表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒はすべてを混ぜる色 ――忘れられる少女と、忘れない者たち  作者: パンダプリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/59

第55話 人類最期の日

「イルマさん。いったいなにが……」


「……逃げなさい。今すぐに学校から。いえ、街から脱出しなさい」


 最低限の指示を出す。そんなことしかできない。

 魔王軍四天王。炎の大精霊ピルカヤ。それが全盛期の力で蘇った以上、私たち人間にできることなんて限りなく少ない。


「イルマさんも早く!」


「平気よ。私はここに残って見届けるから」


 不思議と穏やかな笑顔でみんなと別れられた。

 みんな、逃げられるといいんだけど……。

 そう思いながらゆっくりと、炎に支配された学校を歩く。


 ああ、そういえばこうだったわね。

 目の前の光景が信じられない。だというのに、私はどこか落ち着いた様子で俯瞰している。

 何度目だったかしら。シエルを利用してピルカヤが復活したのは。

 何度目だったかしら。ピルカヤどころか魔族の残滓に手こずって、この光景にすらたどり着けなかったのは。


「大丈夫? しっかりして」


「……」


 息が途絶えた。私の目の前で命が消えた。

 真っ黒に焦げたかろうじて人だとわかるものは、きっと何が起こったかもわからなかったんだと思う。

 私たちが知らせなかったから……? でも、とうの昔にピルカヤの存在を周知する道も選んだことはある。

 シエルを殺して世界は平和になりました。めでたしめでたし。

 そんな最悪の未来を生きることになりそうだった。


 ……それはできない。

 だからといってこれだけの犠牲が許されるはずもない。

 きっと私たちはろくな死に方をしないと思う。

 カリオも、ヴィルタも、トゥリも……。全てを知りながらそれを明かさず、こんな地獄を生み出した。


「ああ……。それでも」


 シエルを助けたい。

 ピルカヤが暴れている。でもシエルは無事だと思う。

 前回のことが遠い昔の記憶なので、少しだけ自信はない。

 でも、たしかにピルカヤの実体化にはシエルが必要だった。

 それは実体化する瞬間だけではなく、肉体の維持にも同じことがいえるみたい。


「だから、シエルを殺したあなたたちを恨みはしない」


 黒い炎が燃え上がる。

 その中から聞こえる悲鳴は徐々に小さくなっていき、そのまま燃え広がる音にかき消される。

 消えたんでしょうね。悲鳴のもとの命が……。


 誰だって死にたくはない。だから、こんなことになる前にシエルを殺すという方法は理解できる。

 でも、納得はできないの……。


「あはははははは!! こんなやつらがボクたちを殺した末裔だって!? こんなくだらない世界のために、みんなが死んだってこと!?」


 そして、ピルカヤ自身も誰かのためなんでしょうね。

 世界を滅ぼす理由はおそらく復讐。遠い昔に人類と戦った魔王軍。そこで彼らは全てを失った。

 精霊であるピルカヤだけが、長い時を経て平和な現代で蘇ってしまった。

 だから、彼は独りで戦争を続けている。人類と魔王軍の最終決戦を続けている。


「誰が悪いって決めるのは無理かもしれない。だから、私は私がやりたいことをするわ」


「ん? あぁ。君、見覚えあるよ。シエルと仲が良かった協奏者でしょ」


「そうね。私にとってあの子はかけがえのない大切な存在。向こうもそう思っているのなら、それ以上の喜びはないわ」


「ふ~ん。ま、どうでもいいや。君には興味がない。逃げたきゃ逃げれば? わざわざ追って殺すつもりもないからね」


 ケラケラと笑う精霊。シエルが言っていた精霊くん。

 先ほどまでの恐ろしい形相は鳴りを潜め、まるで対話可能な存在のように見えてしまう。

 でも、違う。私はこの後に起こることを薄っすらと覚えているのだから。


「それじゃあ、精霊使いの学校なんていう目障りなものには消滅してもらおっか!」


 彼は私を見逃したんじゃない。

 本当に何一つ興味がないというだけ。逃げていいと言った数秒後には、校舎ごと燃やしつくそうとする。

 人間がその数秒で脱出することなんて不可能だけど、彼にはそんなことどうでもいいんでしょうね。

 見逃すつもりなのは本当。だけど逃げきれないなら死んでもかまわない。彼にとっての人間はその程度の存在ってこと。


「はあ……。でも、仕方ないわよね」


 シエルを救うという決意はどこにいってしまったのか……。

 彼女と一緒に暮らせるのなら、繰り返す時間の中も悪くないと思えてしまったいたのかもしれない。

 これは、そうして先のことから目を逸らした罰なんでしょう。


「駄目えっ!!」


 ……死を覚悟した瞬間、私が一番聞きたい声が聞こえた。

 その声に精霊さえも動きを止める。

 そう。彼女の言葉はこの恐ろしい精霊だって無視できない。


「……やあシエル! どうしたの? そんなに慌てて」


「せ、精霊くん! な、なんでこんなこと……。精霊くんがやったの? 違うよね!?」


「あはははは! これを見てボクが無関係だと考えるなんて、さすがに能天気すぎるんじゃないかなぁ!」


 それだけできっと彼女は理解した。

 自分の友人が実はとんでもなく凶悪な存在だったと。

 自分がそれを解き放ってしまったと。

 この惨劇の責任が全て自分にあると……。


「でも、君は生かしてあげるよ。だってボクたち――ともだちなんでしょ?」


「で、でも……精霊くんは」


「君の力のおかげでようやく完全に復活したんだ。だからね。このままボク一人でも人類と戦うよ」


「だ、駄目だよ!」


「なんで? ボクは魔王軍四天王のピルカヤ。君たちは魔王軍と敵対した人類の末裔。まさか本気で仲良くなれると思ったの?」


 そうしてシエルは責任を感じてその命を絶った。

 それが前回の最後の光景。前回時間が巻き戻った理由。

 シエルに死なれては困るから、ピルカヤは大慌てで時間を巻き戻した。


「こ、こんなの嫌だ! 私が目指したのはこんな光景じゃない!」


「だろうねぇ。それじゃあさぁ。ボクが君を殺してあげよっか?」


 ……え?

 ピルカヤが……シエルを殺す?

 なんで? だってそんなことをしたら、ピルカヤ自身が一番困るはずじゃないの。


「前回はさぁ……。君が死んだせいで全部台無しになっちゃったでしょ? だから、わざわざ準備したんだよ。魔族の残滓なんていう面倒な魔力を蓄積してね」


「く、黒飴の話?」


「そう。あの黒くて不気味な魔力。あれ、ボクが保険として溜めておいた魔力なんだよね。あそこまで大量の溜めた魔力があれば、復活後の肉体も維持できるのさ」


 つまり……。あれを脅威とみなしたことが間違いだった?

 ピルカヤが関わっているのだとしたら、あれをシエルと戦わせたのは彼の計算?


「ついでに学校を襲ってしまえば、君たちが協力して対処するでしょ? 君の成長の切っ掛けにしてあげたんだから、感謝してほしいなぁ」


「そ、それは……。で、でもあれはもう倒したはずだよ!」


「倒されたふりだね。あれ、ボクが操ってたの。力の大部分は別の場所に退避させて、こうして復活した後に吸収したってわけ。だからさぁ。君の力がなくても、ボクはなんにも困らないんだよね~」


 まずい……。まずい、まずいまずいまずい!

 シエルが無事だと楽観視していた! ピルカヤにとってシエルは生命線だから、手が出せないと思い込んでいた!

 でも、ピルカヤまで……。時間の巻き戻りを認識していた!

 そして、前回の失敗を活かして対策をとっていた!


 ……なあんだ。私たち人間よりもよっぽどうまく立ち回れるじゃない。

 さすがは太古の精霊。さすがは魔王軍四天王。

 私たち人間なんて、ちっぽけでいくら足掻いても未来の一つも変えられない存在だと痛感する……。


「それじゃあ、嫌なものを見る前に殺してあげる。復活させてくれたお礼だよ」


「あ……」


「やめてぇっ!!」


 手を伸ばして思い切り叫ぶ。

 もちろん、人間に興味を持たない精霊には届かない。

 彼は私の目の前で、シエルを一瞬で黒焦げの何かへと変えてしまった……。


 もう戻らない。

 もう戻れない。

 時間を巻き戻す理由がピルカヤにはない。


 じゃあ、学校中が精霊に襲われるこの未来が……。

 シエルがこの世界から消滅してしまった未来が……。

 これからの私たちの進む未来ってことになってしまうのね。


 ああそっか。それも違う。

 ピルカヤはこれから人類を殲滅する。

 じゃあ、遠い昔の最終決戦の続きは魔王軍の勝利で終結する。

 そうして人類が滅びる。ただ、それだけのこと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ