは報われない

「な、なんでそんなこと言うんですか!?」


「違うの! 聞いて、シエル!」


 失敗した。

 ピルカヤの演技力を甘く見ていた。

 そうよ。だって、こいつはずっとシエルの友人のふりをしてきたじゃない。

 誰よりも近くでシエルを支えるふりをしてきて、シエルからの信頼を勝ち取ってきたじゃない。

 シエルが無害と判定し、その肉体を完全復活させるほどには……。


「わ、私にはわかりません!」


「落ち着きなよシエル。まあ、ボクが四天王だったってのは本当だからねぇ。そう思われても仕方ないよ」


 ……この期に及んで焦った様子すらみせない。

 非は自分にあると認めたような姿がとても恐ろしい。

 これでは、完全に私が悪者だから……。


 走り去ってしまったシエルを追いかける気力すらない。

 また駄目だった……。軽率に動きすぎた。


「駄目だったみたいだね」


「ヴィルタ……」


「シエルはピルカヤと本当に仲がよかった。そんな友人をけなされたのだから、彼女もわからなくなってしまったんだろうね」


「……信じてもらえなかった。ということね」


「だけど、イルマを疑ったってわけじゃないと思うよ」


 どう、かしら……?

 嫌な先輩として軽蔑されたかもしれない。

 カリオはすごいわね。嫌われることを覚悟して彼女と接することも試したのだから。


「どちらも信じている。だからこそ、頭の中が滅茶苦茶になったんだと思う」


「……謝らないとね」


 だけど、そんなことすら許されなかった。

 今回の時間では私が本当に軽率な真似をして、シエルを追い詰めてしまった。


    ◇


「ほんっと、扱いやすくて助かるよ! 君もいい仕事してくれたね、ありがとう。……えっと名前なんだっけ? ま、どうでもいっか」


 燃え盛る校舎の中。シエルと私は今にも燃え尽きそうな状態で倒れていた。

 最悪だ……。私があのときもっと慎重に伝えていたら……。


「せ、先輩……。ごめんなさい……。私が……イルマ先輩を信じていれば……」


「大丈夫よ。私の言いかたが悪かったんだから」


 シエルはピルカヤが悪しき精霊ではないと証明しようとした。

 死に物狂いで精霊魔法を特訓し、あいつを実体化させるために本当にたくさんの努力をした。

 そうして、私たちとの共闘という切っ掛けすらなく、ただ一人でピルカヤの実体化に成功してしまった……。


「それじゃあ、今度こそさようなら。ボクを復活させてくれたお礼として、二人ともトドメは刺さないで上げるよ。どの道ここで焼け死ぬだろうけどね!」


 ……前回シエルを殺そうとして失敗したからかしら?

 ピルカヤはシエルに直接手を下さずに去っていった。

 本当なら逃げるチャンスなんだけど……駄目そうね。私もシエルも一歩も動けない。

 助けも期待できない。カリオもヴィルタもトゥリもピルカヤと戦って死んでしまったから……。


 今度こそもう戻れない。

 やっぱり……無理なの? 私たち四人だけじゃ、シエルを救えないの?

 ……救えないのでしょうね。だから、こうして何度も何度も、本当に何度も繰り返しているのに一度も成功しないのだから。

 もう疲れた……。死にゆくあなたを救えない。滅びる世界を受け入れるしかない。


 そうして私の意識は途絶え……る寸前に何かが見えた。

 シエルの魔力が……急激に溢れている?

 まさか……また時間の巻き戻しを?


    ◇


「……どうなっている」


 僕はピルカヤに殺されたはずだ。

 そしてイルマからの情報では、ピルカヤが復活したらシエルはもう必要ではない。

 なら、シエルの巻き戻しなんてもう起こらないはずじゃないか。


「まずはヴィルタに……いや、イルマも来るはずだな」


 チャンスがあるのなら足掻いてやる。

 何度君が死のうと、何度君が僕たちを忘れようと関係ない。

 忘れられる君と違って、僕たちは君を忘れない。

 悪いが僕は諦めが悪いんだ。こうしてもう一度やり直せるというのなら、いくらでも君を救ってみせる。


 すぐに城から抜け出す。

 そんなことばかりが上手くなる自分に呆れつつも笑いそうになる。

 だが、そのおかげでこうして仲間たちと話せているのも事実。悪いことばかりじゃない。


「やあ、カリオ」


「来たか、ヴィルタ。……トゥリ? 珍しいな」


「……」


「トゥリもね。俺たちに任せっぱなしなのは嫌なんだって」


 負い目を感じているんだろうか。

 だけど、無理にこうして話させるつもりはなかった。この子にも悪いことをしてしまったな……。

 年上のくせにふがいない結果ばかりだから、気を遣わせてしまったか。


「悪い。また救えなかった」


「私も一緒に戦った……。だから、お兄ちゃんもカリオもがんばってるのは知ってる」


 そうだな。前回は僕たち三人でピルカヤを止めようとし、あっさりと焼き殺された仲だから。

 そこで完全に僕たちの記憶は消えている。となると、今回も最後まで残っていたのはイルマか。


「ごめん。遅れた」


「いや、問題ない。そもそも時間なんて決めてないからな」


 そんな彼女もまたこの場にやってきてくれた。

 この四人だけが仲間だ。本当ならここに五人目であるシエルも入れたいところだけど、彼女には記憶がない。

 意味不明な集まりに巻き込まれても困るだけだろう。

 ……いや、案外何も考えずに協力してくれそうだけど。


「前回はどうだった?」


 気を取り直してイルマに確認する。

 彼女は辛そうに表情を変えるが、それでも僕たちに語ってくれた。

 自身とシエルの最期を。ピルカヤの状態を。


「ということで、やっぱりピルカヤにはシエルの安否なんてどうでもいいみたい……」


「だけど時間は巻き戻っている。ということは、ピルカヤ以外にシエルを生かそうとしている誰かがいるってことか」


 あるいは、シエルとは無関係にあの惨劇を巻き戻してなかったことにしている誰かが。

 正直なところ、この四人だけではもはや太刀打ちできないのでは? と思っている。

 みんな努力した。強くなった。だけど、そんな力もピルカヤの前では無力だった。

 人数が増えればどうにかなる相手とも思えないが、それでも同じ事情の協力者というのは心強い。


「シエルの救出それが最大の目標だ。そのために、まずは他の協力者も探してみるか……」


「見当はついてる?」


「いや、まったく。これまでのやり直しの中で、僕たちと同じような状況の誰かなんて存在しなかった」


「じゃあ、協力者探し以外にも色々と足掻かないとね」


 ヴィルタの言うとおりだ。

 黒の派閥に人を集めない。シエルと魔族の残滓を遭遇させない。

 そして、シエルを刺激しない……。今回の復活はだいぶ予想外だったからな。


「イルマがシエルにピルカヤのことを伝えていたけれど、証明できればまた違った未来を辿るかもしれない」


「でも、また暴走してしまったら……」


「欺けないようにすれば、さすがのシエルも僕たちの言うことのほうを信じてくれると思う」


 おあつらえ向きに、嘘の鑑定なんていう魔道具が存在するじゃないか。

 それでピルカヤが悪しき精霊だと教えれば、あいつがいくら取り繕ったところで真実が白日の下に晒される。

 さすがにそんな状況でピルカヤを実体化させようなんて思わないはずだ。

 ……それなら、シエル自身が強力な精霊使いとして成長しても問題ない。


「……危険じゃない? ピルカヤに、私たちが敵だってばれる」


「実体化が不完全なピルカヤなら、少なくともあの完全な状態よりはマシだろう」


 そもそも、ピルカヤにはとっくにそれがばれていた。

 今までの僕たちはピルカヤに不信感を与えないように行動していたが、あいつ自身も記憶を継承しているのなら無意味だった。

 ……大方、そんな僕たちを見てあざ笑っていたのだろう。

 だが、もうそんな考えは無意味だ。お前の嘘を暴いてシエルから引き離してやる。

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